September,2000

今月の御題目

セカンドワインとは?

 ボルドーのトップクラスのシャトーには、セカンド・ワインというものがあります。これは、そのシャトー名を名乗るにふさわしくないと判断されたロット、質の劣るワインをセカンド・ワインとして販売するもの。今回はこのボルドーのセカンド・ワインをカリフォルニア・ワインと一緒に取り上げたいと思います。


1998年3月1日号「BRUTUS」
 「ワインの新定番」と題された特集号は、カリフォルニアを始め、チリ、アルゼンチン、オーストラリアといった当時のワインブームを支える新世界の美味しいワイン達が紹介されていました。
 この号の「カリフォルニア・ワイン成功の7つの理由」と題された記事。その中に「ポジティブ・セレクションでワインを格上げする。ゆえに状態のいいワインが飲める。」という理由付けが解説されていました。

ポジティブ・セレクションとネガティブ・セレクション

 その項に書かれた内容、それは右の図を使って両者の違いを説明したもの。

 ボルドーは「その銘柄ワインを樽に仕込んだ段階で質の劣るものを下から生産量の約40%ほど切り捨て、セカンドワインとして売るというわけだ。これをネガティブ・セレクションなどと呼ぶ。」ということ。

 それに対し「カリフォルニアのワインメーカーの多くは、ポジティブ・セレクションをしている。質の良いものを上から10%前後選び、スペシャル・セレクションとかリザーブという名称を冠して、いわば格上げして売るという方法だ。もちろん、それなりに値段は高くなるが、ポジティブ・セレクションで選ばれたワインは圧倒的に美味しいワインということになる。」という説明でした。

 それまでボルドーのセカンド・ワインについては、ある程度の把握をしていたものの、それに対するカリフォルニアの「格上げワイン」の違いが端的に記述されており、単純なことながら、class30自身「なるほどなあ」と感じたのをよく覚えています。こう書かれると「そりゃカリフォルニアは旨いはずだ」と思ってしまいます。今日でもこういったリザーブクラスのワインを造るワイナリーがほとんどで、素晴らしい品質のワインが数多くあります。



セカンド・ワインの役割

 「セカンド・ワインって何?」って問われた時、分かり易くするため「平たく言えば、洋服の世界でジョルジョ・アルマーニがファーストだとすれば、セカンドはエンポリオ・アルマーニ」なんて言ってたことがあります。この世界では「エンポリオ・アルマーニ」等の事を「ディフュージョン・ブランド(普及版)」と呼びますが、ワインの世界はちょっと違います。

 ボルドーの高価なシャトー・ワイン(ファースト)に比べ、セカンド・ワインは普及版とも言えますが、その重要な役割として「シャトー・ワインの品質を向上させる」ということがあります。

 実際に格落ちさせるワインの割合は40%と均一ではなく、各シャトー、そして作柄に応じて各ヴィンテージで異なっています。格落ちさせるブドウとは、水はけが悪いなど立地的に劣る区画のものや、個性の薄いワインを生みがちな樹齢の若いブドウ等がセカンドにまわされます。いずれにせよ、シャトー・ワインの生産量が減少するにも関わらず、こういった厳しい選抜によりワインの品質を向上させ、名声を保ち、高価格での販売を可能にしています。

 また多くはシャトー・ワインにもれたブドウの中からセカンド・ワインが造られる訳ですが、さらに選抜を施し、サードワインを造ったり、自社ブランドとしてそぐわないものはネゴシアンに売却されます。こうして造られたセカンド・ワインの品質は「ネガティブ・セレクション」と言えど、優れたものが多く、レ・フォール・ド・ラトゥール(シャトー・ラトゥールのセカンド)、クロ・デュ・マルキ(シャトー・レオヴィル・ラスカーズのセカンド)等、格付けシャトーに匹敵すると評されるワインもあります。



ポジティブ・セレクションの裏側

 さて、ボルドーとカリフォルニア、この両者を並べると、どうしてこういった差が生じたのか興味が湧いてきます。

 もともと、こういった選別は18世紀にボルドーにおいて生まれましたが、商業的に隆盛を極めたのは1980年代以降ということ。しかしながら、すべてのワイナリーがこういった厳しい選別を行い、セカンド・ワインを持つという訳にはいかないようです。

 堀賢一氏の「ワインの自由」には、その理由が明瞭に記されています。
メドックの第一級や秀逸な第二級のシャトーが他の格付け銘柄よりも厳しく葡萄を選別できるのは、彼らのワインが高価格で販売できるという前提があってのことですし(中略)生産量の50%近くまでも格落ちワインにできるのは、その格付けワインが高価格で販売でき、経済的に余裕があるからに他なりません。
 また、ある年から突然”選抜”を厳しくして秀逸なシャトー・ワインをつくり始めても、実際のそのワインの評価が定着し、それを出荷価格に反映できるようになるまでには、10年を超える長い歳月が必要になります。

 こういった理由を考えても、セカンド・ワインを生産するということは、経営上安定しており、すでに高い名声を受けているワイナリーであると考えることも出来ます。

 フランスに比べ、まだ歴史の浅いカリフォルニアにとって、セカンド・ワインを生産することよりも、リザーブ等の格上げワインをリリースする事はある程度理解出来ます。創設10年に満たないようなワイナリーを例にその理由を考えてみると、格上げワインを造ることにより、ワイナリーのイメージをアップさせることが出来、経営上においても重要な手段であるからでしょう。つまり

・格上げワインを造ることにより、商品構成にバリエーションが加わる。
・格上げワインの品質が評価されることにより、知名度が高まる。
・少量生産という希少価値により、消費者(愛好家)の興味が集まる。
・高価格での販売を可能にし、収益率が上昇する。

などの要因があると思います。これらが相乗効果となりワイナリー全体の評価を高め、徐々に経営状況も好転するという図式が読み取れます。
 実際、日本のワイン愛好家を見ても「プライベート・リザーブ」「スペシャル・セレクション」等の評価、評論により、ワイナリーを知るという場合がかなり多く見受けられるように思います。

(写真は、「BRUTUS」の記事にもポジティブ・セレクションの例として紹介されていたスタッグス・リープ・ワイン・セラーズ・カスク23詳しくはこちらへどうぞ。)



セカンド・ワインの行方

 それぞれの国の背景によるポジティブ・セレクションとネガティブ・セレクション。

 カリフォルニアのワイナリーは、ブドウを買い付ける契約農家との兼ね合いもあり(ボルドーのシャトーは、ほとんどが畑を自社で所有している)、セカンドというよりも商品構成(シリーズ)としてワインを造っている場合もあります。そして安定した気候によりヴィンテージによる作柄への影響が少ないため、ワインを格落ちさせる事をあまり必要としないという面もあるでしょう。

 次々とリリースされるカリフォルニアの新ブランド。ブティック・ワイナリーのものや、レアなポジティブ・セレクションを探すのもワインの楽しみの一つ。ただ、気になる点として1998年3月1日号「BRUTUS」にもこう記されていました。

一般的にカリフォルニアのポジティブ・セレクションをされたワインはボルドーの有名シャトーのブランドワインより安価。下手なシャトー物より、カリフォルニアのワインのほうがよほどコスト・パフォーマンスが高いというわけだ。ただし、市場に出回る量が少ないので探すのには骨が折れるかもしれないけれど

 やはり消費者にとって、この生産量の少なさというのは困りもの。ワインの評価が高まるにつれ、価格がボルドーの格付けシャトーに近づくのは当然ですが、希少価値も手伝って、価格的には完全にボルドーを凌駕し、手の届かないカリフォルニアワインも増えてきた事が少し残念です。

 「ドミナス・エステート」や「オーパス・ワンといった、すでに名声のあるワイナリーはセカンド・ワインを造り出しています。今後、歴史を重ね評価を得たカリフォルニアのワイナリーにも、ボルドー流のセカンド・ワインが定着する時が来るのでしょうか?注目していきたいと思います。

)「ドミナス・エステート」は、1982年、ポムロールのクリスチャン・ムエックス氏(あのペトリュスのオーナー)が興したワイナリー。セカンド・ワインは「ナパヌック」(写真右上)。また「オーパス・ワン」のセカンド「オーバチュアー」はワイナリーでしか販売されていない。どちらもボルドーの影響を強く受けるワイナリー。


今月の味わいのあるワイン」の中では、
セカンド・ワインも紹介しています。

参考文献
ワインの自由
BRUTUS

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