環境と社会に貢献するVEへ90-2
環境と社会に貢献するVEへ(1992)

VE(バリュー・エンジニアリング)は顧客志向・使用者志向のアプローチだといわれます。その基本ステップである機能定義にしても機能評価にしても、それらは生産者の論理に立つのではなく、使用者の必要とする機能を定義し、使用者の立場からする評価でなければなりません。VEでいうバリュー(価値)とは、顧客・使用者にとっての使用価値であり、貴重価値だからです。
経験豊かなバリュー・エンジニア諸兄姉に対して、このような周知のことを持ち出して恐縮です。しかし、この顧客志向とか使用者志向ということで、直接取引をする相手とかマーケットセグメント(市場細分化)された特定顧客層だけを考えていてよいのでしょうか。

たとえば、トラックのような輸送機器を考えてみます。生産者としては、製品としてのトラックにどのような機能を持たせるか、それには使用者たる運送業者や運転者のニーズを知る必要があります。
最近では、使用者を製品の設計段階に参加させる「生産者・使用者相互作用」の重要性が説かれています。それは確かに必要なことであり、効果の上がる方法であると言えます。

しかし、このトラックは企業や家庭に荷を届けるために公道を走り、また駐車します。そのとき、荷を出したり届けられたりする企業の従業員、一般家庭の人たち、さらにはトラックが走る公道沿線上の人たちが、このトラックに無関心でいられるはずはありません。
つまり、一つの製品の価値は、使用価値と貴重価値として生産者と使用者間の経済的関係のなかだけで決められるべきものではなく、社会環境のなかで評価されるべき「社会価値」を考慮の外に置くことはできません。
――筆者はかつて1977年に中部VE大会で「社会価値分析」について講演し、関連する論文について本VE協会報No.54に紹介しましたが、社会と企業をめぐる状況は今も当時とそれほど変わっているようには思われません。――

狭く特定された顧客志向のアプローチは、多くの物事がシステム的連繋を深めている現代では、企業にとっても社会にとっても決して満足すべき結果をもたらさないと考えられます。一つの特殊とみえる事柄も、今や社会的・自然的総世界と機能的につながっているといえます。
企業が自社製品にVEを適用するというとき、自社製品とその直接顧客という、いわば“閉じたサークル”のなかだけで考えていたのでは、現代の社会と環境のなかで大きく飛躍し、革新的な製品を創り出すことは難しかろうと思います。
一大革新は、眼を社会へ、環境へと広く遠く移すことによって成し遂げられるのではないでしょうか。

「いま、ここで」手掛けていることにのみ努力を集中するのではなく、眼を外へ、自組織と特定顧客の外へ、「社会価値」を求めて社会へ環境へと開いていくことが、VEとバリュー・エンジニアに求められていると思います。
そうすることによって、日常生活に埋没している限り決してみることのできなかった広い地平を望むことができるでしょう。そこに新たな創造への道が開けると思います。
VEは組織を超えるべきである、と言いたいと思います。自組織を超えて社会へ環境へと眼を向けること、そのことが組織に革新をもたらし、ひいては社会と環境に貢献することに通じるのです。
(「巻頭言」『日本VE協会報』No.152 1992.11)


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