シャンパーニュ、泡のあるワイン。パチパチと音をたてるワインのささやき。その独特なスタイルのワインは、ワインラヴァーのゆったりとした食事の前に、輝かしい「ハレ」の雰囲気を演出するには欠かせないお酒。今回はそんなシャンパンの魅力を探るため、少し詳しい基礎知識。 All About Champagne !! |
スパークリング・ワイン(発泡酒)の代名詞でもあるシャンパン。しかし正確な意味で「シャンパーニュ : Champagne」を名乗るには、非常に厳しい規定があります。 @フランスのシャンパーニュ地方で生産されるということ。 こういった条件を満たしたものだけがChampagneと呼ぶことができます。前編ではこれらについて、説明いたします。 |
フランス北東部、パリから約150kmのところにあるシャンパーニュ地方。白亜土の底土層を持つ石灰質土壌のこの地方は、フランスにおけるブドウ栽培地域として最北限。約3万haのブドウ畑から年間180万hlのワインが生産され、世界最高品質のスパークリングワインを生み出します。 この地域で造られたもののみが「Champagne」を名乗ることが出来、フランス産でも、他の地方のものは、ヴァン・ムスーと呼ばれます。 スパークリング・ワインは、世界のワイン生産地では、大体どこでもつくられています。他の国の発泡性ワインの名称は、下表の通りです。 |
シャンパン Champagne | フランス、シャンパーニュ地方 |
ヴァン・ムスー Vin Mousseux | フランス、その他の地方 |
シャウムヴァイン Schaumwein (ゼクト Sekt) |
ドイツ |
スプマンテ Spumante | イタリア |
エスプモーソ Espumoso | スペイン |
スパークリング・ワイン Sparkling Wine |
アメリカ、オーストラリアなど、一般的に |
シャンパーニュに許されるブドウ品種は3種に限定され、黒ぶどうの「ピノ・ノワール」「ピノ・ムニエ」白ぶどうの「シャルドネ」だけの使用が認められています。大まかに言えば、それぞれのブドウ品種は約1/3づつの栽培面積を持ちますが、意外にも思えるのは、シャルドネの比率が最も少なく、ピノ・ムニエの栽培面積が最も多いということ。これはこの冷涼な気候のシャンパーニュ地方全域において、確実に熟すことが出来るのはピノ・ムニエだけで、ピノ・ノワールとシャルドネは、この地方においてはある意味、特に恵まれた立地を必要とするということが出来そうです。これはグラン・クリュとプルミエ・クリュ(下記参照)の畑だけで見ると、シャルドネ45%、ピノ・ノワール36%、ピノ・ムニエ19%という風に比率が変わることでも分かります。 約300あるシャンパーニュの村(クリュ)は、どれだけ良いブドウが産出できるかという潜在的能力に応じて、80%〜100%の間で評価、格付けされており(100%グラン・クリュ、90〜99%プルミエ・クリュ等)これを目安としてブドウ売買の価格が決定されます。以下、格付け100%クリュを地区別にまとめておきます。 |
Montagne de Reims モンターニュ・ド・ランス地区 Beaumont sur Vesle, Verzenay, Mailly, Sillery, Verzy, Puisieux, Ambonnay, Louvois, Bouzy |
Valle de la Marne ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区 Ay, Tours-sur-Marne |
Cote des Blancs コート・デ・ブラン地区 Cramant, Avize, Chouilly, Oger, Mesnil sur Oger, Oiry |
(この中でも特に、Ay, Sillery, Bouzy は黒ブドウ、Cramant, Avize, Mesnil sur Oger はシャルドネの評価が高い) |
新世界等のスパークリングは比較的安価で手に入るのに対し「Champagne」と名の付くものは、廉価な物でも4000円前後します。どうしてそんなに高いのでしょう? シャンパーニュは「Methode Champenoise : メトード・シャンプノワーズ」(シャンパン方式、トラディショナル方式と呼ばれる)により生産されたものに限り、その名称を名乗ることが許されます。これは他の地方と同じくスティル・ワインをつくり、その後「瓶内二次発酵」という大変手間のかかる製造工程を含んでいます。 |
la Cuvee ラ・キュヴェ 調合 |
スティル・ワインのアッサンブラージュ、各メゾンの醸造長の腕の見せ所。これによってメーカーのスタイルが決まると言っても過言ではないようです。 |
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le Tirage ル・ティラージュ 二次発酵 |
ワインは瓶に詰められ、リキュール・ド・ティラージュ(ワインに蔗糖を混ぜたもの)を混合する。これは瓶内の発酵を促進するため。 |
↓ | |
le Sejour en Cave ル・セジュール・アン・カーヴ 瓶熟成 |
ワインは地下蔵に運ばれ、寝かされている間に再発酵します。法定の最低熟成期間はノン・ヴィンテージで15ヶ月ですが、ほとんどのメーカーは2年から3年寝かせます。 |
↓ | |
le Remuage ル・ルミヤージュ 動瓶 |
今ではこれを機械でやってのける「ギロパレット」というコンピューター制御の装置も開発されています。 |
↓ | |
le Degorgement ル・デゴルジュマン 口抜き |
澱を瓶口に集めたら、氷点下25℃くらいの塩化カルシウム水溶液に瓶の首をつけ凍らせる。栓を開けると、凍った澱の塊が飛び出ます。こうしてシャンパンは透明度を増します。 |
↓ | |
le Dosage ル・ドザージュ リキュール混合 |
栓を開けたこの瞬間を利用して甘味の調節を行います。中に詰まっているシャンパンと同質のものに砂糖を混合したもの(門出のリキュール)を加える。詳細は後述。 |
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Bouchage ↓ Habillage |
この化粧フォイルは金銀の美しいものが多いわけですが、当然豪華なイメージを出す装飾としての意味、そして当初は「口抜き」によって飛び出す澱によるワインの量の不均衡をごまかす為だったようです。 (写真右はシャンパン方式で造られたカリフォルニア、オ・ボン・クリマのスパークリング。化粧フォイルがかけられていない。ジム・クレンデネンの茶目っ気たっぷり。) |
シャンパーニュのユニークな特徴として同じ産地、メーカーでも様々な甘辛度があるという事。この甘口、辛口を決定づける作業が上記の工程の中の「ドザージュ:リキュール混合」です。(日本ではよく"ドサージュ"と言われていますが、本来 Dosage は"ドザージュ"と濁って発音されます。) この時点で様々な甘さのリキュール(といってもシャンパンの生地に砂糖を加えたもの)を添加することにより、甘さを自由に調節する事が出来ます。シャンパーニュ造りにおける最終工程ともいえるこの作業ですので、このリキュールは「Liqueur
d'Expedition : 門出のリキュール」と洒落た呼び名が付けられています。 |
エクストラ・ブリュット Extra Brut | 極辛口 | 0〜6g/L |
ブリュット Brut | 辛口 | 6〜15g/L |
エクストラ・セック Extra Sec | やや辛口 | 12〜20g/L |
セック Sec | やや甘口 | 17〜35g/L |
ドゥミ・セック Demi Sec | 甘口 | 33〜50g/L |
ドゥー Doux | 極甘口 | 50g〜/L |
(従来全くドザージュしていないシャンパンについては、各メーカーが Brut Zero, Brut 100%, Brut Non Dose, Ultra Brut, Brut de Brut, Brut Sauvage などと表示していましたが、今後 Extra Brut として統一されそうということ) |
シャルマ方式、密閉タンク方式(キュヴェ・クローズ方式) スティルワインを大きなタンクに密閉し、その中で第二次発酵を起こさせる方式。短期間で製品化でき、空気に接触しないため、マスカットやリースリング等、ブドウのアロマを残したい時に有効的。一度に多量に生産できるのでコストが抑えられる。 |
トランスファー方式 一旦、瓶内二次発酵をさせたワインを、加圧下のタンクに開け、冷却、澱抜きしてから新しいボトルに移しかえる方式。シャンパン方式のルミアージュとデゴルジュマンを簡略化したもの。 |
以上、長々とシャンパンの製法について書いた訳ですが、ドン・ペリニヨン師が最初に発泡性ワインを造ったという17世紀末(実際には英国のほうが早かった云々、諸説があります)から、この製法も少しづつ進化しています。その歴史の中で多くの女性が関わってきたのも面白い事実。 シャンパン「泡の出るワイン」「ジャンピング・コルク」といった独特のワインを売り込むため、シャンパーニュの酒屋たちは宮廷に取り入り、かのポンパドール女史に「女性に飲めて、しかも美しさをおとろえさせないのはシャンパンのみ」と言わせたと伝えられています。
こんな事を考えてもシャンパンと女性は切っても切れない仲。確かに男性ばかりで飲むシャンパンは少し味気ない気がしてしまいます。 |
男女が愛を語る時に、欠かせないお酒でもあるシャンパン。そんな時には、少し贅沢に「ロゼ・シャンパン」でも用意したいものです。シャンパンの種類については「後編」で詳しく説明しますが、ここでロゼについて少し。
そして価格だけでなく、このロゼの製法についても、シャンパーニュは他の地方と違った特異な部分があります。 しかしながら、シャンパーニュ地方に限り「赤ワインと白ワインを混ぜて造る」ことが法的にも認められているのです。これは、シャンパーニュの基本が「ブドウをブレンド」することに由来しているのかもしれませんが、高価なロゼ・シャンパンにおいて、こういった製法が行われているのは、ちょっと不思議な感じがします。 葉山孝太郎氏の「シャンパンの教え」によると、シャンパーニュ地方において、ロゼの存在自体、歴史の古いものではなく、ボランジェ社の女傑、マダム・リリー・ボランジェは「シャンパンは白色でなきゃダメ」と言ったそうですし、帝王クリュッグもロゼは造っていなかったようです。だた、近年の消費者の高級志向によりロゼ・シャンパンの需要が高まり、ボランジェもロゼを造り、クリュッグも創業140年目の1983年にようやくロゼをリリースしました。 高級イメージの強いシャンパン。ロゼについても高価なことが当たり前になった感じがします。シャンパンの手間のかかる製法を守るには、ある程度の価格はいたしかたないところ。ただ、ロゼにおける「唯一の例外」に付けられる価格には、何か意味があるのでしょうか?ロゼ・シャンパンを飲んで、みなさん、どう思われますか? |
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