March,2000

今月の御題目

シンデレラワイン

 シンデレラワイン。ワイン愛好家そしてワイン業界を騒がすワイン達。今回は今をときめくボルドー、ドルドーニュ河の右岸、リブルネの台地に広がるサンテミリオンやポムロール地区のワインの紹介です。

シンデレラワインとは
 ワインの世界には歴史があります。特にボルドーやブルゴーニュといった産地では、確固としたワインの位置付けがなされていることも事実です。シンデレラワインとは、無名だった生産者や歴史の浅いシャトーなどが、そのワインの質を高く評価され、突如として高値で取引され、人気を呼んだワイン達です。

ワイン AOC 面積 生産量 セパージュ
ペトリュス ポムロール 11ha 3000C/S M95,CF5
ル・パン ポムロール 2ha 600C/S M92,CF8
ヴァランドロー サンテミリオン 3ha 600C/S M75,CF20,Ma5
ラ・モンドット サンテミリオン 4ha 1600C/S M75,CF25
ロル・ヴァランタン サンテミリオン 3ha 700C/S M90,CF5,CS5
クロ・デ・リタニ ポムロール 0.8ha 400C/S M100
オー・トロショー ポムロール 2ha 1000C/S M100
ボー・ソレイユ ポムロール 3ha 1850C/S M95,CF5
クリネ ポムロール 9ha 3500C/S M80,CF10,CS10

 シンデレラワインやその候補と目されているワインの概要をペトリュスを含め記してみました。面白いのは、ご覧のようにすべての栽培面積、そして生産量が限られていること。わずか3ha〜4ha以下の小さな畑から産出されるワインです。この規模だから、古典的な醸造法、手間隙かけた作業が行われ、そこに希少価値が後押しし、高価なワインとなっているようです。

 シンデレラという言葉が一番似合うワイン、ル・パン、そしてヴァランドローを頂く機会に恵まれましたので、その2本を中心に紹介します。


ロル・ヴァランタン、ボー・ソレイユ等のシンデレラ予備軍はこちらでも紹介しています。
Tasty Wines of This Month, March 2000


ル・パン、ヴァランドロー

Bordeaux-Pomerol


Ch. Le Pin
シャトー・ル・パン

ポムロール 赤 (M92,CF8)
('92 \46,000〜120,000)

 現在、ポムロール地区にて、ペトリュスと肩を並べる価格で取引されるのが、ル・パン。マダム・ルビーという夫人が持っていた1.6haの小さな葡萄園。そこで出来たワインは全てジェネリックのポムロールとして売っていたそうです。79年にマダムが亡くなった時、この畑を二束三文の値で買い取ったのが、隣接するヴィユー・シャトー・セルタンのティエンポン家。現在約2haの畑から造られるワインは年間たったの600ケース。収穫量を1ha当たり30hl程度に抑え、発酵後は100%の新樽で熟成。ただし樽香が強くつくのを避けるため、樽の焦がし加減は控えめ。ちなみにル・パンとは建物の前に立つ一本松(ル・パン)のことだとか。
 このワイン、そしてもう一つのシンデレラ、下記のヴァランドローも醸造コンサルタントとして関わっているのが、あのミッシェル・ロラン氏。「うちの畑を見てもらい始めたのは、彼がまだ若く無名の頃。ル・パンが評判を取ってロラン氏の名も上がった」とティエポン氏は言っているようですが、これは「鶏と卵」かな?

 幸運にも、92年のル・パンを頂くことが出来ました。この年のル・パンは、このワインのスタイルを物語るものかどうか分かりませんが、パーカー氏の辛口の批評以上のワインである事は間違い無いように思います。参加者全員一致で「ル・パン!美味しい」という感想。これからが飲み頃なんだと思います。香りにはハーブやスパイスが優雅に漂い、スムースで滑らかな飲み心地、きれいな酸味を感じさせるワインは、ボルドーともブルゴーニュとも、いやローヌともとれエキゾチックで魅力的です。

Bordeaux - St-Emilion


Ch. de Valandraud
シャトー・ドゥ・ヴァランドロー

サンテミリオン 赤 (M75,CF20,Ma5)
('94 \80,000前後)

 元銀行マンのジャン・リュック・テュヌバン氏が人にすすめられ、わずか0.6haの畑を買ったのが1989年、ファーストヴィンテージは1991年。わずか2年後の1993年ヴィンテージにパーカー氏が最高得点が与え、一躍シンデレラ・ワインとして、この地区最高値で取引されるワインとなったのが、このヴァランドロー。バックに、やはりミッシェル・ロラン氏、そしてこの地区のトップシャトー、オーゾンヌのオーナー一族、A.ヴォーチエ氏。ワインのオートクチュールを目指した造りは、化学肥料は一切使用せず、収穫は全て手作業。より凝縮した果汁を得る為、昔ながらに足で葡萄を踏み木槽で発酵。新樽100%、18〜30ヶ月の熟成。こちらも年間約600ケースという少量生産です。

 94年のヴァランドロー、まだまだもったいないです。かなりスモーキーで、青い感じもあります。ただ、そのワイン自体はメルローとしては、傑出した深いガーネットをしており果実感は十分、完全なるフルボディ。現時点では、エレガンスという意味で物足りなさを感じるのですが、このワインの持つ要素が溶け合ったら凄いことになるのでしょう。
(サンテミリオン地区第一特別級B)


シンデレラワインの図式
 さて世間を騒がすシンデレラ。たかがワイン、されどワイン。一本のワインにどうしてここまでの高値が付けられてしまうのでしょう?

@小規模の畑、生産量による、手間隙かけた造り
Aミッシェル・ロラン氏他、著名な人物によるコンサルタント
||
B現代的な凝縮した高品質のワイン
Cパーカー氏他、評論各誌の高ポイント
D市場の評価、需要拡大
E希少性を伴う高価格

 簡単にまとめると、こうなるのでしょうか。
 各シャトーのオーナー達は小さな畑だからこそ出来る管理と製法を用い、より高品質なワインを造るため、優れた人の助言を求めるのは良いことでしょう。またそうして出来上がったワインに高い評価が与えられて当然の事。

 厄介なのは、その先ではないでしょうか。素晴らしいワインの価格が高騰するのは止むを得ないところですが、なんせ数が少ない。入手困難となり「幻」の言葉まで使われるようになる。そうなると人の心情からして、余計に手に入れたくなります。

 そこにまた登場するのが、ネゴシアンブローカーといった存在。投機の意味でのワインも存在することとなります。数々のオークションでも「82年のル・パン」「93年のヴァランドロー」等のワインが引き合いに出され、噂を呼び、ますますの拍車がかかる要因になっているように思います。


コンサルタント、評論家の存在

 ここでどうしても言及したくなるのが、コンサルタント、そして評論家と呼ばれる方々の存在です。今のシンデレラワインがここまで高価なワインとして存在するには、かなりのウエイトを占めているのも事実でしょう。「すべてのメルローがミッシェル・ロラン印になっている」などの話もよく出てきます。そういった話を聞くたびに、ロラン氏やパーカー氏は、いけないことをしているのか?って問いたくなります。

「ミッシェル・ロランがコンサルタントしているワインは、パーカー・ポイントが高い」という問いにロラン氏は笑ってこう答えています。

「パーカーとは20年来の友人。何しろ12月24日の誕生日まで一緒なんだよ。パーカーが1981年に初めてボルドーにやって来て、シャトーを回ったがどこもテイスティングさせてくれなかった。(中略)僕の造ったワインならいいよと、4時間もワイン談義をし、意気投合した。翌年からボルドーでのセッティングをしてあげている仲。」(ヴィノテークより)

 そうロラン氏とパーカー氏、旧知の友人なんですよね。当然人には人情がありますから、恩人のワインをけなしたくはないでしょう。無意識のうちにある程度の「色」がつけられても当然。しかしながら、パーカー氏の評価は確固とした判断に基づくものであると思います。実際にロラン氏は素晴らしいワインをプロデュースしているのですから。

 確かにロラン氏やパーカー氏の名前が、やや広告塔の意味で使われている傾向もあると思います。ただ、値を吊り上げているのは、生産者でもコンサルタントでも評論家でもなく、ワイン市場の奇妙な魔法なのでは?こんなシンデレラの魔法が早く解けて、より健全な市場、そして美味しいワインが適正な価格で飲める時代が来ることを期待しています。

 今回紹介した「ル・パン」「ヴァランドロー」確かに素晴らしいワイン、その背景も含め「RECOMMEND」マークを付けていますが、共に5万円は下らない価格、一部では10万という価格は、やや残念な思いがします。

参考文献
ボルドー
ヴィノテーク

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