June,2000

今月の御題目

「おいしい映画でワイン・レッスン」

今月は、フレンドリーで楽しいワイン本を紹介致します。

「おいしい映画でワイン・レッスン」
 著者:青木冨美子
講談社発行 1600円

 ソムリエ協会の理事も務められる青木冨美子さんによる「映画とワイン」の楽しいお話が詰まった一冊。
 このページを作るにあたり、先日青木様にお会いし、本を書かれる上でのご苦労や、ワインに対する熱い想いをお伺いしてきました。

映画とワイン
 いつの時代にも人々に愉しみを与えてくれる「映画」の世界。その物語の中で、必ずといって出てくるのが「お酒」であり、ジャンルを問わず、名脇役としてしての演出効果、そして中にはストーリーを左右するほどのキーポイントとなっている映画も数多くあります。
 「タイタニック」や「プリティー・ウーマン」に登場したシャンパンって何でしょう? この「おいしい映画でワイン・レッスン」は、映画に登場するワインを中心に紹介され、ワインの世界をもっと身近に感じさせてくれる本。この中から、class30もお気に入りの映画とワインを少し紹介します。


「ディスクロージャー」に見るワインの演出効果

ディスクロージャー : DISCLOSURE(1994年 米)
監督:バリー・レビンソン
出演:マイケル・ダグラス
   デミ・ムーア
   ドナルド・サザーランド

ワーナー・ホーム・ビデオ


 テクノ・スリラーの父といわれるM・クライトンの原作。企業内の熾烈なパワーゲームを描いたもので、ディスクロージャー(情報開示)の言葉も、この作品から一般に浸透した作品。

 シアトルの大手ハイテク企業ディジコム社の製造部長トム(マイケル・ダグラス)はかつての恋人メレディス(デミ・ムーア)に夜のオフィスへ呼ばれ、大胆な挑発で誘惑されそうになる。必死に抵抗し、一線を超える手前でどうにか踏み止まるトム。だが翌朝、出社した彼を待っていたのは、“トムにセクハラされた”というメレディスの訴え。窮地に立たされたトムは、逆セクハラで提訴。この時に重要な証拠として、登場するのが「パルメイヤー・シャルドネ1991」。

 何故にこのワインが公判において重要な鍵となるのか?それは、生産量の非常に少ないブティック・ワイナリーのもの。「美味しい映画でワインレッスン」の中でも1996の生産量はたったの400ケース足らずということ。そのワインを、メレディスは秘書に探させ、トムとの一夜のために用意していた ..... 思い出のワインを。

 このパルメイヤーのシャルドネ、映画の一シーンの中にも登場するその黄金色に輝くワインは、メレディスのグラマラスなボディを彷彿とさせます。カリフォルニアのブティック・ワイナリーを登場させることに巧みな演出を感じさせる映画。本を読んで見るか、見てから読むか。いづれにしても、ワイン好きにはたまらない一本。


君の瞳に乾杯!「カサブランカ」

カサブランカ : CASABLANCA(1942年 米)
監督:マイケル・カーティス
出演:ハンフリー・ボガート
   イングリッド・バーグマン
   ポール・ヘンリード

ワーナー・ホーム・ビデオ


 アカデミー賞3部門(作品、監督、脚本)を受賞した往年の名作。仏領モロッコのカサブランカは、ドイツ軍の手を逃れてアメリカへ渡るための帰港地となっていた。この町で、アメリカ人のリック(ハンフリー・ボガート)が経営するナイト・クラブに自分を裏切った昔の恋人イルザ(イングリッド・バーグマン)が現れる。

 とにもかくにもワインと映画、この関係で真っ先に思い出すのがこの名画。ニヒルでクールなハンフリー・ボガートが見事なまでの「男のやせ我慢」を演じる。お互いの素性を知らないまま恋に落ちるパリでの日々。ドイツ軍によってパリが侵攻される日、リックがささやく言葉が「君の瞳に乾杯! Here's looking at you, kid.」これぞ名文句!

 この時に二人が乾杯していたシャンパンこそマム社のコルドン・ルージュ・ブリュット。白地のエチケットに斜めの赤いラインが印象的なデザイン。エチケットの赤いリボンは、フランスのレジオン・ドヌール勲章がモチーフで「栄誉と誇りに満ちたシャンパンでありたい」というメッセージが込められているということ。そして、この映画にこのシャンパンが選ばれた訳は ..... 「そうか、そんな理由が」という事が、青木さんの本に解説されています。

 そして、この映画を気に入っている理由。リックが経営しているバーでピアノを弾く黒人ピアニスト、サム。彼の存在がすごくいい。久しぶりの再会に、思い出の曲「As Time Goes By」をリクエストするイルザ。歌うのを禁じられていながら、弾いてしまうサム。そこに登場するリック。なにもかもがドラマチック、素敵な映画です。


「フレンチ・キス」南仏のメグ・ライアン

フレンチ・キス : French Kiss(1995年 米)
監督:ローレンス・カスダン
出演:メグ・ライアン
   ケビン・クライン
   ジャン・レノ

CIC ビクター・ビデオ


 キュートで元気いっぱいなメグ・ライアンの魅力溢れるこの映画。ケイト(メグ・ライアン)はフランスへ旅行した婚約者から、「電撃的な恋をした」という理由だけで婚約破棄を申し込まれる。彼を会うためにフランスへ渡る飛行機(彼女は過度の飛行機恐怖症)で出逢った怪しげなフランス男性のリュック(ケビン・クライン)との愛を描いたラブ・コメディー。

 リュックの実家という設定になっているプロヴァンスのぶどう園。青木さんが「映画とワイン」のエッセイを書くきっかけとなったと言われるテイスティングのシーンが出てきます。

 リュックが若い頃に作った「香りのサンプル」を嗅がせると、「スグリ、ラベンダー」と鋭敏な感性を見せるケイト。いつかはこの地で素晴らしいワインを作るという男の誠実さ。映画の中で、意外にも思える二人の個性と感情の変化を見事に描写した小粋な場面。

 二人が旅をする列車の車窓には、太陽を感じるプロヴァンスの古い町並みと、どこまでも広がるブドウ畑。実際、この映画の撮影には、コート・デュ・リュベロンの「シャトー・ヴァル・ジョアニ」というワイナリーのブドウ畑を借りて、撮影が行われたということ。ワインについては、本文中で詳説されています。



青木冨美子さん

 青木冨美子さんは、NHK、洋酒メーカーでのご経験を経て、現在、ワインライター。(社)日本ソムリエ協会の理事も務められ、その機関紙「Sommelier」にも楽しい記事をご提供頂いております。また赤坂のワインスクール「ワインスカラ」にて講師としてもご活躍されています。

 ある会にて青木さんとご同席させて頂く幸運に恵まれました。本当に素敵なお人柄。その豊富な知識もさることながら「ワインを飲む時は自然体で」という、この本に書かれているスタンスが伝わってきます。

 尊敬するあるワインの大家は、この本を「ワインを飲む楽しみは、知る楽しみによってさらに深まる」と評されたそうです。素晴らしい言葉ですね。ワインに触れる時、その背景や付随する薀蓄の多さに、なかなか慣れない方もいらっしゃると思います。そんな時、この本を読んでみてはいかがでしょう。世界各国、美味しくて楽しいワインの世界が、数々の名画を通し、基礎知識、そして少し専門的な部分まで、優しく解説されています。

 そして青木さん曰く「この本の中で一つだけ誉めて欲しい個所があるの」という事。皆さん、モンラッシェというワインをご存知ですか?アレキサンドル・デュマが「脱帽し、跪いて味わうべし」と言った話はあまりに有名ですね。この本には、ヒッチコック監督の名画「裏窓」がモンラッシェと一緒に紹介されています。「なるほど、ヒッチコック監督はそこまで考えてモンラッシェをチョイスしていたのか!」と唸らせる一節。

 嬉しいことに、この本が早速「日本図書館協会の選定図書」に選ばれたということ。またまた新しい楽しみ方を教えてくれるワイン本。是非、読んでみて下さい。 

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class30 "The Wine"