ようやくコート・ド・ニュイの最終地点であるニュイ・サン・ジョルジュの村までやってきました。名を見ればお分かりの方も多いと思いますが、ボーヌに並ぶ重要な商業都市であるこの名をとって、コート・ドールの北半分を「コート・ド・ニュイ」と呼ぶようになりました。 いかにもブルゴーニュの精髄といった村の名前ですが、ワインファンにとってもイマイチ取り上げられる事が少ないように思います。そんなニュイ・サン・ジョルジュ、ちょっと詳しく周ってみましょう。 |
ボーヌに次いで二番目に人口が多く、大手のネゴシアンや醸造所が本拠とし、ワインを生産・販売していますが、その昔、この村がボーヌやポマールと同じく、ある意味ブルゴーニュを象徴するような名前であったが為に、ここで産まれたワインでないものさえ「Nuits-Saint-Georges」の名で売られていたと言います。多くのネゴシアンがひしめく商業都市である事が、福とならず災いに転じたケースもあった様子。 こうした背景が、ニュイの人気に影を落としたようですが、原産地呼称が確立した現代では、そんな悪行がまかり通ってはいない。ただし、数の多いプルミエ・クリュ、広い栽培面積という事も含め、ブルゴーニュにおけるワイン選びの定石である「生産者」と「畑」に気をつけなければいけないアペラシオンだと思います。 |
地図を見れば分かるように、ニュイ・サン・ジョルジュのブドウ畑は南北6.5kmに広がっていますので、その個性も畑の位置により変わってきます。村落を挟んで北のヴォーヌ・ロマネ側、村落の南側、そして隣村のプレモー・プリセ。この三つの地区に分けて覚えると理解しやすいと思います。 |
1 Aux Boudots 2 Les Damodes 3 Aux Cras 4 La Richemone 5 Aux Murgers 6 Aux Vignerondes 7 Aux Chaignots 8 En la Perriere Noblot 9 Aux Champs Perdrix 10 Aux Torey 11 Aux Bousselots 12 Aux Argillas |
13 Les Crots 14 Rue de Chaux 15 Les Proces 16 Les Pruliers 17 Ronciere 18 Les Poulettes 19 Les Perrieres 20 Les Poirets 21 Les Chaboeufs 22 Les Vaucrains 23 Les Cailles 24 Les Saint-Georges 25 Chaines Carteaux |
26 Les Didiers 27 Les Forets 28 Aux Perdrix 29 Aux Corvees 30 Les Argillieres 31 Les Grandes Vignes 32 Clos Arlot 33 Clos de la Marechal |
この村の一級畑は小区画の名前がラベル表記されることも多いので、記しておきます。 13 Les Crots : Les Crots、Chateaux Gris 16 Les Pruliers : Les Pruliers、Les Proces 20 Les Poirets : Porrets Saint-Georges、Clos des Porrets Saint-Georges 29 Aux Corvees : Clos des Corvees、Clos des Corvees Pagets、Clos Saint-Marc 30 Les Argillieres : Les Argillieres、Clos des Argillieres | ||
27 Les Forets は、Clos des Forets Saint-Georges、31 Les Grandes Vignes は、Clos des Grandes Vignes とも呼ばれます。 | ||
また一級畑に接する村名畑に限り、ラベルに畑名を表記できるものがあります。Au Bas de Combe、Aux Lavieres、Aux Allots、Les Hauts Poirets 等は村名格。その品質は一級物に迫りますが、混同しないよう注意が必要。 |
この村のワインの特徴として「タンニンが強い」「頑強」「長熟」等と言われますが、もしその典型を求めるなら、中央に位置するサン・ジョルジュ地区ということになるでしょう。この中でも村名の原形となった[24] レ・サン・ジョルジュの畑はグラン・クリュに匹敵するとされています。それに寄り添う[22] レ・ヴォークラン、[23] レ・カイユと共に、ニュイの象徴とも言える畑。 プレモー・プリセ地区は、サン・ジョルジュ地区と繋がっていますので、個性も似ている。(そのためプレモーのワインはACニュイ・サン・ジョルジュを名乗れる。) [29] オー・コルヴェ、[30] レ・アルジリエール等は同村のトップ・クラスと評されます。 ヴォーヌ側地区は、ご覧のとおりヴォーヌ・ロマネから地続きの斜面。土壌構成も似ているため、華やかで芳醇なワインが産出されます。村境に接する [1] オー・ブード、[2] レ・ダモードはヴォーヌ・ロマネに寄る個性の畑ですし、[3] オー・クラ、[4] ラ・リシュモーヌ、[5] オー・ミュルジュ、[6] オー・ヴィニュロンド等、秀逸な畑が揃っています。
やはりヴォーヌ・ロマネの方が接する機会が多いからでしょうか、個人的にもヴォーヌ側地区のものに感銘を受けることが多いように思います。また日本の市場では、比較的サン・ジョルジュ地区のワインの流通量が少なく、地味な印象を持ちます。レ・サン・ジョルジュやヴォークランという畑はもっと飲みたいのですが、なかなか見つからないのが残念。 |
ブルゴーニュでは「生産量の多い村は要注意」と言われますが、広い面積を持つニュイ・サン・ジョルジュもその中の一つのようです。(ジュヴレイ・シャンベルタンもそうですね。) 数多くのワインから確かなものを選ぶ早道は、志の高い生産者を把握すること。
またこの村では、オスピス・ド・ボーヌに倣ってオスピス・ド・ニュイ (Hospices de Nuits-Saint-Georges) という慈善オークションを行っています。ボーヌほど規模も大きくありませんが、価格も相応で確かな品質のもの。ワインはニュイ・サン・ジョルジュ一級に限られ、約8haの畑から模範的なワインが造られています(注1、写真右)。
その他、ロベール・シュヴィヨンの従兄弟であるミッシェル・シュヴィヨン (Domaine Michel Chevillon)、近年メキメキと頭角をあらわしているジャン・ジャック・コンフュロン (Domaine Jean-Jacques Confuron) やベルトラン・アンブロワーズ (Domaine Bertrand Ambroise)、デュジャック流のワイン造りで知られるラルロ (Domaine de l'Arlot) に注目。 (注1 : [26] レ・ディディエ はオスピス・ド・ニュイの単独所有。競売の日程が、オスピス・ド・ボーヌは収穫後の11月第三日曜日であるのに対し、オスピス・ド・ニュイは翌年の3月末から4月にかけて行われる。この方が適正な判断が下せるため、理にかなっていると言われる。価格が暴騰するオスピス・ド・ボーヌに比べ、本当にお値ごろなのが良い。) |
最後にニュイで忘れてはいけない造り手がアンリ・グージュ (Domaine Henri Gouges)。低収量型品種のクローンを作る名人でもあった創設者の故アンリ・グージュは、原産地呼称制度の誕生と発展にその生涯をかけた人物(注2)。
彼は1920〜30年代の不況下、土地の価格が低落して数多くのブドウ畑が売りに出される中、最良の区画を次々と買収してドメーヌの基盤を築いていきます(注4)。サン・ジョルジュ地区を中心とした優れた一級畑から生み出されるワインは、その功績と共に、ニュイ・サン・ジョルジュの指標と称えられていました。 1967年、アンリの死去により、二人の息子が引き継ぐことになりますが、残念なことにその評価は激変、酷評にさらされるようになります。先代の偉大なる実績にアグラをかいた結果といえるのでしょうが、1980年代後半からは、それぞれの息子(従兄弟同士)が仕事を分担してドメーヌを切り盛り。低迷した時期を、ピエール(栽培担当)とクリスチャン(醸造担当)が立て直しそうだと伝えられます。 ブルゴーニュにおいては、名声を極めた生産者が地に落ちるという「諺」のような事象が散見されますが、こういう話を聞くにつけ、ワイン造り、もの造りの深さを思い知らされるような気がします。 (写真 : ドメーヌ元詰のワインに記されることが当たり前となった「MIS EN
BOUTEILLE AU DOMAINE」の文字。アンリ・グージュのボトルは、その文字が誇らしげに見えます。) |
ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアーも10回をかけてコート・ド・ニュイを巡ってきました。読んでいただきありがとうございます。私もいつまでもブルゴーニュにいるわけにはいきませんので、ここらでちょっと一休み(笑)。コート・ド・ボーヌの旅は、他のお題も混ぜながら徐々にアップしていきます。 |
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