イタリアワイン、自由で気さくな感じのお国柄とワイン達。前編では、そんなワインの代表でもあるキャンティを紹介しました。 キャンティを産むトスカーナ州に比べ、何故か神秘的なイメージのあるピエモンテ州。今回は、ピエモンテで産まれる「王のワイン」バローロに目を向けてみたいと思います。 |
ピエモンテで産まれる高貴なワインとして名高いのがバローロ。アルバ市の南、ランゲの丘陵がこのワインの生まれ故郷で、そこにあるバローロという村がこのワイン名となっています。(実際には11の村から産出されます。) ネッビオーロ種は、色調の濃い、タンニンが豊富で長熟な赤ワインとなります。とても晩熟なネッビオーロは秋になって霧(ネッビア)が発生する頃(10月)にブドウが熟す事がこの語源ということ。また果実の特徴でもある黒みがかった果皮の表面に吹く蝋粉が霧に見えるとも言われています。 |
ピエモンテは本質的に農業州でありますが、今日ではトリノを中心に工業も盛んで、所得水準の高い州。また食事に関する名産も多く、白トリュフやリゾット・バローロ(注1)、ゴルゴンゾーラやカステルマーニョ(チーズ)等の乳製品があり、グルメの注目するワイン生産地でもあります。 ワイン造りが盛んに行われてきたこの地方は、15世紀、フランス、ブルゴーニュの封建領土の流れをくむサヴォイア家の支配下におかれ、サヴォイア公国の一部となっていました。それ以後、トリノを中心とし統一直後のイタリアを治めたサルディーニャ公国となるに至り、バローロは王室に献上され愛飲されていたと言います。その公国の貴族達にとっても、ネッビオーロ種は、何よりもの誇りでバローロは「ワインの王」「王のワイン」と称えられました。 (注1:バローロを使ったバラ色のリゾット。使うチーズの種類によって"リゾット・カステルマーニョ"という風に名前が変化します。) |
バローロと並んで高い評価を受けるのが、同じネッビオーロ種で造られるバルバレスコ。ランゲ丘陵の南の一等地ではバローロが、そして北の一等地ではバルバレスコが生産されています。 ランゲの丘陵は、全方向に向いていて様々なブドウ品種が植えられています。栽培者達は、晩熟で十分な陽光を必要とするネッビオーロ種のために、丘陵の中でも南向きの良い場所を選び、セカンドシート、サードシートとも言うべき場所に、バルベーラ種やドルチェット種などが植えられています。 この広範なランゲ丘陵、そして多数の品種をカバーする総称的なDOCとして1994年「ランゲDOC」が制定されました。(注2) ブドウ栽培地域に関して大まかに言うと、この「ランゲDOC」の中に、より限定された地域で品種名を表示したDOC「ネッビオーロ・ダルバ」「バルベーラ・ダルバ」「ドルチェット・ダルバ」があり、さらにこれらに「バローロ」の栽培地域が含まれています。 | |||
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(注2:「ランゲDOC」と同じく1994年には、ピエモンテ州において「ピエモンテDOC」「モンフェッラートDOC」といった広範な地域を対象としたDOCが制定されました。) |
ここでDOCとDOCGについて少し触れておきます。1998年末現在、21銘柄が指定されているDOCGワイン。最後の「G」は「Garantita
: 保証」という意味。つまりDOCワインの中でもさらに別に定められた諸条件(注3)を満たし、法によって保証されたワインということになります。
そういった意味では、上記の「ランゲDOC」の制定は、高品質を目指す造り手にとっても、ある程度の栽培・醸造上の自由を享受でき、なおかつDOCワインとして法的に認められるものであり、バローロの受け皿であったネッビオーロ・ダルバ、その受け皿としてランゲを定めるといった「DOC内の整理」は、多品種のブドウを抱えるイタリアにとって重要な事項だと思います。これは前編で書いた「スーパーVdT」を産んだ法の問題解決にも繋がると思われます。 実際「バルバレスコの革命家」と呼ばれるアンジェロ・ガイヤ氏は、有名な3つの単一畑から造るバルバレスコ(ソリ・サン・ロレンツォ、ソリ・ティルディン、コスタ・ルッシ)、さらにはバローロ・スペルスといった高い評価を勝ち得ていたワインを止め、以後は「ランゲDOC」としてリリースする予定だとか。ようやく「クリュ(単一畑)」の概念が浸透しつつあるというこの地(下記参照)で、あえてベクトルを異にするガイヤの選択には、何か大きな意味が隠されていそうな気がします。それらの「ランゲDOC」ワインが登場した時、市場の反応がどうなるのか?今からとても楽しみです。 (注3:DOCGになるためには、最低5年間DOCワインである事、DOCワインより1haあたりの生産量を減少させること、化学分析と試飲検査により認められること等、多くの条件があります。) |
前編で書いたように、ピエモンテとトスカーナを取り上げた理由は、共にこうした変革を感じる産地だという事。 しかし個人的にはもっと興味を持っていた理由がありました。それは、フランスに喩えれば「ピエモンテはブルゴーニュ」「トスカーナはボルドー」に似ているなと、ずっと考えていたことでした。 トスカーナとボルドー。海外にも広く知れ渡ったこれら地方は、ワイン生産量も多く、どこか商業的。常にマーケットを意識したワインは、完成度が高く品質も安定しているように思います。ボルドーのカベルネ・ソーヴィニオンは今では全世界で栽培され、またトスカーナのサンジョヴェーゼも、イタリアにおいては広範な地域で栽培されていますし、徐々にカリフォルニア等の新しい国々でも成果を収めつつあります。
「畑の位置に関する敏感さにおいては、ピエモンテのネッビオーロとバーガンディー(ブルゴーニュ)のピノ・ノワールは明らかに類似している」 それだけ繊細でいて、土地の個性を表現しうるブドウ品種ということなのでしょう。実際のところワイン生産量でみれば、ピエモンテ州全体の3%前後というバローロ(注2)。このようなワインを「王のワイン」として崇め、神がかり的なイメージで地元の人々が捉えているのも頷けます。 あまり口にする機会は少なくとも、どこか心惹かれる魅力を感じつづけていたバローロやバルバレスコ。「ワイナート最新号」マルク・デ・グラツィア氏のインタヴューの中には、その想いを端的に表した文章が掲載されており少し驚きを感じました。 「ギリシャ文学を勉強していた学生時代のことなんだけど、よく友達と言ったものだよ。人間には二種類のタイプがある。それはアリストテレス型とプラトン型だと。(中略)アリストテレス型の人間は貴族的で、堂々として、政治的で、現代的。プラトン型は神秘主義的で天国を夢見て、天使の声に耳を澄ます・・・(中略)ワインの世界でよく言われるボルドー派対ブルゴーニュ派ってあるだろ。アリストテレス型のボルドーとプラトン型のブルゴーニュという区別だと思わないかい。」 トスカーナ出身であるグラツィア氏が何故にバローロに惹かれるか、よく理解できる言葉に思わず納得。こうやって考えると、ピエモンテの地に「クリュ(単一畑)」の概念が浸透しつつあるという話も分かります。新しい息吹を感じる「バローロ・ボーイズ」だけでなく、伝統的な生産者も含め、もっとピエモンテのワインを飲んでみたい思う今日この頃です。 (注2:ピエモンテ州はDOCG、DOCワインの生産量がヴェネト州に次いで2番目に多い州ですが、この州の中でネッビオーロ種の産出量は1割程度でしかない。最も多く栽培されているのは、バルベーラ種。) |
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