ピエール・ギュヨタ『エデンエデンエデン』

榊原晃三訳、二見書房、1972年、680円


ハードコア・ポルノでヌーヴォー・ロマンなフランス産戦争小説。1997年 にペヨトル工房から再刊されている。

原題その他は、
Pierre Guyotat, "Eden, Eden, Eden", Editions Gallimard, 1970.


この本への興味が生まれたのは、レリスやバルト、ソレルスらがベタ誉め してるらしいという噂に触れたのがきっかけだった。とっくに絶版だったので、 しばらく古本屋を探して手に入れた。

噂通り、レリス、バルト、ソレルスという仏文精鋭部隊の豪華な面子によ る序文が付いていた。ジャケットにはおまけにフーコーの言葉も引用されてい る。

●本書への賛辞
ミシェル・フーコー氏 いかなる文学においても、かつて出合ったこ とのないような作品である!
ミシェル・レーリス氏 一つの激昂したエロティスム 人の気に入る ような心遣いなどももたないポエジィ!
ロラン・バルト氏 《エデンエデンエデン》は自由なテキストだ。主 題全体、対象全体、表象全体から自由だ
フィリップ・ソレルス氏 サド以来、これほど大胆、これほど危険に さらされた書はない。

それぞれの序文に目を通し、本文をいくらか読み進んだ後でまた序文に舞 い戻った当時 (1991年頃) の筆者は以下のような抜き書きを残していた。ソレ ルスのは、今となってはどこが気になってメモしたのか、よくわからない。

レリス──「この書には絶対的に譲歩が欠如している」(4ページ)。

バルト──「その美しさはその《転記》(その美しさがそこに反射されると仮 定される現実)に由来するのではなく、その区切られ繰り返される気息に由来 するもので、それはあたかも、著者にとって問題だったのは、もろもろの想像 された情景ではなくて言語の情景を、われわれに描いて見せることのようであ る」(8ページ)。

ソレルス──「唯一の文章のもつさまざまな力を、間断ない衝動によって分割 され運び去られた物質の密集にまでひろげること。有機的で、天上的で、生物 学的で、化学的で、物理的で、天文学的な力学」(14ページ)。

ペヨトル工房版の帯に使われているのは、こんな箇所。

ここにはいかなる神話もなければ、いかなる神もない。動物からの果てし ない回帰の中にいる。文字で書かれた唯一の不毛の爆発の中にいる。 ──フィリップ・ソレルス

まったく稀有のことだが、その文章は幻覚をおこさせる力を持ってい る。──ミシェル・レリス


ペヨトル工房版は新訳でも全面的な改訳でもないが、いくつかの変更が施 されている。レリス、バルト、ソレルスらの序文は改訳。本文に関しては、 「諸般の事情から、あまりにむき出しの用語は避けるように配慮しました」 (訳者あとがき、270ページ) となっていたものが、編集者の裁量でいくつか差 換えられている。[1]

 二見書房版からの変更個所は、
下腹部の先端→亀頭/下腹部の堆積→ペニス/下腹部→性器/亢進→オルガス ム/分泌球→陰嚢/球→睾丸/液→精液/盛り上がる→勃起する [2]

牧歌的な趣きのある二見版の婉曲な言い回しも好きだった。どこを取って も似たような描写が続く作品なので、適当に開いたページから抜き出してみる。

兵士は淫売屋の主人の尻から亢進している最中の下腹部を引き抜き、ベッ ドから下へ飛びおりる。──下腹部の先端がズボンのゴム紐の上でまるまると 膨れて、飛び跳ねる。──兵士が、雌犬のそばに踞る。──液が、充血した下 腹部の先端から、真珠色の凝塊となって飛び出し、腿の巻毛の生えた斜面を流 れる。──兵士は、雌犬をひっくり返し、傷口をつねり、雌犬の後足を掴み、 蜷局を巻いている舞踏蜘蛛を爪で押し潰す (153ページ:原文では「掴」の右 側は「国」じゃなくて「國」)。

こうしたシーンを250ページ描き続ける小説なのである。


注:

  1. 再刊前に翻訳者が亡くなってしまったので、遺族 の了解をもらって変更した。
  2. ピエール・ギュヨタ『エデン・エデン・エデン』 (榊原晃三訳、ペヨトル工房、1997年) 「付記」、278ページ。

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Last Modified : Oct 4, 2002