February,1999 (2)

今月の御題目

交響曲 作品第1番
オーパス・ワン

 ワインには、文化があります。世界各国の名産地で、土地の特色を引き出しながら、伝統を守ってきた生産者達。しかしながら近年、また新しいワイン造りが始まっています。ここに、あげる2本のワイン、世界的に定評のあるワイナリーが手を結び、新しい可能性に挑戦したものです。

オーパス・ワン
 ラベルに描かれる陰影の二人が、この偉大なる作品を創り出した中心人物。一人は、フランス、ボルドーの一級シャトー、シャトー・ムートン・ロートシルトのバロン・フィリップ・ド・ロートシルト氏(1988年に他界)。そしてもう一人が、カリフォルニアのリーダー格、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーのロバート・モンダヴィ氏。 この名匠のジョイントというだけど、ワイン好きには、たまらない1本です。(バロン・フィリップ・ド・ロートシルトについては、こちらで詳しく特集しています。)
 オーパス・ワンとは、音楽でいう「作品番号一」という意味。この命名は、バロン・フィリップ氏の「一本のワインは交響曲であり、一杯のグラス・ワインは、メロディーのようなもの」によるもの。なんとも洒落たネーミングです。
 初ヴィンテージは、1979年。畑はカリフォルニアのナパ・ヴァレーのオークヴィル。生産量、年間約二万ケース。セパージュは、カベルネ・ソーヴィニヨンが90%前後、残り10%がカベルネ・フランとメルローで構成されています。
 このワインのリリース当初、話題を独占し、現在でもカリフォルニア・スーパー・プレミアムの中でも、最も有名な物の一つです。

ルーチェ
 97年10月にリリースされ、いきなり騒がれたのが、このルーチェ・デッラ・ヴィーテ
 前出のロバート・モンダヴィが、今度はイタリア、トスカーナの名門、フレスコバルディと組んで創り出すこのワインは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノで生まれるVdT(ヴィノ・ダ・ターヴォラ)。「オーパス・ワン」同様、ボトルには両氏のサインが。
 93年と94年が同時にリリースされ、現在は95年まで、出荷しています。セパージュは、サンジョベーゼ・グロッソとメルロー。サンジョベーゼ・グロッソという品種は、イタリアの「キァンティ・クラシコ」や「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」といった名品を生む、サンジョベーゼを改良した品種。それと、メルローという組み合わせに、飲む前からとても興味が湧きます。ちなみにルーチェとは、「ブドウの樹の光」という意味。 



America-California


Opus One
オーパス・ワン

ナパ・ヴァレー 赤 (カベルネ・ソーヴィニヨン主体)
('95 \20,000位)

 なにはともあれ「作品番号一」。これいいワインです。なにがいいかと言えば、95年という、まだ若いかな?とも思った懸念が一気にふっとばされました。抜栓直後から美味しく頂けるのです。そして約2時間の間、渋味と酸味が少しづつバランスを取りながら増して、ヴォリュームも一層出てきます。
 R.パーカー氏が言う「偉大なワイン」の一つの要素として、「いつどんな状態でも美味しく感じられる」という事を聞いたのですが、まさにその通り。このワイン、今飲んでも十分に美味しく、かつ5年、10年と熟成していくであろうパワーを感じます。
 香り、味わい共に、「太陽を浴びたブドウ」というイメージ。まだまだ若々しい奇麗な色ながら、完熟したブドウの甘い香りが漂い、上品なカベルネ・ソーヴィニヨンの素性の良さが伺えます。非常にバランスのいい味わいは、とてもなめらかで、十分な果実味が感じられるものの、決して重くはなりません。飲んだ後、口のなかに味わいが広がり、最後にしっかりしたタンニンが舌の上に残る感じが印象的でした。
 このワイン、ボルドーとカリフォルニアの合作。しかし、れっきとしたカリフォルニア・ワインです。現在のカリフォルニアのスタイルを再認識させてくれました。
 2万から3万円という価格が高いかどうかは別として、ワインの背景と共に、非常に魅力的な1本である事は間違いありません。
(ロバート・モンダヴィ&バロン・フィリップ・ロートシルト)

Italy-Toscana

Luce
ルーチェ

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ地区 赤 (サンジョベーゼ・グロッソ、メルロー)
('95 \20,000位)

 全体的な印象としては、やはり今までに味わったことのないタイプ。このワインのすべてを理解できる人は、かなり精通されてる人かなという印象です。そして意外だったのは、どんどん表情が変わっていく事。
 とても濃い赤みがかった紫色。アロマは強烈なタイプではなく、どちらかというと、いいメルローのワインのように優美な感じ。当初は酸味が前面に出てワイン自体が繊細な感を受けるのですが、後にどんどん果実味が増します。30分もたつ頃には、甘味さえ感じ、このワインの名前の意味「ブドウの樹の光」のごとく華やかさが満開になりました。ただ、もう少し熟成させたらどうなるかが楽しみです。
 このワイン、今の相場では、2万から3万円の間で取引きされてるようです。初ヴィンテージが93年なので、実際にその価値があるかどうかは、もう少し先の話になるでしょうが、現在の話題性では、文句なくトップクラス。そしてなによりボトルデザインが素晴らしい。高級感、気品、粋なボトルです。これを、テーブルに置いてワインを飲むだけで、いい気分です。
(ロバート・モンダヴィ&フレスコバルディ)


次なるジョント・ベンチャー

 現在、ロバート・モンダヴィとバロン・フィリップ・ロートシルトを中心として、ジョイント・ベンチャーの動きが激しくなっているようです。

 98年の1月にリリースされたのが「セーニャ:SENA」。これは、ロバート・モンダヴィとチリのエラスリスのジョイント。チリのアコンカグア・ヴァレーにある、エラスリスの自己所有畑「ドン・マキシミアーノ」のブドウから造られ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、そしてカルメネレという品種のブレンド。これを飲んだイタリア・レストランのオーナー曰く、「今まで飲んだチリワインの中で最高」というのですが。

 そして最新の話題作が「アルマヴィヴァ:ALMAVIVA」。98年9月に発表された、このワインは、バロン・フィリップ・ロートシルトとチリのコンチャ・イ・トロの合作。名前の由来は、モーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」の登場人物、好色アルマヴィヴァ伯爵だとか。
(セーニャ、アルマヴィヴァ共に、「ヴィノテーク」誌参照)

ジョイント・ベンチャーの意義

 数々のジョイント・ベンチャーの作品達。確かに巷を騒がせています。そこで「はて、ジョイント・ベンチャーとは?」と考えると。
 やはり、二国間の文化の融合、そして新しき挑戦でしょうか。最高の畑から、最新の技術とノウハウ、そして醸造学を用いて、考えうる最高のワインを生み出す。単純に言えばそうなのでしょう。
 今回のオーパス・ワンとルーチェを飲んで気付いたのは、まずオーパスには、ある程度完成されたスタイルがあるという事。数々の本のレポートを見ても、リリース当初と今ではスタイルが違うようです。現在のカリフォルニア・ワインの指針ともなりうる「これがオーパス」という魅力に満ち溢れたスタイルは、79年から15年以上の歳月を経て、造り出されたもののように感じました。(当然、時々の市場の好みもあるのでしょうが。)

 ルーチェは、まだまだ可能性が残されている気がします。当然のことながら、質の高さは感じられますし、いいワインです。ただ、私にはどんな味を目指しているのか理解出来なかった部分もありました。(多分、セーニャ、アルマヴィヴァもそうなのでは?)

 ものづくりには、時間が必要です。「名作は一日にして成らず」、あまり急がず、騒がず、ゆっくり毎年毎年、「作品」の新しい挑戦と変化を期待したいと感じた今回でした。

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