August,1999

今月の御題目

AOCワインとは?

AOC:Appellation d'Origine Controlee
アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ(原産地呼称統制ワイン)という意味のこのワイン。フランスでいう、最も高級とされるワイン。さて、それはどんなもの? ということで、今回はフランスワインの基礎の基礎、AOCについておさらいです。

法によるフランスワインの分類
構成比

生産量
38% 2660万kl
1% 70万kl
18% 1260万kl
43% 3010万kl

AOC:Appellation d'Origine Controlee
アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ原産地呼称統制ワイン)
AOC法に基づくワインで、最高の格付けの高級ワイン。
必ず原産地の地名がラベルに表示される。
VDQS:Vins Delimites de Qualite Superieure
ヴァン・デリミテ・ド・カリテ・シュペリュール(上質指定ワイン)
INAOという全国原産地名称協会の検査にパスしたワイン。
AOCに比べると規制はいくぶん緩い。
Vins de Pay
ヴァン・ド・ペイ(地酒)
地ワイン。産地名がラベルに記入され、他地方とのブレンドを禁止している。
Vins de Table
ヴァン・ド・ターブル(テーブル・ワイン

原産地無記名ワイン。ヨーロッパの産地の異なるワインをブレンドし、値段も安く、日常的なワイン。

 フランス国内では、ワインを上記の4つに分類しています。ワイン生産国を多く持つヨーロッパでは、EU(欧州連合)が中心となって、その国々のワインを一定の幅をもって法律を定めています。
 EU法の規定では、ワインを「ヴァン・ド・ターブル」と「指定地域優良ワイン」の2つに品質分類しており、フランスではそれをさらに2つに分類しています。

EUの分類

フランス国内の分類

フランスワイン

指定地域優良ワイン
(V.D.Q.R.D)

A.O.C.

V.D.Q.S

ヴァン・ド・ターブル

ヴァン・ド・ペイ

ヴァン・ド・ターブル

 ヴァン・ド・ターブルからAOCになるにつれ、その品質が良くなる(保証される)ことになる訳ですが、それには当然、厳しい条件が課せられます。
 AOCワインは、生産地域、ブドウ品種、最低アルコール度数、最高アルコール度数(多くの場合)、最大収穫量、栽培法、剪定方法、醸造法、熟成条件、試飲検査といった条件に通ったものだけが、名乗ることが出来るのです。
 フランスにおけるこの厳しいワイン法は、世界中のワイン生産国の手本であり、これにより、品質の低下や不正取引の防止に役立っているのです。

ラベルへの表記

 AOCワインは、必ずラベルに表記されています。上はブルゴーニュのシャンボール・ミュジニーという村名ワイン。赤い文字の下に小さく「Appellation Chambolle-Musigny Controlee」と書かれています。多くの場合、この文字にはさまれた部分がAOCとなっています。
 ボルドーでは、地方名(Bordeaux または Bordeaux Superieur)、地区名(Medoc、Grave など)、村名(Pauillac、Margaux など)に分けられています。
 またブルゴーニュでは、地方名(Bourgogne など)、地区名(Chablis、Cote de Nuits など)、村名(Gevery-Chambertin、Vosne-Romanee など)、そしてさらに畑名(Chambertin、Romanee-Conti など)まで細分化されています。

小さな小さなアペラシオン
 ブルゴーニュのヴォーヌ・ロマネ村にある赤ワインの畑、ラ・ロマネは現在のところフランスで最も小さなアペラシオン(0.84ha)。この畑の周りには、あのロマネ・コンティ(1.8ha)やラ・グランド・リュ(1.5ha)といった小さな銘醸畑が集まっています。どうやら、小さなアペラシオンには意味があるようです。
 南フランス、ローヌの白ワイン、シャトー・グリエもそんなものの一つ。周りは同じヴィオニエ種で作られるコンドリュー(その栽培面積は72ha)というアペラシオンなのに、この3.08haの畑から造られるワインだけに「シャトー・グリエ」というアペラシオンが与えられています。

Chateau-Grillet
シャトー・グリエ

シャトー・グリエ 白 (ヴィオニエ)
('92 12,000)

 「シャトー・グリエ」この名前は、シャトー名、ワイン名、そしてAOC名を兼ねています。コンドリューの地域の中に位置するこのシャトー・グリエは、コンドリューが原産地統制される2年前、1938年にAOC指定を受けました。
 渋谷康弘ソムリエが書かれた「太陽の香り」によると、このシャトー・グリエの歴史は、13世紀から始まっており、この地域は特別扱いされてしかるべき区画ということ。3.08haの畑は、ローヌ河に一番近い南南東の傾斜地を占拠し、1840年よりネイエ・ゴシェ家のモノポール(単独所有)、年間生産量はたったの1万本。これだけ小さな畑がアペラシオンとして認可されているということは、地元の人は何世紀も前から、ここで素晴らしいブドウが出来ることを知っていたのでしょう。
 その味わいは、やはりコンドリュー同様、ライチ、白い花のアロマ、甘い蜂蜜のような香りも感じます。芳醇な香りに対して、飲み口はとてもまろやか。ヴィオニエ種のワインの中でも、スマートな感じがします。
 近年のシャトー・グリエは、やや樹齢が低いということで、それが余韻の短さにつながっているような気もしますが、価格が少し高いことを除けば秀逸な出来であると感じました。
 (ネイエ・ゴシェ家)

ヴァン・ド・ペイ=地酒
 ヴァン・ドゥ・ペイ=地酒。地酒というと、日本の人にも分かりやすいかもしれません。日本酒の地酒と同様にヴァン・ド・ペイといえどもその品質に優れ、高い評価を受けているワインが存在します。
 ドメーヌ・ド・トレヴァロン。プロヴァンスで最良の赤ワインという評判のワインです。
 フランスのAOCおよびVDQSは、INAO(原産地呼称統制委員会)によって管理されていますが、プロヴァンスにおけるカベルネ・ソーヴィニオンの栽培比率が高くなり、原産地の個性が失われるのを懸念し、カベルネの比率を低く制限するよう法改正をしました。
 ドメーヌ・ド・トレヴァロンは、以前「コトー・デクス・アン・プロヴァンス」というAOCで出荷されていましたが、INAOの法改正に反発したエロワ・デュルバック氏は、このワインの近年のヴィンテージを「ヴァン・ド・ペイ・デ・ブーシュ・デュ・ローヌ」として販売しています。


Domaine de Trevallon (Vin de Pays des Bouches du Rhone)
ドメーヌ・ド・トレヴァロン (ヴァン・ド・ペイ・デ・ブーシュ・デュ・ローヌ)

プロヴァンス 赤 (カベルネ・ソーヴィニオン、シラー)
('95 \5,000)

 プロヴァンス最良の赤ワインとして評価の高いドメーヌ・ド・トレヴァロン。エロワ・デュルバック氏が、レ・ボー・ド・プロヴァンスの畑に、カベルネ・ソーヴィニオン種とシラー種(あのシャトーヌフ・デュ・パプのシャトー・ラヤスの苗木)を植樹したのが1974年。25〜30hl/haという低い収量、野生酵母の使用、大樽で18ヶ月以上熟成させたのちブレンド。
 このワインには参りました。一度飲みたかったので、95年を開けてしまったのですが、ここまでしっかりしているとは。。。
 まず黒果実とスパイス香。色はどこまでも深い紫。スワリングさせると、その長い脚によってグラス全体が紫色になったようです。アタックは予想よりは柔らかくブドウのストレートな風味。ただ、その奥にあるタンニンがかなりしっかりしているため、夏場はとくにつらい。久しぶりに飲んだ「強烈なワイン」という印象。素晴らしいワインであることは間違いなさそうですが、10年は熟成が必要なようです。(95ヴィンテージは今開けても美味しく感じないかもしれません。熟成すれば必ずという意味でお薦めマークです。) 
 (ドメーヌ・ド・トレヴァロン)




Les Haut Terrasses (Vin de Pay de Vaucluse)
レ・オー・テラセス(ヴァン・ド・ペイ・ド・ヴォクリューズ)
ローヌ 赤 (シラー100%)
('95 \5,000位)

 ローヌ南部でシラー100%にて造られるヴァン・ド・ペイ(地酒)。その凝縮した果実味に驚き、スパイシーな風味と元気なタンニンを持つ骨格のあるワイン。何故このワインがヴァン・ド・ペイなのか?
 南仏ヴォクリューズ県にあるAOC(シャトーヌフ・デュ・パプ、ジゴンダス、ヴァケラス他)はブドウ一品種によるワインの生産は許されておらず、指定品種を何種類か混ぜて造らなければならないという規定があります。このワイン、そんな法律を吹き飛ばすようなワインです。
(Damaine des Amourlers)

お買い得のヴァン・ド・ペイ
 上記のドメーヌ・ド・トレヴァロンなどは、その評価の高さから、流通価格も高くなっていますが、本来のヴァン・ド・ペイは、とてもお手ごろで、コスト・パフォーマンスのよいワインが沢山あります。
 ラングドックのヴァン・ド・ペイ・ドック(Vin de Pay d'Oc)は、地酒の生産地としては有名で、ヴァン・ド・ペイのなかでも、比較的見かける銘柄ではないでしょうか。この中から最近飲んで美味しかったワインを紹介します。


Cigala Vin de Pay d'Oc
シガラ・ヴァン・ド・ペイ・ドック
ラングドック 赤 (シラー、グルナッシュ、ムルヴェードル、カリニャン)
('96 \1,000位)

 ローヌを代表する造り手、シャプティエがラングドックで造るヴァン・ド・ペイ。「シガラ」というのは、オック地方の言葉で「幸せ」を意味します。
 このワイン、そのブドウ品種が示すように、本当に「南フランスらしい」ワイン。スパイシーな香り、フルーティーな果実味が素直に伝わり、コクも感じます。ミディアムボディでなめらか。美味しいワインです。
 このワインを飲んで感じた事。ヴァン・ド・ペイもきちっとした造り手になるとかなりの高水準のワインが出来るという事。そして近年、著名な評論家の間でも注目されているラングドック。「日常消費用ワインの生産基地」という認識は変えていく必要がありそうです。

ワイン法の意味
 ワインはあまりにも種類が豊富なため、フランスでは詳細な規定がワイン法(AOC法は1935年制定)によって定められています。なんと、現在AOCとして認められている原産地は約400を数えます。これはワインとしての文化、歴史、原産地の個性を守り、そして消費者への安全、品質の保証という意味において大変意義のある法律でしょう。
 しかしながら、トレヴァロンのように、単にその規制からはずれているという意味での秀逸なワインも存在します(イタリアのスーパー・VdTのように)。
 また、ヴァン・ド・ペイやヴァン・ド・ターブルといったワインがフランスの総生産量の約6割を占めているという事からも分かるように現地で飲まれているワインのほとんどは、本当に日常用。あえて出来の良くないワインを飲む必要はないと思いますが、たまには美味しい「地酒」を探してみると、またワインの楽しみが一つ増えるような気がします。

参考文献
「ワインの自由」
「太陽の香り」

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