July,1999 (2)

今月の御題目

オレゴンのピノ・ノワール
 最近、ワイン好きのなかで密かに話題のオレゴン。日本には、やっと数々の銘柄が入って来るようになりましたが、アメリカでは、すでにその品質には定評があるようです。人気のオレゴン、少し紹介します。

国際ピノ・ノワール祭
 アメリカ、オレゴン州マクミンヴィルで、1987年以来、毎年7月の最後の週末に開かれている「国際ピノ・ノワール祭:International Pinot Noir Celebration」。各国の生産者やピノ・ノワール好きが550名集まるその祭典は、気さくで陽気な催し。週末の3日間を会議やテイスティングで費やすのだそうです。
 アメリカ国内やフランス各地からもシェフが駆けつけ、見事な料理とともに、ピノ・ノワール、シャルドネが供されます。8人がけのテーブルに12本のワインが並び、その組み合わせはテーブル毎で異なるため、隣のテーブルのワインと物々交換なんて光景が見られるとか。とっても楽しそうなお祭り、そしてオレゴンのピノ・ノワールは、すでに世界的に認められているようです。

オレゴンの先駆者たち

 オレゴンに最初に近代的なワイナリーをはじめたとされるのが、カリフォルニア大学デイヴィス校出身のリチャード・サマーという青年。ヒルクレスト・ヴィンヤーズというワイナリーを興した彼が最初に植え付けたのはリースリングだったようです。

 その後、1966年、同じデイヴィス校出身のディヴィット・レットがオレゴン北西部ウィラメット・ヴァレーにピノ・ノワールを植え、ジ・アイリー・ヴィンヤーズを開きます。このワイナリーの1975年物が、今日のオレゴンのピノ・ノワールの名声を築く、先駆けとなったのです。

1979年、パリの品評会
 1979年、パリで行われた比較試飲会(ゴー・ミヨー主催)。この試飲会で名高いブルゴーニュを尻目に第3位に輝いたのがオレゴンのジ・アイリー・ヴィンヤーズ。この結果に疑問を抱いたドルーアンは、翌80年、より厳密な試飲会を要請します。
 ヨーロッパの専門家からなる審判団がドルーアンの招請をうけて、ボーヌの旧ブルゴーニュ公の裁判所に会し、ワイン12品をブラインドでテイスティング。ドルーアンは、ブルゴーニュ6品(シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ’61、ボーヌ・クロ・デ・ムーシュ’78、シャンボール・ミュジニー’59など)を、他各国のピノ・ノワールが含まれていたと言います。その結果は.....
 第1位こそ、ドルーアンのシャンボール・ミュジニー’59(70点)だったものの、2位は僅差で、オレゴンのアイリー・ヴィンヤーズ’75(69.8点)、3位がドルーアンのシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ’61(66.5点)という評価だったのです。

ブルゴーニュの名門 ドルーアンの挑戦


Domaine Drouhin Oregon Pinot Noir
ドメーヌ・ドルーアン・オレゴン・ピノ・ノワール

オレゴン 赤 (ピノ・ノワール)
('96 \6,000)

 1880年より続くボーヌの名ネゴシアン、ジョセフ・ドルーアン。そのドルーアンが今オレゴンで大々的に力を入れているのが、このドメーヌ・ドルーアンです。ドルーアンがオレゴンに進出する契機ともなったのが、上記の79年ピノ・ノワール品評会でした。
 今では、天皇陛下訪米の際、クリントン大統領主催の歓迎晩餐会でも供されたというこのピノ・ノワール。オレゴンで最も人気のある銘柄となっています。
 このワインについて、造り方云々言いたくなくなりました。本当にバランスのとれたピノ・ノワール。赤い果実の甘い香り、新鮮な酸味、柔らかなタンニン、このヴィンテージですでに美味しい。重くなく軽くなく、食事をより美味しく感じさせるワインです。(ドメーヌ・ドルーアン)

ICI/LA-BAS ここに/あそこに?


ICI/LA-BAS "Les Reveles" Oregon Pinot Noir
イシ・ラバ ”レ・ルヴェル” オレゴン・ピノ・ノワール

オレゴン 赤 (ピノ・ノワール)
('96 \5,500)

 「ici」ここに、「la-bas」あそこに、という意味。このワイン、オレゴンのピノ・ノワールのはずなのに、ラベルには「Santa Maria, CA」での醸造、瓶詰めとなっている。
 つまり、あのオ・ボン・クリマのジム・クレンデネンが、オレゴンで採れたブドウをカリフォルニアまで、運んでワインにしていたのです。


 何故、あのジム・クレンデネンがオレゴンのワインをわざわざ運んで造っているのか? BBSで「ピノ・ノワールさん」が詳しく教えて下さいましたので、注1をご覧下さい。

注1:「イスィ・ラ・バ」はオー・ボン・クリマのジム・クレンデネンがつくっているオレゴンのピノ・ノワールで、葡萄は通常、Montinore Vineyardのものが使われてます。収穫された葡萄を1.5m立方ほどのプラスチック製容器に入れて、ドライアイスで冷却しながらサンタ・マリアのワイナリー(キュペやコスタ・デ・オロが同居している、ワインメーカー長屋)へ運び、低温マセレーションを行った上で除梗し、発酵させています。

オレゴンから運んでいるというと、「大丈夫なのかな?」と思われるかも知れませんが、低温マセレーションをしているのと同じ環境で、1日で運んでいますので、腐敗や酸化、脱水やpHの上昇は特にみられませんでした。

オレゴンの葡萄を使っている理由は、ジム・クレンデネンがその果実味に寄りすぎないスタイルに興味をもっていることと、一般にオレゴンはカリフォルニアよりも収穫が遅いために、サンタ・バーバラのピノ・ノワールの醸造が終わった後の発酵タンクをもう一度利用できるからです。

これは、赤ワインの生産者が資産回転率を上げるために白ワインも醸造するのと同じで、経営に大きなインパクトを与えます。

ジム・クレンデネン自身は本拠をサンタ・マリアから動かすつもりはないのですが、堅いニュアンスのあるオレゴンのワインを特定のキュヴェにブレンドすることによって複雑味を与えることができると考えており、実際、1996年ヴィンテージ以降、最上級キュヴェの「イザベル」にはオレゴンもブレンドされています。

(この情報は、1992年ヴィンテージに関するものですので、現在でもこの通りかどうかは定かではありません。)

ロバート・パーカー氏も進出!?

Beaux Freres Pinot Noir
ボー・フレール・ピノ・ノワール

オレゴン 赤 (ピノ・ノワール)
('96 \10,500)

「なんと、あのパーカー氏もオレゴンへ」なんて言うとビックリされるかもしれませんが、嘘のような本当の話。実はパーカー氏の妹のご主人が運営に当たっており、パーカー氏も出資しているらしいのです。
 オレゴンで最も凝縮したピノ・ノワールと言われるこのワインの初ヴィンテージは91年。年間年産量は約2500ケース、新樽100%使用、ノンフィルターという彼らしいこだわりです。
 DRCに匹敵するワインを造ろうと思っているのか、そのボトルの重さは、半端じゃない。上記のイシ・ラバも重いけど、それより重いか?

 ちなみにあるサイトには、パーカー氏自身がこのワインを、オレゴンの中でトップクラスの評価をしたと掲載されておりましたが、これは誤情報のようで、パーカー氏は、自身がワインメーカーであることと、ワイン批評家であることの相いれない部分をよくわきまえており、彼自身でBeaux Freresのワインに関してコメントしたことはない、と言われているそうです。また、Beaux Freresのディストリビューターには、「このワイナリーのオーナーはロバート・パーカーである」というようなセールス・トークをすることを禁じているということ。
 しかしながら、ワイン・スペクテイターはBeaux Freresにオレゴンで最高の評価を与えています。
(ボー・フレール・ヴィンヤード)

オレゴンのこれから
 何本かのワインを頂いてみても、その品質はすでに素晴らしい段階にあるようです。この地域が約30年で、ここまでに発展したということも特筆すべき事柄でしょう。
 数々の本によれば、シャルドネ、そしてリースリングやゲヴルツトラミネールなどの品種も栽培され、かなりの高品質であるとされています。
 ワイン産業が発展し、新規の参入者の投資も容易になっていくオレゴン。さらにアメリカの好況の中でも、電子機器メーカーを中心に好景気に沸いていると言われます。(他の州からの労働力の流入を防ぐため、大手企業自らこの先数年間の雇用数を制限するほど。)
 当然、数が増えれば品質にも、かなりの開きが出てくることが予想されます。日本においては、まだまだ情報が少ないこの地域のワイン。ワイン関係者の方には、もっともっと紹介し、情報を教えて頂きたいと思います。

このページをつくるにあたり、有意な情報を教えて下さった
ピノ・ノワールさん、本当にありがとうございます。

参考文献
「世界一優雅なワイン選び」
「誰でも納得!赤ワイン」

今月のお題目 目次
今月のお題目 前回 今月のお題目 次回


class30 "The Wine"