October,1998 (2)

今月の御題目

「マダム・ルロワの愛からワイン」

 今月は、一冊の素晴らしい本を紹介致します。

「マダム・ルロワの愛からワイン」
 
著者:星谷とよみ
文園社発行 2500円

 この本を読んで、私自身、ワインについて感じていたことや、近年の日本のワイン事情について疑問に思っていたこと、それらが、マダム・ルロワを通してストレートに書かれていて、本当に感動しました。
 このページを作るにあたり、著者の星谷様に手紙を出したところ、快くホームページに載せる事を承諾して下さいました。本当に感謝致します。

マダム・ラルー・ビーズ・ルロワ
 ルロワ社は、フランスのブルゴーニュ、ヴォーヌ・ロマネに本拠を構えるドメーヌ兼ネゴシアンです。その品質、また長寿のワインを造るという意味でもDRC(ドメーヌ・ドゥ・ラ・ロマネ・コンティ)と並んで、ブルゴーニュの巨頭と言われます。ただ、DRCとは違い、ルロワは最上のグラン・クリュから、AOCブルゴーニュまで幅広くワインを造っています。多分、全世界のワイン愛好家が認めるドメーヌです。
 マダム・ルロワは、父、アンリ・ルロワのもと、超一流のネゴシアンとして今日のルロワ社の名声を築いた人物。ワインに関して世界最上の味覚、テイスティング能力の持ち主と言われ、厳しい品質管理により素晴らしいワインを造りあげます。
 70年代から80年代にかけて、化学肥料や農薬の散布によって偉大なるブルゴーニュの土地、ワインの味が微妙に変化しているのを感じたマダムの舌。その鋭敏な感覚が、彼女自身を苦しめていく事になります。「私が買いたくなるようなワインがなくなってきたのです。」

ビオディナミ
 その後、マダムは自身の試飲に叶うワインが少なくなった事を憂い、自社畑の根本的な改良に取り組むようになります。
 ビオディナミは、植物肥料だけを用いて天体との連動効果を畑にもたらす農業で、中世から行われていたもの。500年にもわたる農業の知恵から生まれた農法です。
 「天と地の恵みで葡萄が育つ。」文字にすれば簡単ですが、農薬等を使わないという事は、様々な病気におかされる危険も増大しますし、収穫量にも変化を及ぼします。さらに、最終的により厳しい剪定も必要になるでしょう。
 マダムは、それらの困難を乗り越え決断しました。1988年より、この手法により自分の舌に叶うワインを造っています。マダム曰く「自分が納得するワインが造りたかっただけ。」

「ワインに聴く」

ワインを語る人は大勢います。
しかし、ワインに聴く人は本当に少ないのです。
ワインを知りたいのなら
ひたすらワインに聴くことですよ。
ワインはメモワールです。
さあ、目をつむって、お口に含んでごらんなさい。
- マダム・ラルー・ビーズ・ルロワ -

 この本を読んで、私達は一番大切な事を忘れているなと思いました。「ワインに聴く」ということです。
 多分、この本に惹かれたのは、星谷さんの想いが切実に伝わってきたから。
 ワインを語るのは面白い事です。私にもそれは理解できます。ただ、語るのはその製品を批評すると言う事。批評する事を仕事とする人以外がしても、それはただの遊び、ゲームでしかありません。
 それよりも、大切なのはやはり、その味というより造りに何かを感じられるかという事だと思っていました。一人よがりかも知れませんが最近美味しいワインに出会うと、その畑や造り手のことを想います。どんな所でブドウが育ってるんだろう、どんな心遣いで造られているんだろうって。
 私にとってのワインの魅力は、その歴史や背景、また造り手の情熱というものが、万物に通ずるものだという事です。今の日本において、大変な経済の激動の時代、私達が忘れていたものがここにあると思うのです。まさに「ものづくり」の原点だと思えるのです。

星谷とよみ

 星谷さんは、1983年、初めてマダム・ルロワに会って以来、マダムのワイン造りを追い続けた方。マダム・ルロワが自分の舌に叶うワインを造るべく、農業を根本から変える間、ブルゴーニュまで何度も足を運び、雑誌「婦人画報」に連載。さらに取材を重ねて、この一冊にされたそうです。
 星谷さんのご厚意により、このページを作らせていただきました。そして、お忙しい時間をさいて、返信のお手紙を頂きました。その中から想いの伝わる文章を少しだけ紹介します。

「一億にわかソムリエになって、グラスの中にお鼻を突っ込み、あれこれ知ったソムリエ語を交わす人たちを見るにつけ、胸が苦しくなってその場を立ち去ったことも数知れずありました。」

「ワインに限らず、モノというのは全て、作り手に真実があるかどうかということに尽きます。マダムの苛酷とも思える、自分自身の律し方に圧倒されるものがありました。それゆえ、私は惹かれて、15年も通えたのかもしれません。」

この11月にも、ブルゴーニュへ行かれるという事。なんと、「シュバリエ・タート・ヴァン」を叙勲されるそうです。本当におめでとうございます。


10000ヒット記念感謝

10000ヒットを記念して、この「マダム・ルロワの愛からワイン」「ルロワのワイン」をプレゼントします。

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