October 2002

今月の御題目

グラスの形で味が変わる
リーデルとグラスの機能

 ワイン好きが高じてくると、その保管状態やら提供温度やら食事との相性やら・・・なにかと注文が多くなってきますね。そんな中で、ワインとグラスの関係に気づき始めたら立派なワイン通(笑)。

 ワインの世界では、ブドウ品種毎に定番とも言えるグラスが存在するわけですが、現在そのスタンダードな形として広く認められているのがオーストリアのリーデル社のグラス。今回はワインとグラスについて、リーデル社の提唱する「グラスの機能」について考えてみたいと思います。


RIEDEL

 1756年創業のリーデル社。ボヘミアに始まり、当時はシャンデリア、香水瓶等のガラス生産を行っていたという。第二次世界大戦後、チェコスロバキアの共産主義化によりリーデル工場は、接収、国営化されたためクラウス・ヨゼフ・リーデルはオーストリアにおいて再スタートさせる事となります。

 1956年、クラウス・ヨゼフ・リーデルは、父ワルターと共にチロルに工場を設立。彼の功績は色付き・装飾のガラスから無色・透明の機能的な脚付グラスに方針を変更した事。1960年「リーデル・ソムリエシリーズ」の開発に成功します。クラウスの息子、現社長であるゲオルグ・リーデルは、この考えを異なった価格帯の製品にも適用し、ブドウ品種とグラス形状の関係を科学的に考え研究し続けています。これらのグラスは、エキスパート達の試飲による味覚判定を基準に最終決定され、時にはワイン愛好家達の意見も取り入れるといいます。現在では、ソムリエシリーズを筆頭に数々のシリーズを発表、全世界のワインファンから支持を受けています。


リーデルのラインナップ及びグラスの詳細は、リーデル社公認アプローブド・ショップ「Wine Accessories Creation」さんのHPを参照して下さい。Wine Accessories Creation : RIEDEL
またこのページでは「ワイン、葡萄の品種」別に適切なグラスが検索できます。


グラスと舌の味雷

 リーデルがワイングラスの定番となった理由は、ワイングラスをワインの個性、すなわち香り、味わい、外観を引き出すための道具として検証しているからでしょう。

 ワイングラスの多くが無色・透明なのは、ワインの色を判断するためのもの。口の部分がすぼんだボウル状をしているのは、その香りをグラス内にためこむためで、品種毎によるアロマの強弱により容量を変化させています。また、長い脚は、人の体温がワインに伝わらないように工夫されたもの。

 グラスの形状は、香りの良否、強弱と共に、ワインが口中に運ばれるまでの流れ方にも関連性があり、ワインが舌のどの部分に触れるかは、グラスの形状、大きさ、仕上げ、さらにグラスの厚みも関連します。

 人間の舌には「味雷」という味を感じる部分があるのはご存知かと思いますが、グラスの形状はここにも影響してきます。酸味や渋味など、口に入れた瞬間、どこに多く触れるかという事により、味わいの印象も変化してきます。(図右)


 写真左はブルゴーニュ・タイプ、右はボルドー・タイプのグラスですが、これを見るとワインがどういう風に口中へ流れ込むかが理解できます。酸味が強く、タンニンはほどほどという個性を持つピノ・ノワールには、舌先への流れを作り、フルーティーさと甘味を強め、酸味を押さえる。また、酸味は中程度、タンニンの多いカベルネ・ソーヴィニオンには、フルーティーさを強め、苦味を押さえる形状を採用。こうした分析は、すべてのブドウ品種に適用されており、グラスの形がそれぞれのワインの特性を十分に引き出す事を目的にデザインされているのが理解できます。

Bourgogne

Bordeaux


グラスの形で味が変わる事を体感
リーデル・ワイン・ブティック

 さて、理屈では理解できても「本当にそんなに違うの?」なんて思う方もいらっしゃるはず。そんな方に是非おすすめしたいスポットが、2001年にオープンした東京・青山の「リーデル・ワイン・ブティック」。グラスの機能を手軽に体験できるテイスティング・コースが用意されていて、新発売されたヴィノム・エクストリーム・シリーズを使用し、シャルドネ、ピノ・ノワールなど異なる4種のグラスを味わえるコースがあります(要予約、3000円)。またグラス・オブ・ザ・マンスは月替わりでグラスとワインのマッチングを楽しめます(500円)。

 エクストリーム・シリーズとは、昨年リーデルが発表した新しいタイプのワイングラスで、果実の凝縮度が高まった現在のワイン造りに適応するものであり、特に新世界ワインの需要の高さから、そうしたワインの個性を表現するために製作されたもの。そのグラスは、今までは見られなかったダイヤモンド形の形状が採用されています。(写真右はピノ・ノワール用)

 今年始め、リーデル・ワイン・ブティックにて、エクストリーム・シリーズの実力を体感する事が出来ました。通常は、エスクトリームと「ジョーカー」という、そのワインにふさわしくないとされるミスマッチ・グラスでの比較テイスティングなのですが、ご無理を言って定番中の定番である通常のヴィノム・シリーズとの比較も経験させて頂きました。以下は、その時供出されたワインとグラス達。

@ 2000 Yarra Ridge Sauvignon Blanc Yarra Valley (Australia / Victoria)
A 1998 Beringer Chardonnay Napa Valley (California / Napa)
B 1997 Beringer Pinot Noir North Coast (California / North Coast)
C 1997 Beringer Cabernet Sauvignon Knights Valley (California / Napa)


416/33
Sauvignon Blanc
214H350cc
¥2,125

416/5
Chardonnay
198H350cc
¥1,955

416/7
Bourgogne
210H700cc
¥2,380

416/0
Bordeaux
225H610cc
¥2,380

vinum ヴィノム

444/5
Sauvignon Blanc
240H460cc
¥2,805

444/97
Chardonnay
227H670cc
¥3,230

444/7
Pinot Nebbiolo
246H770cc
¥3,230

444/0
Cabernet Merlot
247H800cc
¥3,230

vinum extreme ヴィノム・エクストリーム



当日のワインと試飲グラス
@ 2000 Yarra Ridge Sauvignon Blanc Yarra Valley (Australia / Victoria)
 まずはソーヴィニヨン・ブランの試飲。オーストラリアのヤラ・リッジのワイン。エクストリームのソーヴィニヨン・ブラン用グラスは、リースリングにも対応できるということ。
 エクストリーム使用:ヤラ・ヴァレーはピノ・ノワールの産地としても知られるように、オーストラリアの中でも冷涼な気候。このソーヴィニヨン・ブランもそんな気候を思わすクールな酸味。ブドウが成熟するまでのハングタイムが長そうなミネラル感、果実の奥にあるカラメルの甘さをグラスが引き出しているようです。
 ジョーカー使用:このワインを口の広がったミスマッチ・グラスで頂くと、トレッビアーノ種のワインにあるような酸味が主体に感じ、平坦な印象となってしまいます。
A 1998 Beringer Chardonnay Napa Valley (California / Napa)
 ここからは、すべて「Appellation Collection」という私も大好きなカリフォルニア、ベリンジャー社のワイン。シャルドネ用のエクストリームは非常にボウルの容量が大きく、通常のヴィノムの倍くらいの大きさ。
 エクストリーム使用:深い黄金色のシャルドネは、トロピカルフルーツを中心としたボリューム感のあるアロマ。カリフォルニアらしいふくよかな印象ですが、酸味もしっかりとバランスが良い。
 ヴィノム使用:ここで驚いたのですが、通常のヴィノムに移すと、まるでフランスのモンラッシェ系のワインに感じる事。果実の大きさより、ミネラリーな部分と切れのよい酸が強調され、エレガントな風情に。こんなにもイメージが変化するのか。
B 1997 Beringer Pinot Noir North Coast (California / North Coast)
 ヴィノム使用:アプリコットやドライフルーツの熟成香も出始めていて、内から外へ広がる丸い酸と余韻での甘苦系のタンニンがあるワイン。やや過熟の印象もあるけれど、全体的には落ち着きのある印象。
 エクストリーム使用:ピノ・ノワール用のエクストリームは、形を見れば分かるように、最も菱形のラインが強く、アロマがグラスの中に充満するような感じ。これでもかと言わんばかりのフルーツ香、甘さのある人なつっこいピノ・ノワールに変化。

C 1997 Beringer Cabernet Sauvignon Knights Valley (California / Napa)
 ヴィノム使用:ベリンジャーのカベルネは定評あるけれども、ヴィノムはスパイスやロースト香、シナモンなどの複雑に絡み合うアロマとワインの骨格を表現しているよう。
 エクストリーム使用:シャルドネやピノ・ノワールで感じた差ほどはないのですが、やはりストレートにわき立つプラム系果実が魅力。香りよりも口中での甘さの変化の方が面白く、ヴィノムではギッシリ詰まったタンニンをマイルドな方向にふっている感じがする。

 この比較は本当に面白かった。ミスマッチ・グラスとの差があるのは試飲前から予想できたけれども、ヴィノムとの差がここまで感じられる事には正直驚いた。特にシャルドネ用とピノ・ノワール用は、その差が歴然としており、同席した友人二人と一緒に「これをブラインドで使えば勝てるぞ」「いやいや余計に間違えそう」等と話していた次第(笑)。
 エクストリーム、ヴィノム、双方の美点はあると思いますが、エクストリームの果実感が強調されるスタイルは興味深い。主に新世界ワイン用ということで、当然そのボリューム感を引き出すグラス。また、個人的にはやや厳しい感じのする旧世界ワインをエクストリームで頂くのもいいのではないかと思います。


リーデル・ワイン・ブティック
港区南青山1-1-1 青山ツインタワー東館1F Tel 03-3404-4456
営業時間:月〜金11:00〜20:00 / 土・祝10:00〜18:00 / 日曜定休日
またこちらでは、毎月のグラスワインの内容を紹介されています。


さて、何を買う?
class30のおすすめ

 さて、ワインに合わせてグラスを選ぶというのは、もはや常識でもありますし、せっかくのワインを美味しく飲むには、それなりのグラスも必要。リーデルだけでなく、世界中には優れたグラスメーカーがあります。バカラ:Baccaratロブマイヤー:Lobmeyr 等は私も愛用していますが、ここぞという時には最高のテーブルを演出してくれます。リーデルの最高峰、ソムリエ・シリーズは、薄さ、軽さ、形状と、やはり模範となる特筆すべきもので、これらのグラスはワイン好きなら憧れでしょうね。

 ただし、こうしたクリスタル製グラスはかなり高価。ボルドーやブルゴーニュタイプを買おうと思うと、ほぼ一脚一万円が必要となります。そして高級ワインを対象に作られているので、かなり大ぶり。それぞれの品種用を揃えるとしたら、食器棚が占領されてしまう。。。付け加えれば、クリスタルは非常にデリケートで洗浄にも注意が必要です。水道の蛇口に「チン」と触れただけで割れてしまう事もしばしば。。。酔った状態では洗わない方が良い(笑)。 そんな事も踏まえながら、お家でワインといった場合、どんなグラスが便利なのか? class30が日常愛用しているタイプを紹介します。



●リーデル・オヴァチュア・シリーズ
型番408/00 RedWine 181H350cc ¥1,105

 機能はそのままに、業務用用途のために開発されたグラスがオヴァチュア・シリーズ。このグラスを愛用する理由は、まずその大きさと形。形はボルドースタイルですが、カベルネ・ソーヴィニオン以外の品種でもOKだと思っています。基本的に赤ワイン用なのですが、白ワインにも兼用できる大きさ。最高級のソムリエ・シリーズを見て面白いのは「型番400/0 Bordeaux & Chardonnay」なんてグラスがありますが、この「型番408/00 RedWine」は、そのグラスと同じ350ccの容量、ボウルの形も似ているんです。ヴィノムのシャルドネ用とも同じ容量、脚を少し短くした感じと言えば、サイズが分かって頂けるでしょうか。これは耐久性も優れており、一度フローリングの床に落とした事があるのですが、それでも割れなかった。私はピノ・ノワール以外のデイリーワインは、大体これで頂いています。

 このグラスは4脚単位で箱に入っており(当然1脚でも購入可能)コンパクトに収納できる利便性もよい。使わない時は箱にしまって押入れへ。ワイン会を催す時など、少し人数が多いと、ワインを持ち込みさせて頂くレストラン側もグラスの数が大変。そんな時、以前はINAOのテイスティンググラスを持っていってましたが、最近ではこのグラスを用意し対応しています。「INAOじゃワインが可哀想」でも「大ぶりのソムリエじゃ大袈裟だ」といった場合、最高の使い勝手の良さ。自宅でワインパーティーを開く機会が多い方にも、是非お薦めしたいグラスです。



●リーデル・ベイシック・シリーズ
型番406/1 RedWine/GourmetGlass 160H370cc ¥1,020

 脚の短い安定感のあるデザイン、ボウルデザインはヴィノムと同じものを採用したベイシック・シリーズ。実はリーデルで初めて購入したのがこのグラス。上記のオヴァチュアと同じく丁度良い大きさ、よく見るとボウルの形はエクストリームのボルドータイプにも近い(笑)。

 「グルメグラス」というネーミング通り、多様なワインに対応させるべく作られたものでしょうし、やはり日本の食卓でのテーブル・ウェアとしては脚の長いグラスは違和感がありますよね。大勢での楽しい集まりでは、酔っ払いが続出する事も念頭に入れると安全性も高い(笑)。そして小さなお子様のいる家庭でも、こんなグラスが重宝するのではないでしょうか。ワイワイと楽しく、日本のワインのある食卓には最適の一脚だと思います。



 たかがグラス、されどグラス。確かにグラスによってワインの味わいは変化します。でも、あんまりこだわりすぎるとワインって楽しくなくなってしまう事も。ハレの日のために、お気に入りのグラスを数脚、普段使いや気さくなパーティー用に、こんなベーシックなタイプを多めに揃えておくといいのではないでしょうか。


今回のお題目は、「リーデル・ジャパン」様、リーデル直営ショップ「リーデル・ワイン・ブティック」様、リーデル社公認アプローブド・ショップ「Wine Accessories Creation」様の許可を頂き掲載させて頂いております。

「リーデル・ジャパン」様、「Wine Accessories Creation」様にはリーデルに関する資料及び画像の使用許可を頂き、感謝致します。当ページにはリーデル社が著作権を持つ画像を含みますので、無断での転載は固くお断り致します。


今月の味わいのあるワイン2002年10月
ではカリフォルニアワインを紹介しています。

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class30 "The Wine"