ワインと音楽。とても魅力的で想像力を掻き立てるもの。実はこのサイト、開設当時は「Music
Like Wines」というネーミングでした。 今回は「ちょっと変わった視点からワインを見てみるのもいいかな?」と思い、こんなお題目に。この2つの共通項を考えてみます。 |
ワインを飲む時、一番ドキドキする瞬間がコルクを開ける瞬間でしょう。「どんな味がするんだろう?」「期待通りかなあ?」なんて考えてる時が本当に楽しいものです。 音楽を聴く時もそうなのです。LP(もう死語かな?)の針を落とす瞬間。今のCDでは味わえないのですが、1曲目が始まる前の数秒の間「シャー、シャー」という得も言われぬあの雑音。あれが好きだったのです。 そしてオープニング。ここで、90%決まると言ってもいい。そこから引き込まれるか、冷めていくかは、続く曲次第。 ワインもそうですね。最初の香りでかなりの部分が判断できるのでしょう。時間が経つにつれて、徐々に変わっていく表情。そこにもまた味わいがあります。 やっぱりワインは飲んでみなけりゃ分からない。そう音楽も聴いてみなけりゃ分からないのです。言葉じゃ伝わらない部分って、本当に多いように思います。 |
ワインのとても魅力的な、そして芸術的なものとして「エチケット(ラベル)」があります。「エチケット」の語源は、昔ベルサイユ宮殿の庭の花壇が踏みにじられ荒らされた時に「花を大切にしましょう」という立て札がたてられ、この札のことを「エチケット」と言ったそうです。その後、意味が転じて「人の心の花を乱さないように」「人に不愉快な思いをさせない」「人を思いやる心」となりました。そういう意味でも、ワインのラベルには、造り手の飲み手に対する想いが表現されているのかもしれません。 毎年変わる有名画家の絵画で有名なのが、ご存知シャトー・ムートン・ロートシルト。コクトー('47)、ダリ('58)、ムーア('64)、シャガール('70)、ピカソ('73)、ウォーホール('75)など、華やかな絵画で飾られています。ムートンの他にも、オーストラリアのルーウィン・エステートが造る「アート・シリーズ」、アルゼンチンのナバロ・コレアス社の「コレクシオン・プリバダ(プライベート・コレクションの意味)」(写真右)などが、毎年変化する絵画で人々を魅了しています。 そして、最近感じるのが、ワインのエチケットが簡素なものは「造り手の自信が伺える」という事。先日飲んだ「プピーユ」というワイン。なんと、エチケットに「Poupille,
Cotes de Castillon, 1996」としか記されていません。 音楽の世界もそう。究極のジャケットは、ビートルズの「ホワイト・アルバム」でしょう。68年11月に発表されたこの2枚組のアルバムは「真っ白」。何枚目のレコードを買ったのか分かるように、通しナンバーが打たれただけの物でした。「ホワイト・アルバム」というのも通称で、実はアルバム名がない。「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(後にポールの死亡説のネタにもなった、ド派手なジャケット)という世紀の名作を生んだ後、彼らがすべてを「白紙」に戻したかったという意志が伺えます。 これはロッド・スチュワートの「アトランティック・クロッシング」(1975年作品)。故郷イギリスを離れアメリカに活動拠点を移した記念すべきアルバム。文字どおり「大西洋を渡る」ロッドの長い脚が印象的なアート・ジャケット。イギリス第2の国歌とも言われる名曲「セイリング」収録。(ロッドのページはこちらへ) |
どんな仕事でも裏方の世界があります。音楽の世界で言えば重要なのがプロデューサー。そのアーティストの魅力を引き出しながら、曲を作り、編曲をこなし、個性に「色」を加えます。人気プロデューサーは引く手あまた。多くのアーティストに関わり「時代の音」を築いていきます。 R&B界で最も好きなのがベイビーフェイス。彼自身7枚のオリジナル・アルバムを発表していますが、素晴らしいのはそのプロデューサーとしての仕事。(詳しくはこちらをご覧下さい) 他にも、クインシー・ジョーンズ、トム・ダウド、アリフ・マーディン、ジャム&ルイス、N.M.ウォルデンらが時代の音を作ってきました。 |
今、ワイン界においても同様の事が起こっている。そうワインコンサルタントです。現在に至るまでも、ボルドー大学のエミール・ペイノー教授や、80年代ブルゴーニュにおいて一世風靡した、ギイ・アカなどが有名ですが、今最も注目されているのが、ミッシェル・ロランでしょう。 そして、カリフォルニアで忘れてならないのが、トニー・ソーター。80年代にスポッツウッドのマダム・ノヴァックに見初められ、卓越したカベルネ・ソーヴィニヨンを造った彼は一躍有名に。以後、ヴィアデアやアラーホ、そして91年からは、あのコッポラのルビコンも手掛け、ボルドー・ブレンドのスペシャリストとして活躍しています。しかしながら、自ら経営するワイナリー「エチュード」ではピノ・ノワールを造る。ピノ・ノワールという品種は、やはり造り手を引き付けるものがあるのかもしれません。(左の写真がエチュードのエチケット。これもまたとてもシンプル。) |
音楽とワイン、この2つの最も共通している部分は、どちらも嗜好品という要素が強い事だと思います。好きな音楽もあれば、嫌いな音楽もある。そう、好みのワインもあれば、気に入らないワインもありますよね。あるワインついて、とても誠実に接してらっしゃる方からメールを頂き、こんなことをおっしゃってました。 「ワインに限らず食というものはじつは嗜好の領域が多いにも関わらず"ああすべき、こうすべき"という雑音が多いように感じます。」 本当にそうですよね。「こんな味が好きだからこのワインを飲む」「この人が造ってるワインだから飲みたい」「この国のワインがいいなあ」「やっぱりワインは高い物に限る」。ワインを飲む理由がいづれにせよ、飲む人の嗜好が最優先されるべきしょう。 造り手も同様に、例えば「こんな料理に合うワインを造ろう」なんて思う人はいないと思います。それは、食べる人が合う合わないというに過ぎないのでしょう。目標とするワインを造るという理想のもと、それを全うした人が高い評価を受けている。それに過ぎないのでは。 |
もっと自由にワインを楽しめる時がくれば、この国も本当の意味での「ワイン先進国」への仲間入りが出来るような気がします。 |
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