March,1999

今月の御題目

ロバート・M・パーカーJr. 「ボルドー第3版」出版

 昨年秋頃から、噂されていたロバート・パーカーJr.の 「ボルドー第3版」(日本語版)がようやく出版されました。出版を記念(?)して、この待望のボルドー詳解書を紹介致します。

ロバート・M・パーカーJr.
 ロバート・M・パーカーJr.1947年生まれ。元、弁護士。 現在、ワイン評論家の中でも、最も影響力を持つ著名な人物。1978年、ワイン情報誌「ワイン・アドヴォケイト」を創刊。ワインに100点満点で評点をつける形式で有名に。彼の評論は、辛口な事でも知られ、その一言でワイン市場の価格が変わるほどになっています。
 ここで紹介する「ボルドー」の初版は、1985年に刊行、のち1991年に「ボルドー1991年改訂版」、そして今回の「ボルドー第3版」が出版されました。ちなみに「ボルドー第3版」の定価は13000円(税別、講談社)。

「ロバート・パーカーの100点満点ワイン」は、
こちらで特集しています。




「ボルドー 第3版」(日本語版)

「ボルドー(第3版)」
 ロバート・M・パーカー・Jr
 (講談社、13000円)

 いやはや、びっくりするくらいの厚さ。前回の改訂版(91年)を、さらにパワーアップ。全ページ数は、なんと1671ページ。これ、全部読むだけで大変です。発売が延期になってたのも納得しました。推敲だけでも大変な作業でしょう。


この本は、全部で8つの章から成り立っています。
第1章:この本の使い方
第2章:ボルドー・ヴィンテージの総括:1945年から1997年
第3章:ボルドー・ワインの評価
第4章:ボルドー・ワインの格付け
第5章:偉大なボルドー・ワインが生まれる要素
第6章:ボルドーを飲む人のためのガイド
第7章:ボルドーを訪れる人のためのガイド
第8章:ワイン用語集
 そして、いいのは、巻末のIndex。日本語の50音順で、全掲載シャトーが並んでいます。これは、とても引きやすく考えられています。

 当然、この中でもっとも多くページがさかれ(約1400ページ)、メインとなるのは第3章:ボルドー・ワインの評価でしょう。

 左はその中のサンプル(オー・マルビュゼ)ですが、非常に懇切丁寧に書かれています。

上から、そのシャトーについて
格付け、畑の位置、所有者、住所、郵送住所、電話、見学。

畑について
面積、平均樹齢、ブレンド比率、密植度、平均産出量、平均年間総生産量。

そのシャトーのグラン・ヴァンについて
ブランド名、アペラシオン、平均年間生産量、育て方。

セカンド・ワインについて
ブランド名、平均年間生産量。

あと、現在の格付けの評価飲み頃の続く期間が掲載され、のちに、そのシャトーの全体的な総括、そしてヴィンテージ毎の評価(61年から97年)へと続きます。
 なんと言っても、ここ数年のヴィンテージ(95年から97年)について詳しく書かれているのは、役立ちそうです。グレート・ヴィンテージになりうる年、そして、少々価格は高いけれども、今流通しているヴィンテージだからです。
 いづれにせよ、現在、出版されている書籍のなかで、最も詳細なボルドーのワイン書と言えそうです。


パーカー氏は消費者の味方?

 「ボルドー第3版」を読んで(当然、まだすべては読んでませんが)感じたことは、「パーカー氏は消費者の味方」だということ。第1章:この本の使い方の冒頭には、このように書かれています。

 「いかに多くのボルドー・ワインが、秀逸なヴィンテージのものだと言われていたにもかかわらず、(中略)ほどんど味わうに値しない、(中略)、その一方で、批評家たちが”はずれ”と評したヴィンテージに、あなたが最高に楽しめたボルドー・ワインのいかに多くあったことか。(中略)本書は、そんな問題を解決するために書かれた、ボルドー・ワインに関する消費者向けのガイド・ブックである。」

 この一文には、素直に感動しました。これだけの著書が書かれる場合、よく「専門家やプロ向け」というクダリが多いのですが、きっぱりと「消費者向け」と書かれています。このスタンスこそが、この本のすべてを物語っているように思えました。
 個々のシャトーの歴史はどうなのか、どういう醸造過程を経ているのか、オーナーやメートル・ド・シェ(醸造長)はどのような気質の人なのか、出来上がったワインは市場の評価に見合う品質なのか、など、出来るだけの「ワインの真実」を消費者に伝えようとして書かれたものなのでしょう。「辛辣な言葉」「辛口」という世評がありますが、確固とした人に頼らない姿勢は、かえって好感が持てました。

ワインとの出会い
 実際、私自身が飲んだワインから、その評価を読んでみたのですか、当然、感じたイメージがかなり違うものも、少なくありませんでした。この本の中にも、「多くの読者から、このヴィンテージに関する評価はおかしい」と言われ、再度試飲を繰り返し、評価をやり直したとも、書かれています。
 他の酒類と違うワインの魅力の一つに、「出会い」という要素が強いように思います。その1本のワインをあける時期、ボトル毎の違い、保管の状態、サービス時の温度、消費者の体調・環境、などなど、様々な要因によって、味わいが変化します。これだけのワインの権威と言われる方が、ボルドーだけで1671ページもの本を書いても、ワインの全ては伝えきれない。「ワインは生きている」と言われる所以もよく分かります。
 今日の今この時間にも、世界中でそんな素晴らしいワインとの「出会い」を求めて、飲み続けている人も多い事でしょう。
 自分の嗜好をしっかり持った上で、この偉大なる書を読めば、最良のボルドー・ワイン選びの指標になるように思います。


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