February,1999

今月の御題目

ブルガリア ヨーグルト、それともワイン?


 私達にとって、ブルガリアと言えばやっぱり、ヨーグルト。「からだイキイキ、元気!」ってコピーが頭に浮かびます。
 実はこの国、トラキアと呼ばれていた三千年前、それ以前からワイン造りが行われていた、世界最古のワイン産地の一つだそう。旧ソ連の解体に伴って、この国のワインを取り巻く事情が変化しつつあるようです。
 今回は、コスト・パフォーマンスの高い、ブルガリア・ワインの特集です。

ブルガリアって何処?

 旧共産圏の国々って、馴染みが薄いし、何処のあるのか正確に把握出来ていない人も多いと思います。(私がそう。)
 上の地図を見て頂ければ分かるように、黒海を囲む国々の一つで、首都はソフィア。このソフィアから、黒海に向かって「ハ」の字に、バルカン山脈とロドピ山脈が伸びています。緯度は北緯43度から44度位。ちょうどイタリアのローマからフィレンチェに当たります。(いいワインができそうです。)

 ブルガリアでは、1950年代にロシアへの輸出用にカベルネ・ソーヴィニヨンなどの品種が植えられ、今では瓶詰めワインに限ればフランスに次いで、世界第二位の輸出量だそうで、長い間イスラム教の影響下にあったせいか、国内での消費は少なく、総生産量の90%が輸出されています。
 78年に原産地呼称法を導入、85年に改正され、現在27のコントロリラン(原産地呼称)があります。

 では、最近人気の2社のワイン達を紹介します。




ドメーヌ・ボイヤール
 91年、約50年ぶりに出来た民間のワイン企業。10のワイナリーを傘下に収める最大の民間企業です。
 質の高いブルガリア・ワインを甦らせたとして、ラベルにブルガリア王室シメオン2世の紋章を付することを認められた唯一のワイナリー。(輸入元:メルシャン、シャルドネ&アリゴテのみ興南物産)


Domaine Boyar Cabernet Sauvignon Royal Reserve
ドメーヌ・ボイヤール・カベルネ・ソーヴィニヨン・ロイヤル・リザーヴ

ヤンボール 赤 (カベルネ・ソーヴィニヨン)
('94 \2,380)

 1989年の共産主義政権崩壊後、スペインへ亡命していたシメオン王がブルガリアに一時帰国したのを記念して、特別限定醸造された赤ワインがこれ。昨年春の「ブルータス」の東欧対決で、見事ぶっちぎりの一位だったワイン。
 実際に、この価格は現地ブリガリアでは一般の給料一ヶ月分で、大統領の晩餐会などで飲まれるという事。
 だからという訳ではないのですが、本当に美味しいワインです。ぶどうの凝縮感もありながら、樽のニュアンスが見事に調和して、甘さを感じます。今飲んでも十分に魅力がありますが、もう少し置くこともできるでしょう。初ヴィンテージが89年。その後90年、94年が出ています。



Domaine Boyar Cabernet Sauvignon Reserve

ドメーヌ・ボイヤール・カベルネ・ソーヴィニヨン・リザーヴ

ヤンボール 赤 (カベルネ・ソーヴィニヨン)
Domaine Boyar Merlot Reserve
ドメーヌ・ボイヤール・メルロー・リザーヴ

ルビメッツ 赤 (メルロー)
(共に'95 \900)

 この2本に関しての説明は、この一文につきます。「セブン・イレブンで売っていた。」 あの優良企業セブン・イレブンが売るワインです。それもわざわざ、ブルガリアワインを。それだけで、コスト・パフォーマンスの高さが、そして日本人の嗜好に合っているかがうかがえると思います。
 事実、この価格にして、十分です。すでにまろやかな口当たりで、決してタンニンや酸味といった要素が前に出ず、果実の甘さが印象的。初めてワインを飲む方にもお薦めのワインです。




Domaine Boyar Chardonnay (Barrel Fermented)
ドメーヌ・ボイヤール・シャルドネ

ポモリエ 白 (シャルドネ)
('96 \1,100)

 「 ”黒海の黄金”と讃えられるポモリエ地方のシャルドネでつくられた白ワイン。オーク樽での発酵による豊かな香りと厚みのあるリッチな味わい。辛口。」という裏ラベルのコメント。
 「リッチな味わい」はちょっと大袈裟かな?でも、このドメーヌ・ボイヤールのワインを飲んで思うのは、「樽の使い方が上手だなあ」という事。すごく研究されてると思います。このワインの場合、酸味とミネラル分が十分に活かされています。スッキリした飲み心地に満足です。 



Domaine Boyar Country Wine Chardonnay & Aligote
ドメーヌ・ボイヤール・カントリーワイン・シャルドネ&アリゴテ

パブリケニ 白 (シャルドネ、アリゴテ)
('96 \1,200)

 ブルガリアで「カントリーワイン」とは、地方ワインでも2品種をブレンドして造られたものを指すようです。これは、シャルドネとアリゴテのブレンド。
 意外(?)とも言えるほど美味しく頂けたワインです。アリゴテのきりっとした酸味が中心のワインなのですが、ボディも物足りないという事もなくて、いいバランス。ほんのりとフルーツ香や、甘味も感じられ飲みやすく仕上げてあります。ちょっと冷やし気味で飲むと美味しい。




ヴィニンペックス社
 89年の民主化以前は、ブルガリアでのアルコール類の専売公社。首都ソフィアにあり、民営化の進む中、今でも約50%のシェアを持つ会社です。ここのワインのブランド名「セイント・トリフォン」とは、ブルガリアのワインの守り神「聖トレフォン」の意味。
 ここで紹介する2本の他、カベルネ・ソーヴィニヨン・リザーヴ、メルロー・デビュー、シャルドネ・スペシャル・リザーヴ、シャルドネが輸入されています。(輸入元:日本リカー)

Saint Toriffon Cabernet Sauvignon Special Reserve
セイント・トリフォン・カベルネ・ソーヴィニヨン・スペシャル・リザーヴ

スリヴェン 赤 (カベルネ・ソーヴィニヨン)
('91 \1,300) 

 裏ラベルのコメント:「ブルガリアの中東部、バラ渓谷地域スリヴェン地区産の厳選されたカベルネ・ソーヴィニヨン種ブドウから造られて赤ワインです。アメリカン・オークの樽で約1年熟成。柔らかくてフルーティなアロマがオークの香りとよく調和しており、豊かなボディの後味も長く続きます。赤身肉やチーズに良くあいます。室温(16〜18℃)でお楽しみ下さい。」


Saint Toriffon Merlot Special Reserve
セイント・トリフォン・メルロー・スペシャル・リザーヴ

ハスコヴォ 赤 (メルロー)
('91 \1,300) 

 裏ラベルのコメント:「ブルガリアの南部、トラキア平原地域ハスコヴォ地区産。優良ヴィンテージのメルロー種ブドウを厳選して限定生産されます。アメリカン・オークの小樽で約2年間熟成。フルーティな香にオークのアクセントが感じられます。味わいは、ソフトでバランスが良く、かつ深い後味も素晴らしいワインです。牛・肉・鶏などあらゆる種類の肉料理やチーズの理想的なパートナーです。お飲みになる約一時間前に抜栓し、室温(16〜18℃)でのサーヴィスをお薦めします。」


 セイント・トリフォンは2本とも、共通の印象を持ちました。91年ながらきれいな赤紫色。まず、トップノーズで、それぞれの品種らしい豊かな香りがして、ぶどう自体の質の高さが分かります。その後、かすかな熟成香と共にヴォリュームが出てきます。タンニンもしっかりしていて、1000円そこそこのワインとは思えません。
 ただ、このワインをフランスのワインと比較してはいけないように思います。アメリカン・オークの香りが強いのです。どちらかといえば、スペインのワイン(ジャン・レオンのような)を意識して造っているのでは?
 個人的には、この価格にして、これだけしっかりしたワインは評価できると思いますが、ちょっと造りすぎの印象。メルロー・スペシャル・リザーヴの裏ラベルに書かれている「約一時間前に抜栓し」というのは分かる気がしますが、1000円そこそこのデイリーワインを約一時間前にと言われても。飲んでいないので推測ですが、スペシャル・リザーヴよりカベルネ・リザーヴやメルロー・デビューの方がバランスがいいのではないでしょうか。今度試してみます。

これからの東欧
 今回のワイン達を飲んで、両社の違いはあったものの、「ぶどうの品質は非常に高いのもがある」という事を認識できました。また、ドメーヌ・ボイヤールのように、国際市場を十分に考慮し意識したボトルデザインや、テイストの付け方などが感じられ、とても興味深く思いました。共産主義政権崩壊後、丁度10年。これからもっと期待できる東欧のワインに間違いありません。 

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