August,1998 (2)

今月の御題目

ムートンはムートンなり! バロン・フィリップの情熱
Ch.Mouton Rothschild
シャトー・ムートン・ロートシルト
ポイヤック 赤 (CS80,CF10,M8)
('90 \34,000)
 メドック格付け第1級ワイン。1855年の格付けでは第2級でしたが、1973年、例外的に第1級へ昇格。
 毎年、著名画家によりラベルが描かれる事でも有名。全世界にそのコレクターがいます。

1855年の格付け
 ボルドーのメドック地区には、シャトーに格付けがされています。これは、1855年に制定されたもの。当時の流通価格を参考に、ボルドーのクルティエ(生産者とネゴシアンの取引きを仲介するブローカー)によって行われました。
 この時のムートンに対する評価は第2級。当時のナサニエル男爵が、ムートンの畑を購入したのは、格付け2年前の1853年。前所有者が品質に投資を怠っていたため第2級に評価された事に対して「首位に立つを得ずといえども、二位に甘んずるを肯んず。ムートンはムートンなり。」という有名な言葉を残しています。

バロン・フィリップ・ド・ロートシルト
 ナサニエル男爵のひ孫にあたる、バロン・フィリップ・ド・ロートシルト。彼は、ナサニエルの遺志を受け継ぎ、ムートンの品質を向上させるとともに、ボルドーのワイン産業に数々の功績を残しました。

・シャトー元詰め運動
 ボルドーのワインも1920年代前半まで、ブルゴーニュのようにワインをネゴシアンに樽ごと売却していたようです。そのため、同じシャトーのワインでも、ネゴシアンによって品質にムラがあり、これを嫌ったフィリップは、1924年に全てのムートンのシャトー元詰めを始めました。また同時に他の各シャトーにも働きかけ、ボルドーは現在の形のシャトー元詰めになりました。

・セカンドワインの発売
 
ムートンは、1927年ヴィンテージよりセカンドワインを発売しています。当時の名前はカリュアード・ド・ムートン。これはのちにムートン・カデと改名され、ACボルドーのブレンド・ワインとなり、現在では世界的なブランドとなっています。
 セカンドワインは1993年にル・スゴン・ヴァン・ド・ムートン・ロートシルトとして復活。翌94年からル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロートシルトと改名されています。
 また、サードワインはポイヤックとして発売。

ムートンの絵画ラベル
 もともと芸術に関心の高かったバロン・フィリップは、1924年にジャン・カルルによる絵画ラベルを始めました。いったん中止されましたが、第二次世界大戦の勝利を記念し1945年に特別なラベルをつくったのをきっかけに、以後毎年、著名な画家がムートンのラベルを描くようになりました。
 ジャン・コクトー('47)、マリー・ローランサン('48)、サルバドール・ダリ('58)、ヘンリー・ムーア('64)、セザール('67)、マルク・シャガール('70)、パブロ・ピカソ('73)、アンディ・ウォーホール('75)、堂本尚郎('79)、キース・ヘリング('88) などなど。
 今回頂いた90年の画家は、”今世紀最も素晴しい現代画家”と呼ばれ成功したフランシス・ベーコン(1909-1992)。
 来年の正月にベーコンのモデルであり愛人ジョージ・ダイヤーとの関係に焦点を当てた映画”愛の悪魔 - LOVE IS THE DEVIL”が封切になるようです。

良いワインの余韻
 やはり素晴らしいワインですね。色々な逸話を知って飲むと、また感慨深いものがあります。(それもワインのいい所)
 メドック格付け第1級という意味を十分に感じることができました。新樽使用100%、熟成期間は約20ヶ月です。
 濃いガーネット色に少しレンガ色がかっています。スパイス系の香りや甘い香りが複雑に混じりあっていて、当然重厚なワインなのですがその中に、調和のとれた優しさのような味わいがしたのがとても印象的でした。余韻(後味)は、しっかりしたタンニンがエレガントに長く残ります。
 よく”余韻が長い”とか言いますが、最近私が思う事は、”いいワインを飲んだ後は、何を飲んでもそのワインの後味がする”ということです。それだけ、味覚的にも、感覚的にも印象が強いんだなって思います。今回も、後で水を飲んでも、コーヒーを飲んでもムートンの味がしました(笑)。

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class30 "The Wine"