August 1998

今月の御題目

ぶどう選び、ワイン選び ぶどうの品種あれこれ

 誰が「赤ワインは体にいい」って言ったのか、「愛する人との最期はシャトー・マルゴー」という台詞が一人歩きしたからか、まだまだ続きそうなワインブーム。フランスやイタリアの価格は高騰するし、今まで気にしてなかった新世界ワインがどんどん輸入されて、美味しいって評判になるし、一本のワインを選ぶのも大変な時代になりました。まあ、選択肢が増えるのは歓迎ですが。
 そこで、今回はワイン選びにおいても重要なポイントになる、ぶどう品種についておさらいしてみようと思います。
 特にアメリカ、チリ、オーストラリアなどの新世界ワインは、使用しているぶどう品種を名前にしているヴァラエタル・ワインが多いので、ぶどうの特徴を覚えておけば、そのワインがどんな味なのかは比較的簡単にイメージ出来るようになります。
 それでは、ちょっと教科書的なページになりますが、フランス原産の代表的なブドウ品種を中心にその特徴を簡単にまとめてみましょう。


赤ワイン用品種

カベルネ・ソーヴィニヨン

フランス、ボルドー地方の代表的品種。メドックの有名シャトーのワインは、ほとんどこの品種を主体に造られています。
渋味(タンニン)と酸味のしっかりしたワインになります。
一般的にボルドー地方の物は長期熟成型に、また新世界ワインは、早くから飲めるように仕上げてある物も多いようです。
若いうちは、インクのような香りがする事もありますが、熟成につれて本来のベリー系の香り、さらに濃縮されたジャムやプラムの香りに。
病害に強く、比較的どんな土壌にも適応するので、現在では世界各地の比較的温暖な地域で栽培されています。
ポイント:やはりメドックのワインは素晴らしい物が多く捨て難い。しかし、今ではカリフォルニアやチリなどの安くて美味しいカベルネ・ソーヴィニヨンに注目したい。
主な産地:フランス(ボルドー)、アメリカ(カリフォルニア)、チリ、オーストラリア他、各地。
写真は、シャトー・ランシュ・バージュ(ボルドー)

メルロー
これもフランス、ボルドー地方の代表的品種。多くの場合、カベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドして使われ、丸みやしなやかさを出す手助けをします。
ボルドーのメドックやグラーブが、カベルネ・ソーヴィニヨン主体なのに対して、サンテミリオン、ポムロールなどの地域では、メルロー主体のワインが多く生産されます。
通常、カベルネ・ソーヴィニヨンよりタンニンが少ないため、早めに熟成し、果実味豊かなヴォリュームたっぷりのワインになると言われます。

ポイント:ボルドー地方、ポムロール地区の高価な事でも知られるペトリュスやル・パンもメルロー主体のワインです。また、アメリカでは今、メルローブームらしく、その柔らかで果実味豊かなメルローに人気が集まっているらしいです。初心者の方は、カベルネ・ソーヴィニヨンよりメルローの方が飲みやすいと感じると思います。
主な産地:フランス(ボルドー)、アメリカ(カリフォルニア)、チリ、オーストラリア他。
写真は、シャトー・トロタノワ(ボルドー)

ピノ・ノワール

フランス、ブルゴーニュ地方の赤ワイン用品種。ボージョレ(ガメイ種)を除き、ブルゴーニュのほとんどの赤ワインは、ピノ・ノワール主体です。
華やかなで優雅な香りが特徴。タンニン(渋味)は上品で控えめ、やわらかな酸味があります。
若いうちはチェリーやいちごのような果実のフレッシュな感じ、熟成にしたがって土やなめし革という複雑な香りになります。
このピノ・ノワールは土壌や気候を選ぶ繊細な品種のため、栽培が難しく、ブルゴーニュ地方以外で栽培されている産地はあまり多くありません。
ポイント:ピノ・ノワールを味わうには、やはりブルゴーニュの物がお薦めです。ただ、コスト・パフォーマンスを考えると当たりはずれも多いので、比較的廉価なAOCブルゴーニュなどから試されるのをお薦めします。
アメリカやオーストラリアなども徐々に生産量が増えています。味わいのニュアンスはブルゴーニュとは、少し違いますが、香りは素晴らしい物が多いように思います。
主な産地:フランス(ブルゴーニュ)、アメリカ(オレゴン、カリフォルニア)、オーストラリア他。
写真は、ロマネ・コンティ(ブルゴーニュ)

シラー
フランス、コート・デュ・ローヌ地方を中心に栽培される品種。
色素や糖分が多く含まれているため、濃いルビー色の渋味、酸味ともにしっかりした力強いワインになります。
カシスやスミレのような香り、そしてスパイシーな香辛料系の香りが特徴です。
オーストラリアでも「シラーズ」という名前で広く栽培され、よりヴォリュームのある赤が造られています。

ポイント:シラーを使った有名なワインは、ローヌ北部の「エルミタージュ」や「コート・ロティ」。どちらもしっかりしたワインなので重厚な肉料理と一緒にどうぞ。
南仏のプロヴァンスやラングドックでは、シラーやグルナッシュなどの品種を使って、良いワインを造る生産者が増えています。ここも要チェックです。
主な産地:フランス(コート・デュ・ローヌ、プロヴァンス、ラングドックなど)、オーストラリア、アメリカ(カリフォルニアの一部)他。
写真は、エルミタージュ(コート・デュ・ローヌ)

その他の赤ワイン用品種
カベルネ・フラン
フランス、ボルドー地方でカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローとブレンドされて使われます。また、ロワール河流域でも裁培され、ロゼや赤ワインになります。
ガメイ
ご存知のボージョレを造る品種。フレッシュな香りと、軽快な酸味が特徴。主に若いうちに飲むタイプです。
タナ
フランス、南西地方で使われます。スパイシーでしっかりしたコクと渋味、動物的な香りがします。
サンジョヴェーゼ
トスカーナ州原産、イタリアの代表的品種。あの「キャンティ」が造られる事でも知られています。渋味、酸味、甘味がバランス良くまとまったワインになります。
ネッビオーロ
イタリア、ピエモンテ州の原産。有名な「バローロ」「バルバレスコ」を生む品種。タンニンを多く含み、長期熟成型のワインになります。
テンプラニーニョ
スペインを代表する赤ワイン用品種。しっかりしたコクと渋味、これも長期熟成型のワインになります。


白ワイン用品種

シャルドネ

フランス、ブルゴーニュ地方の原産。辛口白ワインの代表的な最優良品種です。
キリッとした上品な酸味とアルコールのヴォリューム感があります。
洋梨やりんご、桃のような香りがする事があります。
熟成させた物にはバターやナッツのような香り、また木樽を使った物にはバニラのような香りが生まれます。
世界のワイン生産地で栽培されていますが、ブルゴーニュに似た、温暖過ぎず冷涼過ぎない地域を好みます。
有名な「シャブリ」もシャルドネで造られています。
ポイント:個人的には最も好きな白を造る品種です。繊細で、優雅な白を求めればブルゴーニュという事になりますが、果実味たっぷりのヴォリュームのある味わいが好きな方には「新世界」のワインもお薦めです。
主な産地:フランス(ブルゴーニュ)、チリ、オーストラリア、アメリカ(カリフォルニア)、イタリア(北部)他各地。
写真は、コルトン・シャルルマーニュ(ブルゴーニュ)

ソーヴィニヨン・ブラン
フランス、ボルドー地方原産の白ワイン用品種。現在では世界中で広く生産されています。
軽やかな辛口白で、多くはフレッシュでフルーティーなワインになります。
その造られた地方の気候で、風味が異なるのも特徴で、冷涼な地域で造られた物は、シャープな酸味があり、ハーブやレモン、青い草木のような香り。また温暖な地域になるにつれハーブ系の香りは弱まり甘みが増してきます。

ポイント:「シャブリ」が好きな方には、ロワール河上流の「プイィ・フュメ」がお薦め。オーストラリアやアメリカでは、「フュメ・ブラン」とも言われます。
主な産地:フランス(ボルドー、ロワール)、アメリカ(カリフォルニア)、チリ、オーストラリア他、各地。
写真は、パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー(ボルドー)

その他の白ワイン用品種
セミヨン
貴腐ワインで有名な「シャトー・ディケム」を造る品種。ソーテルヌ地区やバルザック地区ではこのぶどうを主体に甘口の白が作られます。
アリゴテ
ブルゴーニュ地方の白ワイン用ブドウ品種。酸味のきわだった爽やかなワインになります。食前酒のキールを作るのにも適したワイン。
ミュスカデ
ロワール地方、ミュスカデのワインに使われ、フルーティーでフレッシュなワインになります。ぶどうの名前がそのまま地名になっているので、「ミュスカデ」というワインはよく知られていると思います。
リースリング
ドイツぶどうの王様、リースリング。ライン河やモーゼル河の流域では、上品でやや甘口の白が造られます。ドイツでは、冷涼な厳しい気候条件の中、質の高いワインが造られます。


ワイン選びの第一歩!

 現在でも、世界中でワインを造るために裁培されているぶどうの品種は約500から600種類あると言われます。その中でも、良質な物が約50種。でも50種類も覚えてもソムリエになる訳ではないので無意味でしょうね。
 ここに挙げた代表的な品種の名前や特徴を一応記憶しておくと、ワインを選ぶ時、また飲む時にも楽しみが増えると思います。
 ぶどうの品種を覚えるのがめんどくさい人は、新世界のワインをお薦めします。ラベルに「カベルネ・ソーヴィニヨン」とか「シャルドネ」とか品種名が表示されている事が多いので、助かります。また、フランスなどのワインに比べ、比較的価格も安く、消費者が好む飲みやすい味に仕上げてある物が多いので、これからワインを飲む人には最適でしょう。
 それと、一番最後に挙げたリースリング。今は、しっかりした赤ワインが流行っているので、注目されてないかもしれませんが、歴史のあるドイツの白ワインはやはり素晴らしいと思います。やや甘味のあるすっきりした白は、日本の食文化や風土にも合ったものでしょう。価格的にもあまり値上がりしてませんし。
 実は、私が一番最初に入ったワインはドイツの白でした。今のワイン・ブームの後、ドイツワインへの回帰が起こるかもしれません。

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