June,1999 (2)

今月の御題目

シャンパーニュ..."S"
 夏が近づくと、どうしても飲みたくなるお酒。そして、特別な日に欠かせない飲み物がシャンパン。今回は、シャンパンの中でも、特別で希少なことでも知られる「サロン」を紹介します。

ユジェンヌ・エメ・サロンという男
 サロンを生んだ、ユジェンヌ・エメ・サロンという男。彼は19世紀末、シャンパーニュ地方の車大工職人の家に生まれ、やがてパリに上京。幼少の頃より、大志を抱いていたという彼は、毛皮商として働き、若くしてその才能を認められる事となります。一躍会社の経営を任せられるまでになり、新世紀を迎え好況に沸く華やかなパリの社交界にデビュー。最上の物と人々に囲まれた生活を謳歌する彼にとって、シャンパーニュはなくてはならないもの。そんな彼にとって、その時代のシャンパーニュは、彼を満足させるものがなかったと言います。
 「ないのならば、自分と友人たちの舌を楽しませるものを造ろう」という粋な男の思い付きが、サロンの始まりだったようです。

100%格付け畑、ブラン・ド・ブラン
 そこでエメは、コート・デ・ブラン地区の100%格付けのグラン・クリュ、ル・メニル・スュール・オジェ村の畑を5ha購入。この畑から獲れるシャルドネだけを使ったブラン・ド・ブランのシャンパンを造ったのが1911年。当然このシャンパンは、エメの友人達の間だけで楽しんだプライベートなものだったようです。
 当時、そして現在においても画期的とも言えるコンセプトに基づいて造られたシャンパンは、瞬く間に評判を呼び、シャンパーニュ会社を設立することに。1921年、同じル・メニル・スュール・オジェ村の20の栽培家たちのつくるシャルドネの供給を受け、シャンパーニュ・サロンの初ヴィンテージが造られました。

「幻」のシャンパーニュ
 サロンがどうして「幻」のシャンパーニュなのか?
 会社設立にともない、他の栽培家からのブドウの供給により、単一畑という概念は崩れたものの、1921年に発売されたサロンは、シャンパーニュの歴史上、初めて市販された「ブラン・ド・ブラン(シャルドネ種だけで造られるシャンパン)」だったようです。
 そして、「最高の年に最高の技術で醸造したヴィンテージ・シャンパン」という言葉通り、サロンとして質の見合わない年のブドウは、同じグループのドラモットへ回され、限られた年にしか造られません。現在77年間で造られたサロンはたったの32ヴィンテージ。さらに年産4万〜5万本という生産量の少なさを考えれば、まさに「幻」という言葉がふさわしいのかもしれません。

サロン 1988


Salon
サロン
('88 \12,800)

 現在、シャンパーニュ地方でも特異な存在であるこのメゾンが造るシャンパンは、この1種類のみ。シャルドネだけを使ったブラン・ド・ブラン、ブドウの出来の良い年にしか造られないヴィンテージ・シャンパン。
 1980年代に生産されたのは、82年、83年、85年、88年だけで、85年にいたっては未だ出荷されず、2000年を祝ってこの年末にリリースされる様子。88年は現在出荷されている最も新しいヴィンテージです。(この後、1999年の秋に85年がリリースされました)
 一番搾りのキュベだけを使い、マロラクティック発酵を行わない。しかも熟成期間は平均10年、最低でも7年間はカーブで熟成させたのち発売となります。
 サロンの名声を確かなものとしたのが、あのマキシム。1920年代、パリの美食家の社交場でもあったマキシムのハウス・シャンパーニュとなり、当時の紳士淑女の注目を集めたと言われます。

 このシャンパンが飲めたという事だけで幸せ。噂に違わず、その細やかな泡立ち、白ワインにも通じる熟成香、ナッツやバターのニュアンス、エレガントな酸味、素晴らしいワインです。しかしながら、まだ果実の硬さも感じられ、これから一段と熟成される姿が想像されます。
 こういったシャンパンは、大切な人と共に、ゆっくり楽しみたいもの。これからも、多くの紳士淑女の仲をとりもつ役割を演じることでしょう。"S"は大好きな頭文字です。
(サロン)

参考文献
ワインマガジン Vol.2
ヴィノテーク Dec.1998

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