May,1999

今月の御題目

80人もの造り手、クロ・ド・ヴージョ
ドメーヌ・ルロワ、ジャン・グリヴォー

 近頃特に話題のブルゴーニュ・ワイン。今回はブルゴーニュの中でも特異な村であり、また逆にブルゴーニュらしいとも言えるクロ・ド・ヴージョの特集です。

クロ・ド・ヴージョ
 上はまたまたまた登場のヴォーヌ・ロマネ近隣マップ。
 これで見ていただければ分かるように、ヴォーヌ・ロマネ村の北側になるヴージョ村。グラン・クリュ、クロ・ド・ヴージョは、クロ(石垣)に囲まれています。
 1110年にシトー派大修道院によって設けられた、その約50haの区画は、コート・ド・ニュイのグラン・クリュの中で最大の大きさ。80名以上もの栽培者や生産者に分割所有されている事でも有名です。 
 また上記地図の「Chateau」とあるのが、「コンフレリ・レ・シェヴァリエ・デュ・タストヴァン(利酒騎士団)」の本拠地です。ここで、毎年ブルゴーニュのブドウ園や酒商から出品されたワインの中から、優れたワインを選び、“タストヴィナージュ・オリジナルラベル”が与えられています。

本当にグラン・クリュ?
 上の地図を見て変だと思いませんか?地図は、下から上に向かって斜面の上部となります。上の方が高い。一般に、ブルゴーニュは、斜面の上部の方が水はけが良く、いいワインが出来ると言われているのですが。。。
 クロ・ド・ヴージョは、グラン・クリュ(特級)です。でも、他のグラン・クリュより斜面の下部に当たる部分が多いですよね。もし、こんなに広い区画が石垣で囲まれていなかったら、ただの村名ワインになっている部分も多いかもしれません。

難解な区画(畑と造り手)

 実際にクロ・ド・ヴージョは、3つの土壌に分かれているらしい。「石灰石の多い」上部「砂利の多い」中部、そして「粘土質の多い」下部
 修道院が所有していた時代にも、彼らはその事が分かっていて、それぞれ「教皇の畑」「王の畑」「修道士の畑」として扱っていたそうです。つまり上部の方が土壌も良いと言う事。

 しかしながら、この区画をもっと難しくしているのが、造り手の数。その数なんと約80名。これでは選ぶのも大変です。
 一般には上部の畑を持っている生産者が良いクロ・ド・ヴージョを造り出すようですが、ワインに対する情熱により、斜面下部から秀逸なワインを造る生産者もいます。

 以下、斜面下部から造られる、素晴らしいクロ・ド・ヴージョを紹介します。

参考文献
堀賢一 「ワインの自由
山本博 「フランス・ワイン・ガイド
 R.パーカー 「ブルゴーニュ
星谷とよみ 「マダム・ルロワの愛からワイン


クロ・ド・ヴージョ(ジャン・グリヴォー)

Clos de Vougeot
クロ・ド・ヴージョ

ヴージョ 赤 (PN,Pb,PL)
('89 \4,000位 375ml)

 ジャン・グリヴォー。ヴォーヌ・ロマネ村の名家として知られ、現在は5代目当主、エチエンヌ・グリヴォーの手によるドメーヌ。
 ジャン・グリヴォーがクロ・ド・ヴージョに所有する畑は1.9ha。そのすべてが斜面下部ながら、秀逸なワインを生み出すのは周知の事実のようです。

「ワイナート」春号の記事によると、
「自分がこのドメーヌで働きはじめてから今までは、3つの時期に分けられると思います。82年から86年までは、父の元で勉強していた時期。87年から91年、ある意味では92年までは、抽出をテーマに毎年試行錯誤していた時期。そして93年から現在のアッカドを離れて自分のやり方を見つけた時期です。」というエチエンヌの談。

 この89年のクロ・ド・ヴージョ、彼が「抽出をテーマ」にしていたというのがよく分かります。斜面下部のブドウとは思えない程の凝縮感、その香りはボルドーにさえ似ています。10年経った今も衰えの兆しは全く見せず強い。幾分かインクのような感じも。
 このワインは、いいワインだと思います。ただ、本人の談からも分かるように、技巧的なのかも。ブルゴーニュらしくないワインかもしれません。


クロ・ド・ヴージョ(ドメーヌ・ルロワ)


Clos de Vougeot
クロ・ド・ヴージョ

ヴージョ 赤 (PN,Pb,PL)
('93 \40,000位)

 偉大なるルロワ。ルロワは、以前は斜面下部の南端しか持っていませんでしたが、ドメーヌ・ノエラの持ち区画を含む、シャトー南側のかなり広い区画を手に入れました。現在、畑の面積は1.9ha。
 大部分が「修道士の畑」斜面下部から産出されるブドウながら、クロ・ド・ヴージョの中で最も高く評価されているのが、このドメーヌ・ルロワのワイン。
 1992年に、ロマネ・コンティと決別した悲しみ。そして「ミデュー(シャンピニオン)」が発生し、ぶどうにとって大変困難な年だったという93年のルロワ。そんな年のワインを100点満点を与えられるまでにしたのは、マダム・ルロワ本人の「働いて働いてまた働いた」という情熱と苦労の賜物なのでしょう。
 このワインには、「総生産量」と「通しナンバー」が記されています。

「総生産量」2249本、「ナンバー」0122

 通常の年であれば、7000本前後の生産量が普通でしょう。2249本というのは、通常の約3分の1。それだけ収穫が大変だった上に、厳しい選別を行ったことが伺えます。まさに奇跡のワイン。
 その味わいと共に、私自身、人生で最上のワインとなりました。

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