October,1998

今月の御題目

古酒の世界「オールド・ヴィンテージ・ワイン」
先日、とある食事会へ参加させて頂きました。日本でも名高いワイン専門家の方に、古酒を御用意して頂き、別世界のワインを堪能する事ができました。その素晴らしい世界を少しだけご紹介いたします。

VINTAGE WINE LIST

Cuvee Dom Perignon Rose 1988
キュヴェ・ドン・ペリニョン・ロゼ
Meursault Perrieres (Leroy) 1973
ムルソー・ペリエール(ルロワ)
Savigny-Les-Beaune Redrescul (M.Doudet-Naudin) 1962
サヴィニー・レ・ボーヌ・ルドルスキュル(M.ドゥデ・ノダン)
Nuits-Saint-Georges Les Roncieres (Maurice Chevillon) 1966
ニュイ・サン・ジョルジュ・レ・ロンシエール(モーリス・シェヴィロン)
Chianti Classico Reserva (Fossi) 1958
キアンティ・クラッシコ・レゼルバ(フォシー)
Chateau Latour 1960
シャトー・ラトゥール

食前酒 キュヴェ・ドン・ペリニョン・ロゼ
 食前酒は、通称「ドンペリ・ピンク」ことキュヴェ・ドン・ペリニョン・ロゼの88年。
 実はドンペリってあまり私の好みの味ではないのです。(先日も90年のドンペリを飲んだのですが...)ただ、ロゼ88年は、その重過ぎない優しい酸味と豊かな味わいが素晴らしいシャンパン。シャルドネ55%、ピノ・ノワール45%のブレンド。

ムルソー・ペリエール(ルロワ) 1973
 まず、いきなりルロワのムルソー・ペリエールが出てきたのにはびっくり。このワイン、本当に飲んでみたい一本だったのです。
 ムルソーの中でも、シャルムは厚みのある豊かな性格。それに隣接するペリエール(小さな石という意味)は繊細なワインと言われます。
 マダム・ルロワによると、ムルソーの中で最も偉大なワインがこのペリエール。そして白ワインの基準にしているという事。
 普通、白ワインは25年も経つと酸化が進み過ぎていると思われるでしょうが、そんなのは思い過ごしです。このワイン自体が持つ繊細な味わい、それが熟成されてすべての要素が一つに包み込まれた、そんな印象です。これがワインなんだなって思います。
 N氏の話によると「ブルゴーニュの中でも、その年にもよるが、モンラッシェよりもムルソーの方が出来が良い事が多く、魅力的だ」ということでした。

サヴィニー・レ・ボーヌ・ルドルスキュル 1962
このサヴィニー・レ・ボーヌ、白ワインです。なんとヴィンテージは62年。36歳の白ワイン。
 注がれてびっくりしたのは、ロゼのような淡いピンクに変色している事。またその香りが白とは思えないほど濃厚で、もし目隠しで飲んだら、ボルドー辺りの赤ワインにでも間違えそうなほど力強い。
 飲んでみると、その熟成による紹興酒、桂花陳酒にも通じるカラメル香と甘さを感じます。実際には、飲み頃のピークは過ぎているのは分かりますが、ちゃんとした状態で保存すれば、ピークの後でも楽しめる事に妙に感心した一本になりました。

ニュイ・サン・ジョルジュ・レ・ロンシエール 1966
 私の生まれ年、1965年。この年は大凶作で、ワインを造らなかった生産者もいた程。
 65年は、さすがにあまりよい物がなかったので、替わりにこの66年のニュイ・サン・ジョルジュを御用意下さいました。
 ニュイ・サン・ジョルジュというワインのイメージ通り、ブルゴーニュの土と果実を感じさせ、様々な味の要素が複雑に絡み合っています。
 驚いたのは、最初に感じる強さが予想以上に持続性があり、時間が経っても「おちる」という感はなく、一つ一つの味の輪郭がはっきりしてくる事。まだまだ元気な一つ年下のワイン。

キアンティ・クラッシコ・レゼルバ 1958
 この日の年長ワインがキアンティ。今までキアンティは、熟成にも耐えるというのは分かっていたつもりでしたが、1980年位までのヴィンテージしか飲んだ事がありませんでした。
 古酒の世界の面白いのは、熟成による味の変化ではなくて、新しい味の要素が次々に生まれてくるという事なんだなあと思います。
 40年経ったキアンテイがこれほどしっかりしていて、鉄分やミネラル、甘草などの新しい味が生まれています。

シャトー・ラトゥール 1960

 この日のメインは、やはりこのラトゥール60年です。ボルドーの赤ワインの偉大な年、59年と61年にはさまれて、あまり目立たない60年。ただ、ラトゥールに関しては不作の年でも安定した品質を保つ事も周知の事実。
 本当に凄いワインです。「出来の良い年、悪い年ということは関係ないのか」と思います。凝縮された味わい、芳醇で男性的なワインと言われるにふさわしい香り、厚みとヴォリュームには、出席者全員がため息をもらしていました。
 先日レポートした76年のラトゥールには、正直な所あまり感心しなかったのですが、このワインにはやはり「立派」という形容ができそうです。このワインのファンが多いのがよく分かりました。(私自身もファンになりました。)

赤ワインのデキャンタージュ
 これらの中で赤ワインは、すべて早めに抜栓してあり、飲む前にデキャンタしました。これだけの年代物をデキャンタすると早くおちるのではと思ったのですが。
 N氏によると、「赤は、ほとんどデキャンタします。当然、澱を除くため。ちゃんとしたワインは、デキャンタによって落ちが早いなんて気にする必要ない。」
 おっしゃる通り、これだけのヴィンテージは、価格の高騰した現在ではそうそう飲める物ではありませんが、驚いた事に全てのワインが70年代や60年代の物とは思えない程、とても若若しい。
 今、ワインに関する知識や常識が先行して、「若くて固いワインをデキャンタすると、柔らかくなる。」ってよく話のなかに出てきますが、デキャンタの本来の意味はやはり澱を取り除く事にあるのです。

ワインの保管
 今回の古酒を頂いて、一番に感じたのがワインの保管という事。古い年代の物を飲もうと思えば、その保管に細心の注意をはらう事が必要です。
 N氏のワイン・セラーは地下にありなおかつ空調設備により年中13度から15度に保たれています。私自身、ワインは地下倉庫に保管していますが、この夏にちょっと不安になり、湿度計と温度計を購入して地下倉庫の環境を調べたら、真夏で温度21度、湿度80%でした。
 この状況についてN氏に質問した所、「温度21度、湿度80%というのは、保管には全く問題はありません。ただ、温度15度を目安として1度上がる毎に1日早くワインが熟成すると思ったほうがいい。」という答え。つまり、21度で1ヶ月保存すれば、6ヶ月経ったというふうに考えられる。もし、普通の戸棚などに、真夏に置いておくと1、2年分はすぐに変わるという事です。皆さん、美味しいワインを飲むために、ちゃんと保管しましょう。

今月のお題目 目次
今月のお題目 前回 今月のお題目 次回


class30 "The Wine"