March,2000 (2)

今月の御題目

「ルロワづくしの夕べ」

Nappeの部屋ホビットのワインハウスclass30 -The Wine- 合同企画

 春の風を感じさせる3月初旬、いつもお世話になるjunko-tさんからのお誘いにより、あるワイン会へ行くことになりました。この日は、私の大好きな、そしてワインの良さを教えて下さった「マダム・ルロワの愛からワイン」を書かれた星谷明様、とよみ様ご夫妻、高島屋商事ルロワ担当者様のご好意により、ルロワのワインを満喫しようという事。「ルロワ・ワイン・デギュスタシオン」と銘打たれた案内に、心ときめき、胸をおどらせながらの参加となりました。
 マダム・ラルー・ビーズ・ルロワ、そして星谷様の「マダム・ルロワの愛からワイン」についてはこちらをご覧下さい。

Current Topics October,1998 (2)

当日のリスト

向かって左より
@ Montagny 1er Cru 1994
A Meursault 1er Cru 1994
B Bourgogne en Hommage a l'An 2000
C Chambolle Musigny La Combe d'Orveau 1997 (Dom. Anne Gros)
D Gevrey Chambertin 1996
E Fixin 1983
F Nuit St.Georges 1972
G Gevrey Chambertin Les Champeaux 1972
H Chambertin 1973

 Cのみホビットさん差し入れのアンヌ・グロ。BとH以外はすべて3月15日から高島屋全店で日本初リリースされるというワイン達。

 せっかくこれだけのワインを皆さんより一足先に飲ませていただいたのですから、やはりきちんとレポートしなければならないのでは・・・ということになり、一緒に参加したNappeさん、ホビットさんと共に、各ホームページ上で今回のワインについてのレポートを書こうということになりました。是非、Nappeの部屋ホビットのワインハウスもご覧下さい。それぞれのレポートが楽しめると思います。(このページの画像の多くはホビットさんのご提供によるものです。ありがとうございました。)

この会に関するNappeさんのレポートはこちらへ

この会に関するホビットさんのレポートはこちらへ


France-Bourgogne

Montagny 1er Cru 1994
モンタニー・プルミエ・クリュ

モンタニー 白 (Ch100%)

 まず最初にウエルカムワインとして頂いたのが、このモンタニー・プルミエ・クリュ。シャルドネ特有の菩提樹の香りと柔らかな酸味のワイン。やや噴いた形跡があるとのご説明ながら、そこまでダメージは感じられず、まとまりのある優しいワインという印象。

 コート・シャロネーズの南端にあるAOCモンタニーは、あまり聞きなれない名前かもしれませんが、その存在自体も変わっています。ここで栽培を許されているのはシャルドネのみで、当然白だけが産出されます。
 さらに面白いことに、モンタニーでは、アルコール分が補糖しない状態で11.5%あればプルミエ・クリュを名乗ることが出来、この規定はフランスの他のいかなるAOCにも見られない独自のもの。「プルミエ・クリュ」と言っても畑からくる名前ではないのです。


Meursault 1er Cru 1994
ムルソー・プルミエ・クリュ

ムルソー 白 (Ch,PB)

 ルロワ社の本拠地、オークセイ・デュレスの町からも近いこともあり、マダム・ルロワ自身、白ワインの基準としているのがムルソーのワイン。お話によれば、ムルソーは若いうちにはミネラル(石、鉱物的)なニュアンスが強く、このミネラルがワインが熟成するにあたり重要なポイントというご説明。ワインの出来としては、やや難しい年であったとされる1994年。

 このワインの魅力を引き出すには、かなりの時間を要するというのが第一印象。香り、味わいともに意外なまでに閉じているものの、ワインに与える豊かなアルコールのボリューム感。そのふくらみの中にミネラルを含む規律ある姿は、未完の大器。個人的には、今回のすべてのワインの中でも、最も興味を惹かれた一本でした。



Bourgogne en Hommage a l'An 2000
ブルゴーニュ アン・オマージュ・ア・ラン 2000
ブルゴーニュ 赤 (PN,Pb,PL)

 マダム・ルロワが2000年のためにリリースしたミレニアム・キュヴェ。各ボトルには、シリアルナンバーが入っており、キャプシールはゴールド。class30自身、この年明けに頂いたワインです。

 その時にアップした感想「チェリーや梅のような香りがチャーミングなワイン。ノン・ヴィンテージのAOCブルゴーニュですが、雰囲気としては、90年代前半、ボーヌ辺りのワインの感じがしました。このワインのスペックについては、全く知らないのですが、ヴィンテージに関しては、やや古めのワインと若いワインをブレンドしたのかな、なんて想像してました。」

 皆さんの夢を壊す訳ではないのですが、このワインの詳細を聞くことが出来ました。実際には1997年のワイン。AOCで言えば、コート・ド・ボーヌ・ヴィラージュが主体、そしてコート・ド・ニュイ・ヴィラージュをブレンド。ある意味、マダム・ルロワが新しい試みとして造ったワインらしく、通常の樽熟成ではなく、瓶での熟成が主で、1年半という長期瓶内熟成を施した後リリースしたワインだとか。

 先に頂いた時には、やや酸化を伴う熟成香と動物的なニュアンスから90年代前半のワインも入っているのでは?という読みだったのですが、解答を聞いた後(笑)のこのワインはフレッシュ。木苺のような果実のストレートな甘味を感じるワイン。 


Chambolle Musigny La Combe d'Orveau 1997
シャンボール・ミュジニー・ラ・コンブ・ドルヴォー
シャンボール・ミュジニー 赤 (PN,Pb,PL)
(ドメーヌ・アンヌ・グロ : Domaine Anne Gros)

 この日、唯一のルロワ以外のワイン、ホビットさんにご提供いただいたアンヌ・グロのシャンボール・ミュジニー。アンヌ・グロは最近特に人気急上昇中の造り手、1995年からお父さんフランソワからドメーヌを引き継ぎ、新鮮で上品なワインを造ると評判です。ホビットさんのお話によると、ラ・コンブ・ドルヴォーは同じ名称で1級畑と村名畑があって、これはプルミエ・クリュと記されていないことからも、村名畑の産ではないかということ。

 淡くけなげな明るい色のワインは、控えめなタンニン、イチゴ、ラズベリー様の赤い果実。「同じ女性が造るワインでも、少女と熟女の個性の違いが分かるね」とは高島屋担当者様の談。まさに同感。ブドウ畑で戯れる可憐な少女、アンヌ・グロの姿そのままを感じる愛らしいワインは、97年という年も相まってか、今飲んで本当に美味しいワインです。


Gevrey Chambertin 1996
ジュヴレイ・シャンベルタン
ジュヴレイ・シャンベルタン 赤 (PN,Pb,PL)

 ジュヴレイ・シャンベルタン。作付け面積約500haのこの村の由来は、13世紀に農夫ベルタンが所有する畑「ル・シャン・ド・ベルタン」と呼ばれていた土地。コート・ドール北部の銘醸畑がひしめく村。

 1996年、ファーストノーズではアルコールの高さを感じるものの、ムルソー同様、他のニュアンスを表さない固いワイン。タンニンの厚さと構造の緻密さをブラックベリーの豊かさが今度どうまとめていくのか。いづれにせよ、この後に続くルロワの古酒、その長熟の可能性を示すワイン。



 さてここからは、お待ちかねのルロワ古酒の登場。83年のフィクサン、そして72年はニュイ・サン・ジョルジュとジュヴレイ・シャンベルタン・レ・シャンポーの飲み比べ。そしてK氏のご好意により、グラン・クリュ、シャンベルタン73年を頂くことができました。
 ご案内で頂いたリストには、ニュイ・サン・ジョルジュは入っておらず、基本的にはジュヴレイ・シャンベルタン村近辺のワイン、よりターゲットを絞ったデギュスタシオンが今回のテーマだった気がします。


Fixin 1983
フィクサン

フィクサン 赤 (PN,Pb,PL)

 ジュヴレイ・シャンベルタン村の北側に位置するフィクサン。日本においてはあまりにも知名度の低いアペラシオンかもしれません。この村の1級畑の多くは、ジュヴレイ・シャンベルタン最上の畑と同じ「バヨカス階石灰質」の土壌を持ち、頑強で長熟なワインを産出するとされています。

 お話によれば、83年は非常にバランスが難しく買い付けにおいても細心の注意を払う年、ルロワの中でも今良い状態を保っているのがこのワインという事。確かにそのお話を聞いて、83年ルロワのポマールに、さらにはロマネ・コンティでさえ、やや失望した記憶が蘇ります。
 このフィクサン83年、エッジの褐色が美しいワイン。口に含んだ瞬間の繊細なラインは、余韻で変化していきます。熟成され生き抜いた立体的なタンニンがワインのすべてを支えるよう。これがワインのバランスという事を実感できる一本。

Nuit St.Georges 1972
ニュイ・サン・ジョルジュ
ニュイ・サン・ジョルジュ 赤 (PN,Pb,PL)


Gevrey Chambertin Les Champeaux 1972
ジュヴレイ・シャンベルタン・レ・シャンポー
ジュヴレイ・シャンベルタン 赤 (PN,Pb,PL)

 ルロワの古酒2本。72年はブルゴーニュにおいても難しいとされる年。

 ニュイ・サン・ジョルジュ、まだ色合いにも濃さを感じさせるものの、白く微細な澱(これは澱のせいかどうかは分かりませんが)がワイン全体に舞い、透明感は少ない。揮発香を伴う無花果や乾燥フルーツの香りは、ファーストノーズでは強さを感じさせながら、セカンドノーズでは、その危うさを呈していることから、抜栓後早めに飲んであげた方が良いという判断ができました。

 ジュヴレイ・シャンベルタン。シャンポーは、クロ・サン・ジャックやカズティエ、コンブ・オー・モワンヌと共に、この村のプルミエ・クリュの中でも最も北西寄り、丘の頂上近辺に位置します。外観を見ると80年代ともとれる鮮やかな色のワインは、最初からジャミーでまろやかな果実を感じさせます。時間と共に広がりを増す様は、ワインの大きさと長命を物語る素晴らしいワイン。

 対照的な二本のワインの余韻。ニュイ・サン・ジョルジュはタンニンが舌の上で主張し、ジュヴレイ・シャンベルタンは、果実の旨みが舌の中に染み入る。少し厳しく、ニュイ・サン・ジョルジュには「RECOMMEND」マークは付けていませんが、その個性を知る上でも贅沢なデギュスタシオンとなりました。

Chambertin 1973
シャンベルタン
ジュヴレイ・シャンベルタン 赤 (PN,Pb,PL)

 この会最後のワイン、いまさら説明も不要だと思います。グラン・クリュ、ワインの王様シャンベルタンは、高島屋担当者様よりご提供いただいたもの。すべてのワイン、あらかじめご本人が少量テイスティングの後に、参加された皆さんに注がれました。このワインを注がれながら一言「申し訳ない」と。。。抜栓時、すでにスクリューを回す時点でコルクが緩んでいたそうで、抜かれたコルクは、他のものより2mm程度縮んでいました。

 確かにそのワインは「無言の王様」。当然ワインとして、飲めなくもなければ、十分な味わいを持っていますが、シャンベルタンとしてのニュアンスには乏しいものだと思います。詳細な感想はここでは控えさせて下さい。


ルロワと高島屋:孤独な仕事

 この会にてルロワのワインと共に印象的だったのは、高島屋商事ルロワ担当者様にご同席頂き、数々のお話を聞かせて頂いたこと。プライベートな会だったからこそ聞けたお話。

 年に4回ブルゴーニュまで足を運び、その時のベストであるワインを買い付ける。マダム・ルロワが長い年月をかけ、厳選した大量のストック。しかしその中から現在飲むに相応しいワインを選びだすのは大変なことです。まさにマダムとの一騎打ち。今回頂いたフィクサン1983などはその典型的な例でしょう。

 右の写真はフィクサン1983の瓶底に残った沈殿物。澱と思われるものと一緒に、大きな白い塊がありました。お話では、「酒石になる一歩手前ではないか」「10年以上もこの状態の塊は見なかった」「今この塊は試験所にて分析中」という事でした。ワイン好きにとって、こんな事はとるに足らないのですが、もし、お歳暮等の贈答で使われたとしたら。。。ワインの美味しさには全く影響はありませんが、お客様のクレーム他に対応されるため、成分分析まで依頼されています。

 面白いクレームの話を少し。ワインにはコルクがボトルの口から少し浮いている場合があります。これは輸送途中で、熱のためワインが膨張し、コルクを持ち上げた、なんていう話がよく聞かれるのですが。
 「今でもルロワのコルク打ちはすべて手作業なんですよ。一日に何百ものワインのコルクを打つわけですから、当然ふっと力が抜けたら最後まで入りきらない時がある。最初からコルクが浮いている場合もあるんです。」数々のワイン本、その知識だけを鵜呑みにするととんでもない勘違いが起こる。そんなことを感じた一節。

 今回のワインはすべて当日(と言っても数時間前)に持ち込まれたそうです。「こんなワインをその日に持ってくるなんて!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、その真意は、今回の題名にもある「デギュスタシオン(試飲)」なのです。輸入業者としては、どんな状態で飲まれるか分からないワインについて、一流のソムリエが扱ったが如くの提供の仕方をしても始まらない。今回のリリースに合わせて、ご自分でもブルゴーニュでの感じ方との差を確かめていらっしゃったのでしょう。

 私が感じていたルロワと高島屋。ある友人がこう言いました「ルロワってやっぱりブランドなのだ」確かに言うとおりでしょう。ブランドだと思います。ただ私が思うことは、「ブランド=信用=物つくりにおける究極の品質」。ルロワしかり、高島屋しかり、裕福な資力と基盤があるから究極の品質を間違いなくリリースし、消費者に届ける事が出来る。これって素晴らしいことです。品質に対する対価、この割合が問題なんですが、いかんせん日本におけるブランドは「見栄」になる場合が大きい。これが一番悲しいことだと思います。最高品質のワインを造り出すルロワ、その素晴らしいワインを責任を持って日本に届ける高島屋。双方の信頼があってこその関係なのでしょう。
(写真は高島屋輸入のワインに貼られる裏ラベル。マダム・ルロワの言葉が日本語に訳されています。ある時にはこのラベルを偽造された事もあるそうです。)

 まだまだ沢山のお話を聞かせて頂きました。すべてをご紹介することは出来ないのが残念です。以前、星谷とよみ様に「マダム・ルロワの印象を一言でいうと?」と聞くと「孤独かな」という答え。最高の仕事には、ある程度の「孤独」がつきまとうものかもしれません。


「幸いなことにルロワのワインしか知らないのです」

 最後に最も印象に残ったお話を。星谷様、そして高島屋担当者様のおっしゃっていたこと「幸いなことにルロワのワインしか知らないのです」。当然この言葉は謙った言い方であるわけですが、何故にこの言葉が出てくるのか。各国のワイン産地に買い付けに行かれていますし、皆さんワインに精通している方々なのに。

 以前、マダム・ルロワは、ブルゴーニュだけでなく、ボルドーワインに関しても卓越したテイスティング能力を持つと言われてきました。ある年、ボルドーのシャトー・シュバル・ブランで行われた大勢の専門家を集めてのデギュスタシオン(試飲会)にて、マダムは唯一、次の4種のワインを正しく利き分けたといいます。ラ・ミッション・オー・ブリオン1982、パルメ80、アンジェリュス78、ムートン75。。。

 「今のマダム、自分の造るワインしか試飲しないよ」ということ。この言葉は胸に深く響くものがありました。世界各国、様々なワインが産出される中、その多様性に圧倒され、本来のワインの意味を見失いがちです。ワインブーム全盛の今、「私はこんな凄いワインを飲んだ」というワイン体験によるパワーシートが蔓延り、その知識が一人歩きする昨今。「ワインの個性って何?」と考えることもあったからです。

 「ルロワのワインしか知らない。だからそれぞれの個性がはっきり見える。」多分そうなんだと思います。そこにはもっと深い真実が待っているのでしょう。やはり最後にはこの言葉が思い起こされます。

ワインを語る人は大勢います。
しかし、ワインに聴く人は本当に少ないのです。
ワインを知りたいのなら
ひたすらワインに聴くことですよ。
ワインはメモワールです。
さあ、目をつむって、お口に含んでごらんなさい。
- マダム・ラルー・ビーズ・ルロワ -

「マダム・ルロワの愛からワイン」著者:星谷とよみ より

 星谷明様、とよみ様ご夫妻、高島屋商事ルロワ担当者様、素晴らしい体験を与えて下さったことに感謝いたします。junko-tさん、設営ご苦労様でした。ありがとうございます。そしてNappeさん、ホビットさんのワインに真正面から向き合う情熱。感服いたします。皆さん、今後ともよろしくお願いいたします。

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