September,1999

今月の御題目

ボルドー、クラシックワイン
 世界的な銘醸ワインの産地でもあるボルドーは、フランス全体のA.O.C.ワインの約四分の一の産出しています。
 フランス南西部を流れるガロンヌ河とドルドーニュ河がボルドー市の当たりで合流し、ジロンド河へと名前を変え、この両岸に広がるブドウ畑から多種多様なワインが造られます。
 この地方で最も重要視され、多くのワイン愛好家の憧れでもあるメドック地区のワイン。そして今なお、世界中のワイン生産者のお手本とも言える、メドック格付けワインについて.....

メドック地区の格付け

 ボルドー、メドック地区のワインは1855年、約60のシャトーが第1級から第5級まで格付けされました。その時に唯一、シャトー・オー・ブリオンは、グラーヴ地区から例外的に第1級に格付け。また、シャトー・ムートン・ロートシルトは、1973年に第1級へ昇格しています。
 この格付けは、フランス政府の法的効力を持ったものではなく、当時、ボルドー商工会議所が行ったもの。それは19世紀半ば、ロンドンの世界万博博覧会の大成功に嫉妬心を燃やしたナポレオン三世が、パリ万博を世界一のものにしようとします。その中でフランスの誇れるワインを、万博にて展示するという計画が生まれ、その選定をボルドー市、商工会議所に依頼。
 その選定には、考えただけでも数々の問題が発生したことが伺えます。結局、当時のワインの取引相場をベースに、シャトーの格式、評判や名声を加味し決定されたようです。

メドック地区の格付け一覧はこちらへ

メドック格付け第1級(5大シャトー)


シャトー・ラフィット・ロートシルト
シャトー・ラトゥール
シャトー・マルゴー
シャトー・オー・ブリオン
シャトー・ムートン・ロートシルト
 言わずとしれた名シャトー。約1世紀半もの長きにわたり、その名声を保ち続け、現在でもこの地区最高のワインという評価を勝ち得ているワイン達。何故これらのワインは、そこまでの評価をうけているのでしょうか?

瓶熟という特色=シャトーの歴史
 他のお酒にはないワインの特色として「瓶熟」ということがあげられます。一般的には市場に出た時、そのワインはすでに商品であり、当然美味しく飲める状態になっているものがほとんどでしょう。しかしながら、グラン・ヴァンと呼ばれるワインには、出荷されても、そのワインが本来の魅力を発揮するまでに時間のかかる物も少なくありません。
 ドルドーニュ河の右岸、リブルネの台地に広がる、サンテミリオンやポムロール地区には、「ル・パン」「ヴァランドロー」「ラ・モンドット」といったシンデレラ・ワインとして騒がれているワインが多く存在し高値で取引されていますが、それらのシャトーの歴史はわずか20年いや10年にも満たない事が多く、20年から30年といった熟成に耐え、新たなる魅力を発揮するかどうかは、予想はつけど、誰にも分からないのが事実です。
 「5年までは、グレープジュースでワインではない。25年経たないとムートンにはならない!」と語るのは、ムートンの醸造長、ラウル・ブロンダン氏。確かに60年代や70年代の熟成されたワインを飲むと、ワインが過ごしてきた時間に感銘を受けます。
 1707年、ロンドンのガゼット紙の広告に文献上、初めて登場したとされる「ラフィット」「ラトゥール」。何世紀にもわたるシャトーの歴史こそが、そのワインの重要性を物語っているのではないでしょうか。

生産量=企業としてのシャトー経営
 ボルドー格付け第1級ワインの特筆すべき事柄に「生産量」があげられます。以下、それぞれの生産量を書いてみると、

ラフィット・ロートシルト

約18,000〜20,000ケース

ラトゥール

約18,000ケース

マルゴー

約16,500ケース

オー・ブリオン

約14,000〜18,000ケース

ムートン・ロートシルト

約25,000ケース

(以上、ファースト・ラベルのみ)
 この数字が何を意味するのか?例えばラフィットの場合、2万ケースはボトル24万本。セカンド・ラベル(カリュア・ド・ラフィット)を含めると約50万本ものワインが100ha(1km×1km)という広大な畑からワインが産出されます。
 1ha(100m×100m)の畑ならいざしらず、100haの広さの畑を管理することは大変な労力を要します。さらにグラン・ヴァンとしての品質をともなったブドウを栽培しなければならないという事になると、当然のことながら、オーナーとしての経営管理能力、資本といった企業としての力が必要となります。また、それほどの量を産出しながら売れてしまうという市場の評価(需要)を保ち続けるのは、並大抵のことではありません。「市場価格=品質」という意味では、最も安定し、信頼のおけるワインなのではないでしょうか。
 今、カリフォルニア・スーパー・プレミアムなどの生産量の少ないブティック・ワイナリーが騒がれていますが、ちょっとその価格の高騰ぶりには、閉口してしまいます。味わいそのものは素晴らしいのでしょうが、「希少価値」としての価格がかなりの割合で課されているとしか思えません。
 100人の宴会で食するお料理と、2人で行ったレストラン。どちらが満足することが多いですか?消費者を満足させる高品質のものを量産するというのは、大変なことだと思います。

フランスの文化
 次々と生まれてくる新世界の美味しいワイン達。その生産者の多くは、ボルドーやブルゴーニュといったフランスのワインを目標にしていると言います。では、当のボルドーの生産者は何を目標にワインを造っているのでしょう?
 ナポレオン三世が、パリ万博にて展示しようとしたのは、フランスが誇れるもの。つまり国の文化としてのワインをアピールしたかったのでしょう。
 約150年も前の格付けについては、異議もあるのは当然のこと。格付け以下とされるシャトーがあるのも事実です。しかしながら、その評価を尊び、誇りに思う生産者は素晴らしいワインを造り続けています。多分、彼らの目指すものは、ワインというフランス国の文化の継承なのでは。メドック格付けワインを飲むと言葉では形容しがたいワインの存在感を感じます。

参考文献
「ワイン王国」Vol.2
「ボルドー(第3版)」

「今月の味わいのあるワイン」
メドック格付けワイン特集です。

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