ポート・ワイン。その甘美な味わいは、素晴らしいお食事の後に一杯、さらに落ち着いた優雅な気分にさせてくれます。このポートが産出されるD.O.C Douroは、世界で初めて原産地呼称を受けた土地としても有名です。今回はそんなポート・ワインについて。 |
ポルトガルの「黄金の指輪」と呼ばれるドウロ河一帯は標高900mを越える山々に囲まれた地域で、各ぶどう畑は「ワイン生産者管理委員会(カサ・ド・ドウロ)」によって標高、生産量、ブドウ品種、畑の傾斜、方角、樹齢など12の細かい項目によって分類し、AからFの6段階に格付け(カダストロ)されています。 ポート用のブドウ品種は、主要品種と補助品種があり、主要品種は最低60%を使用しなければならないもの、また補助品種は40%まで許されるもので、合計29品種が認められています(品種名は後述)。 ブドウは収穫後、発酵槽(ラガー)に入れられ、2〜3日後に77%ブランデーを添加し酒精を強化。550リットル入りの樽で熟成されます。この作業を「ベネフィシオ」と言い、果汁約450リットルに対し、ブランデーの分量は約100リットル。発酵を途中で止めることにより、自然の甘さと果実味を残すことが出来ます。 その後、澱引き、樽でそのまま寝かせ、翌年の春、本格的な熟成をさせるために、ポルト市対岸にある「ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア」の貯蔵庫に運び原産地証明シールが貼られます。 |
主要品種と補助品種を合わせて29品種が認められているポート。しかしながら近年は品質の向上のため、更に限られた品種が栽培されるようになっています。代表的な品種は「トゥリガ・ナシオナル」。以下、参考までに主要品種を挙げておきます。 |
主要品種(15) | |
黒ブドウ(9) | 白ブドウ(6) |
ティンタ・フランシスカ | エスガナ・カン |
ティント・カン | フォルガザン |
トゥリガ・フランセーザ | グーヴェイオ |
トゥリガ・ナシオナル | マルヴァジア・フィナ |
ティンタ・ロリス | ラビガト |
バスタルド | ヴィオジーニョ |
ムーリスコ・ティント | |
ティンタ・アマレーラ | |
ティンタ・バロッカ |
ポートワインは基本的にはブレンドにより風味のバランスをとるワインと言われます。よって各シッパー(メーカー)によるブレンドの妙技がワインの個性と言えるでしょう。ポートワインは以下の3つのタイプに分けられます。
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ポートワインには公的に定められたスペシャルタイプの高級なクラスがあります。生産量は全体の1割にすぎませんが、その品質は素晴らしいもの。以下に挙げるものはすべてI.V.P(ポート・ワイン・インスティチュート)への申請と許可が必要になります。 |
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1700年代、イギリスとポルトガルのメスエン条約によりポートの関税が引き下げられ、また英仏戦争、フランス革命とイギリス人からフランスワインが遠ざかるなか、ポートの輸出は盛んになりました。こうなると出てくるのがポートを模倣した偽者ワイン。これを防ぐため、時の首相マルケス・デ・ポンバル侯爵は1756年、ドウロ生産地域指定の規制を設けました。これが世界で最初の原産地呼称法となったのです。 |
当時の首相マルケス・デ・ポンバル侯爵の功績。これは現在のフランスのAOC法、イタリアのDOC法をはじめ、各国で採用されている原産地呼称法を考えて頂ければよく分かると思います。1999年8月の「お題目」でも書いたように、それらの原産地呼称法は、生産地や醸造法他に厳しい条件を課し、品質の低下や不正取引の防止に役立っているようです。それにしてもポートが、それらの法律の基になっているのは面白いですね。
今の日本において数々の保護政策が懸念され、規制緩和に向かう流れが出来ているようですが、我が国の食文化に対する法律には、少し疑問がもたれます。規制の緩和も必要ですが、もっと「本物の食文化を守る」という意味での規制や法律はあってもいいのではないでしょうか? 周りを海で隔たれた日本。歴史の流れと地理的な要因が今までの日本の食文化を守ってきたのかもしれません。しかしこれだけの情報社会、物流の発達した現代において、今一度再考する必要があると思います。規制や保護は生産者にとって、重苦しい事もあれば、そのスペシャリストとしての仕事に専念し、文化継承の一翼を担う人々の意識を高める事もあると思うのですが。 日々の忙しさを忘れ、ひと時のゆったりとした食事の後。この優雅で華麗なポートを一杯。そんな時間に、ポンバル侯爵の如き、新しく意義のある発想が生まれそうな気がします。 |
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