今年もヌーボーの季節がやってきました。11月の第三木曜日、ボージョレ・ヌーボーの解禁日には多くの方がフレッシュで美味しいワインを楽しまれた事と思います。 ボージョレ・ヌーボーについては、1998年のお題目でも取り上げましたが、今一度、馴染みの深いボージョレを中心にフランスの新酒「Vin Nouveau」についてまとめたいと思います。 |
この地区を形成する花崗岩系の土壌はガメイ種の栽培に適し、果皮、種の比重が少なく果汁の多いこの品種からタンニンの少ないフルーティーなワインが造られます。 新酒の多くはマセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬法)という醸造法がとられます。これは、ブドウを破砕しないでいったん粒のまま発酵槽(密閉タンク内)に入れ、底部にたまった果汁の発酵で生じる炭酸ガスを利用して粒の中で発酵させた上で圧搾します。そうする事により、短期間で色素を抽出、果実味を引き出し、フレッシュ&フルーティーなワインが生まれます。 この土壌と製法が他のブルゴーニュ地方の産地と大きく異なる点で、ブルゴーニュの一地域として捉えられてきたボージョレも最近では独立した地域とみなす傾向にあるようです。 |
ボージョレ地区には、独自に4つの統制呼称(AOC)があります。 上記の地図を参照して下さい。 ●ボージョレ Beaujolais このようにボージョレには格付けはありませんが、ボージョレからクリュ・ボージョレになるにしたがい、ワインの品質は向上すると言ってよいでしょう。 |
しかし日本をはじめ世界の消費国では、ボージョレのマーケティング力(下記参照)により「ヌーボー=ボージョレ」のイメージが強く、他の地方の新酒はなかなか輸入されないのが実情のようです。 (注1 : Primeur プリムールとは「はしり」「新しさ」の意味で「ヌーボー」とは同意語。写真は今年2000年のルロワ社のボージョレ・ヴィラージュ。ラベルには
Nouveau ではなく Primeur と書かれています。またボルドー地方では、リリース前のワインを予約販売する「先物」の意味で使用されます。) 以下、フランスのヴァン・ド・プリムール規定における新酒の販売が認可されている著名な産地を抜粋して記しておきます。ちなみにボージョレの白ワインは新酒としての販売は出来ません。 |
Beaujolais | |||
Macon | |||
Bourgogne | |||
Cotes du Rhone | |||
Tavel | |||
Rose d'Anjou | |||
Anjou | ガメイのみ |
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Touraine | ガメイのみ |
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Muscadet | |||
Coteaux du Languedoc | |||
Cotes du Roussillon |
ボージョレのブームは、新酒を誰が一番先にロンドンまで届けるかというキャノン・ボール的な街道レーサー達が発端とされていますが、当初の解禁日は12月15日と定められていました。後に他産地の新酒より早くリリースするため11月15日とされ、さらには1985年以降、週末の流通上の問題を避けるため11月第三木曜日に変更されました。 「とれたての新酒」「一番乗り」「フレッシュ&フルーティー」といった売り文句、こういったマーケティング戦略が功を奏し、1980年代末期、日本にも大規模なヌーボー・ブームが訪れ、成田空港で解禁日午前0時に合わせて「新酒」を飲むという凄まじいイベントまであったのを記憶されている方も多いはず。 しかしながら、上記にあるラングドックやルーションといった暖かい地方のヌーボーが、またイタリアのノヴェッロ(注3)という新酒がボージョレより早く流通しはじめたり、いくつかの生産上のワイン・スキャンダルが発覚し、このブームにも翳りが見え始めました。日本における輸入量も1988年をピークとし減少しはじめ、今では最盛期の約1/5となっているようです。 (注3 : Vino Novello ヴィーノ・ノヴェッロは1975年にバレバレスコ村の著名な生産者アンジェロ・ガイヤ氏によって、ネッビオーロ種から造られたものが初めとされています。イタリアの新酒のことで、Vino Giovane ヴィーノ・ジョヴァネなどとも表示される。10月の後半には日本にも入荷されます。) |
フレッシュで美味しいボージョレのワイン。第二次大戦前にはリヨンの地酒にすぎなかったワインも世界的なブームによって、多くの人に楽しまれるようになりました。ただこのブームが引き起こした弊害が今になって深刻化しているようです。 ブームに合わせた供給体制と過ぎ去った後の需要のバランスが崩れ、経営危機に直面しているワイナリーも少なくないと聞きます。基本的に解禁日に合わせたワイン造りは、その年の天候に左右されるはずの収穫時期に関しても、ブドウが熟す前に摘み取る場合が多く、ほとんどのヌーボーは補糖に頼らざるをえません。当然、ブームにのった過剰生産型のワイナリーは増え、ワインの品質は疎かにされたきらいもあります。そしてワイナリー出荷価格の低いこの地域において「手摘みによる収穫」などAOC上の規制も生産者にとっては厳しいものとなっています。
ただ、個人的にはここ数年のボージョレ・ヌーボーを頂いてみて、年々美味しいワインになっているような気がします。当然のことながら、銘柄を選んでいる事にもよりますが、日本のインポーターやワインショップの方々もよりよい新酒を求めて努力されていると思いますし、現地でも品質重視に移行している生産者が増えているのではないでしょうか? この地域にも、実直なワイン生産者がいるのでしょうね。有機栽培の雄「マルセル・ラピエール」、大好きな「ミッシェル・ジャイヤール」や「ドメーヌ・ド・ラ・マドンヌ」、今年届いた自然派のニューフェイス「ドメーヌ・ジョヴェール」、帝王「ジョルジュ・デュブッフ」も活々とした2000年のヌーボーを届けてくれました。 そしてあまり注目される事の少ないクリュ・ボージョレ10村のワイン。「熟成したクリュ・ボージョレが美味しい!」なんて声があちこちから届いています。 まだまだ楽しみは残されているボージョレのワイン。師走になると「船便」のボージョレも入荷し、お手頃価格でヌーボーを飲むことが出来ます。やっぱりこの季節はみんなでワイワイと。今年も実りあるブドウの収穫に感謝して・・・新酒で乾杯しませんか? |
「ワインの自由」 「フランス・ワイン・ガイド」 「ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート 教本」 他 |
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ボージョレに関しての詳しい情報は「瞬のワイン」Vol.1の堀賢一氏によるコラムを是非ご覧下さい。「瞬のワイン」はVol.2まで発売されています。(10月24日発売、集英社) |
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