葡萄酒の匠


Chateaux Lynch Bages
シャトー・ランシュ・バージュ
(France / Bordeaux)


 ランシュ・バージュはメドック格付け五級とされていますが、今日では第二級同等の評価を受けるシャトーであり「スーパーセカンド」の一本として広く認められています。「スーパーセカンド」とは、1855年の格付けが現在では時代錯誤的な要素を持つため、格付け一級以外の多くのシャトーの中で、特に傑出した品質を持つと広く認識されている銘柄。ランシュ・バージュについては、こちらのお題目をご覧下さい。

「今月のお題目」2002年9月(2):シャトー・ランシュ・バージュ
 以下、ジャン・ミッシェル・カーズ氏が所有するシャトーのリストをまとめて掲載します。


■ WINELIST ■

Bordeaux / Pauillac


Ch. Lynch Bages
シャトー・ランシュ・バージュ
ポイヤック 赤 (CS73,M15,CF10,PV2)
('65 \25,000) ('70 \39,000) ('75 \17,500) ('77 \7,000) ('82 \29,800) ('85 \16,500) ('86 \19,800) ('88 \13,800) ('89 \15,000) ('90 \18,800) ('93 \5,500) ('94 \4,800) ('96 \6,900) ('97 \4,200) ('98 \5,500)('99 \4,800)

 ジャン・ミッシェル・カーズ氏がシャトーを受け継いだのは1974年。1980年にはステンレス・タンク25基を導入し、品質も安定、80年代の傑作を生み出します。ブドウは手摘みで完全に除梗。温度調整されたステンレスタンクの中で通常15〜17日かけて発酵。小さなフレンチオーク樽に入れられ、平均で12〜15ヶ月の熟成。新樽比率は1982年の25%から近年では60%まで増加している。瓶詰め前に卵白にて清澄、濾過処理を軽く一度だけ行う。カベルネ・ソーヴィニオン73%、メルロー15%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド2%。畑面積90ha、平均樹齢35年、平均産出量45hl/ha、平均年間総生産2万5千ケース。


 1999 : 現時点での最新ヴィンテージ。鮮やかな赤紫色をしていて、赤肉、薫香、スミレといったいかにも現代的なアロマ。甘味を含む柔和なアタックと低めの酸からのボリュームがあり、シチューが食べたくなる。ふくよかで人なつっこいランシュ・バージュ。【D:2002】

 1998 : 清潔感のあるクリアーで赤の強いガーネット。ロースト、スギ、充実したプラムやカシスのアロマは、リキュール入りチョコレートのよう。口に含むと酸が低めで柔らかな感触を持ち、ランシュ・バージュらしさはあるけど、あまり大きなワインではないミディアムボディ。余韻のタンニンは、まだ溶け合っていないけど良質、ここのバランスがとれると、早くから美味しいワインになりそう。【D:2002】

 1997 : 赤果実が中心の純粋で清涼感のあるアロマに、タバコやロースト、なめし革的な香りが交じる。酸の強い口当たり、少し小さめの年を感じさせるミディアムボディ。早熟でチャーミングだけど、あと少しまとまりが出るまで待ちたい。【D:2001】

 1996 : 鮮明な深いガーネット。ブラックベリー、西洋杉やタールといった複雑で内向的なアロマ。冷たさのある酸と十分なタンニン、密度のある筋肉質なワインなれど広がりは見えない長熟型。ゆっくりと寝かせてあげたいヴィンテージ。【D:2001】

 1994 : タンニンと酸の強いヴィンテージというイメージ通り。病院を連想させるアルコール香。みずみずしい果実は余韻の収斂性を隠すほどの強さはないか?熟成で良くなればいいのだが。【D:2001】

 1993 : 90年代でベストバイを選ぶならこれだろう。キュッと締った小さな黒果実。バランスが非常によく、アフターの広がりも優しく心地よい。今飲むべき美味しいヴィンテージ。【D:2001】

 1990 : さすがの90、ブラックカラントの豊潤なアロマの周りに、赤系香辛料、海苔の旨味を現すブーケ。完熟した肥えたボディを丸い酸が微妙にリズムをとりながら威圧感を軽減させている。強さと調和のある良年作。【D:2001】

 1989 : HPを作るきっかけにもなった感動のワイン。それまでワインの銘柄も控えようとしなかった私ですが、その複雑で深みのあるブーケにワインの世界への入り口を見たような気がしました。こうした思い出のワインは、夢を崩すのが嫌なので二度と飲まないだろう(笑)。【D:199?】

 1988 : エッジに少しレンガが入る程度の熟成。丁子、石灰、革、ハーブ、ペッパーといった正統派のエレガントなブーケ。ただ全体的には熟成の途中なのか、インパクトに欠け、果実の甘さより樽からの要素(バニラ香や渋み)の方が勝っているような気がする。数年置くと違った側面が現われそうな88年。【D:2001】

 1986 : 88より若々しい、しっかりとした色合い。吸い込まれるような熟成香・・・腐葉土、リキュール漬けの梅、奈良漬といったブーケが、口をつける前にワインの厚みを知らせるよう。とろっとした質感、どこか和風な繊細でいて旨味のある味わい。時間というものがワインの持つ旨味をすべて引き出しているかのような、気をそそられるヴィンテージ。【D:2001】

 1985 : 86と同じく若さのある色をしながら、対照的な個性を見せる85。チェリーやラズベリーの芳しさ。グラーブにありそうな焼けた石のミネラルと都こんぶ。エキス分の高い初々しく純粋な果実。86が懐の深さなら、85はメドックらしさのあるピュアな華やかさ。【D:2001】

 1982 : 期待度満点の82、しかし抜栓したてのワインには参った。十分に大きいであろう果実とシルキーな質感は理解できるが、アロマのすべてが閉じてしまっている。(小一時間待ったが大きな変化はなかった。) 時間が足りない事を悔やんだ一本。【D:2001】

 1977 : 70年代の三大バッド・ヴィンテージの一つ(笑)。良好な熟成を見せるレンガからオレンジのルビー色。シダーとチェリー系のブーケは、時間を追うごとにオイリーでベーコンのような動物臭とコーヒーの香りさえ漂わすあたり、さすがと感心させる。味わいは酸味が主で、余韻は水で洗い流されるような儚さだけれども、このヴィンテージを考えると十分に納得できる。【D:2002】

 1975 : 何故かタールや磯の香りさえ漂う不思議な魅力。背後で低く保たれた酸味、緻密なタンニンが熟成により角のとれた果実と見事に融合。75ヴィンテージにイメージしていたドライな部分を感じさせない、内実のある見事なワイン。【D:2001】

 1970 : 1998年に頂いたこのワインは今でも思い出深い一本。歳月をもろともしない力強さ。あまりにアメリカで人気が出たため、フランス人から「フィネスに欠ける」と敬遠されたり、「プアマンズ・ムートン」と呼ばれたりという話を聞きますが、状態の良いこいつを飲んでみれば?と言いたくなる。未だに整然とした骨格、タンニンの強さを鮮明な黒果実の深さが押さえつけている風。個人的にはボルドー古酒でも五指に入る逸品。【D:1998, 2001】

 1965 : そして初めての「バースディ・ヴィンテージ」を飲んだのもこのワインでした。【D:1999】

 雑感 : 個人的にランシュ・バージュに文句はない(笑)。興味深いのは85と86の対比、もし許されるなら88と89を同時に飲んでみたい。他のシャトーもそうだと思っていますが、82や90という価格の高いヴィンテージよりも、シャトーの個性を味わえるのは、こうしたヴィンテージかもしれない。70と75も絶賛すべき出来栄え。ただし古いヴィンテージゆえ、状態によりけり。70は2001年にも頂いたが、ここに書いたものとは違ったワインだった。


Bordeaux / Pauillac


Ch. Haut-Bages Averous
シャトー・オー・バージュ・アヴルー
ポイヤック 赤 (CS75,M15,CF10)
('88 \6,200) ('93 \4,000) ('96 \3,200) ('97 \2,500)

 1976年から造りはじめたセカンド・ラベル。このセカンドは、もともと独立したぶどう園をランシュ・バージュが買取り、この畑のブドウとランシュ・バージュの若い樹からのブドウをブレンドしたものだった。通常収穫の20〜30%がこのセカンドにまわされる。平均年間総生産1万ケース。


 1997 : エッジにややくすみを感じるのは、瓶底だったのだろうか?小気味よいイチゴのコンフィ、後から出てくるロースト香はランシュ・バージュと共通する部分。余韻があっさりしているが、現時点でも旨味のあるミディアム。【D:2001】

 1996 : シップのような清涼感あるアロマ。少し内向的だけど、ブルーベリー・ジャムの甘さがふわっと香る。97、96共に、今ならランシュ・バージュよりこちらを開けたい。【D:2001】

 1993 : かなり濃い赤紫。セカンドと言えども、きっちり、どっしりとしたポイヤックらしさ。セカンドだからって、これ位のヴィンテージでも飲んでしまう人が多いと思いますが、ちょっともったいないと感じてしまう。【D:1998】

 1988 : カシスを中心に若さのあるアロマは、どこか焼けたようなの温かさ。甘味を含む良質なボディ、たっぷりと長い余韻。【D:2001】

 雑感 : オー・バージュ・アヴルーの各要素は、当然ランシュ・バージュの小型版で少し地味に感じますが、まとまりの良さがある。ただし正直なところ、このセカンドにはランシュ・バージュの「らしさ」があまり感じられないと思う。いいワインだが、どこか愛想がない。


Bordeaux / Pauillac (AC Bordeaux)


Blanc de Lynch Bages
ブラン・ドゥ・ランシュ・バージュ

ポイヤック(ACボルドー) (Se40,SB40,Mu20)
('97 \3,000) ('99 \3,000)

 カーズ氏は1987年、4haの畑に白ブドウを植え、もう一つの革新、白ワインの生産に乗り出した。初ヴィンテージは1990年。新樽での発酵、約12ヶ月の樽熟成。セミヨン40%、ソーヴィニヨン・ブラン40%、ミュスカデル20%。畑面積4ha、平均樹齢10年、平均産出量55hl/ha、平均年間総生産2500〜3000ケース。

 1999 : 爽やかさとフレンドリーなバランスを持った美味しい白。97で感じられた樽香はさほど多くはないので、かなり清涼感が重視された造り。【D:2001】

 1997 : ややオイリーで、はしばみや樽からのバニラ。飲んでみると、スッキリしたボディと、シャープな酸味が印象的でフレッシュさが好ましい白。デキャンタしたものと、しないものを比較しましたが、しない方が個性がはっきりしていた。このワインはあまり置かずに早めに飲んだほうが美味しく頂けるように思います。【D:2000】


Bordeaux / St-Estephe


Ch. Les Ormes de Pez
シャトー・レ・ゾルム・ドゥ・ペズ

サンテステフ 赤 (CS70,M20,CF10)
('86 \6,000) ('94 \2,600) ('95 \3,700) ('97 \2,800)('99 \2,900)

 カーズ家がサンテステフに所有するブルジョワ級で、大変お値打ちな高品質ワインを造るシャトー。名前の意味は「ぺズの楡の木」。ほぼランシュ・バージュと同じ醸造過程を経る。ブドウは手摘みで完全に除梗。温度調整されたステンレスタンク(18基)の中で通常15〜17日かけて発酵。ランシュ・バージュで1〜2年使用されたオーク樽にて15ヶ月の熟成。
 カベルネ・ソーヴィニオン70%、メルロー20%、カベルネ・フラン10%。畑面積33ha、平均樹齢35年、平均産出量50hl/ha、平均年間総生産1万7千ケース。


 1999 : 最新の99年は、カラントとハーブ系のアロマを中心に、分かり易い旨さを持つミディアム・ボディ。現時点で心地よさがあるが、少し置く事で深みがプラスされるのを期待したい。【D:2002】

 1997 : キレイなガーネット色。柑橘の香りを中心にシダー的な熟成香と甘味。優しいアタック、広がりのある味わいは、深さよりも素直な美味しさ。【D:2001】

 1995 : 赤紫の若さ。黒果実の深いアロマが魅惑的。伸びやかな酸味と芳しい甘味を持つピュアな果実味は非常にエレガントでトラディショナルな印象。ボルドーを飲みなれた人が好みそうなヴィンテージ。【D:2001】

 1994 : エッジに少し熟成を見せる94。ミント系のすっきりとした酸性の強い香りはペズ共通なのかも? 余韻に収斂性があるのは、ヴィンテージを現すものだろう。【D:2001】

 1986 : 86年は2000年と2001年に二度、いづれも熟成の頂点。2000年に頂いた方は、コルクにキラキラ光る酒石が。さすがに15年近く前のワイン、果実は柔らかさを帯び「森の中」といった表現がぴったりの清涼感。朝露を含んだ杉の香りとドライフルーツやウーロン茶。「鉛筆の芯」というニュアンスがよく分かるメドックらしいもの。【D:2000,2001】

 1982 : ジャン・ミッシェル・カーズ氏にサインをして頂いた82年のワイン(写真右)。でもすでに頂上は越えていたのかな?(笑) 柔らかなワインですが、大柄なヴィンテージゆえか、緩さが気なった。【D:2001】

 雑感 : レ・ゾルム・ドゥ・ペズは好みのワイン。全体としては、強さの面でランシュ・バージュにはかなわないし、熟成は少し早いと思いますが、果実の純度、チャーミングで酸の心地よさが嬉しいワイン。ボルドーに求める適正な重さと、果実味がよく表現されていると思います。



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