June 2002 (2)

今月の御題目

ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアー Vol.7
偉大なる生産者:ルロワ(後編)

 現在、世界の愛好家から注目を集めているドメーヌ・ルロワのワイン。DRCと決別したマダムは自分のドメーヌにて、究極のワイン造りを行っているようにさえ思えます。前編では、ルロワ社の歴史を中心に現在に至るまでの経緯を説明しました。今回はブルゴーニュの頂点と評されるドメーヌ・ルロワについて・・・All About。


ドメーヌ・ルロワ概要

 1988年、日本企業の「フランス高島屋」がルロワ社に資本参加(株式の1/3)。マダム・ルロワはこの資本を元にヴォーヌ・ロマネの特級畑を所有するドメーヌ・シャルル・ノエラを買収、ドメーヌ・ルロワが誕生します。 続いて翌年には、ジュヴレ・シャンベルタン村のドメーヌ・レミーを手中に収め、22haを超える自社畑を所有する大ドメーヌとなります。

 ドメーヌ・ルロワでは、創設時、オスピス・ド・ボーヌの名醸造家アンドレ・ポルシュレ氏を招き注4、ワイン造りを行ってきました。グラン・クリュは勿論、プルミエ・クリュ、村名格のワインまで新樽で熟成、清澄・濾過をしない。そんな醸造的なテクニックもさることながら、このドメーヌの偉大さを物語るのは「畑の手入れ」。あくまで自然の大地を重んじるマダムの理念に基づき、ブドウ栽培は全てバイオダイナミクス農法注5がとられ、これによりテロワールの個性を映すブドウを収穫する。そして健全な果実に拘る徹底した選果。こうした努力のもと生まれるワインは、ブルゴーニュ中でも最も低い収量注6となり、ブドウの持つ力が最大限に発揮されたワインが生まれます。

注4 : 「招いた」というより高額の報酬で「引き抜いた」。オスピスはルロワに対しクレームをつけ、ポルシュレ氏に相応の報酬を提示したが戻らなかった。しかし結局マダムとの意見の対立から1994年にオスピスへ復帰。現在ポルシュレ氏はオスピスも去り、カリフォルニアのベリンジャーにいるらしい。)
注5 : ビオディナミとも言われる自然農法。99年10月のお題目を参照して下さい。)
注6 : ブルゴーニュは法律により各アペラシオンの最大収量が定められています。細かな差はあれどACブルゴーニュで60hl/ha、村名畑で40hl/ha、特級畑で35hl/haくらい。ドメーヌ・ルロワの平均収量は97年で17〜19hl/ha、95年で15hl/ha、病害に悩んだ93年に至っては5〜6hl/haという低収量。ワインが高価格で販売できるルロワならでは。)


ドメーヌ・ルロワ、ドメーヌ・ドーブネ
ワイン・リスト

Domaine Leroy Domaine d'Auvenay
Chambertin *
Latricieres Chambertin *
Gevrey-Chambertin Les Combottes
Gevrey-Chambertin
Clos de la Roche *
Musigny *
Chambolle Musigny Les Charmes
Chambolle Musigny Les Fremieres
Clos de Vougeot *
Richebourg *
Romanee-Saint-Vivant *
Vosne-Romanee Les Beaux Monts
Vosne-Romanee Aux Brulees
Vosne-Romanee Les Genevrieres
Nuits-Saint-Georges Aux Allots
Nuits-Saint-Georges Au Bas de Combe
Nuits-Saint-Georges Les Boudots
Nuits-Saint-Georges Aux Lavieres
Nuits-Saint-Georges Les Vignerondes
Corton-Renardes *
Corton-Charlemagne *
Savigny-les-Beaune Les Narbantons
Pommard Les Vignots
Pommard Les Trois Follots
Volnay Santenots
Mazis Chambertin *
Bonnes Mares *
Meursault Chaumes de Perrieres
Meursault Les Gouttes d'Or
Meursault Les Narvaux
Meursault Pre de Manche
Meursault
Chevalier Montrachet *
Criots Batard Montrachet *
Puligny Montrachet La Richarde
Puligny Montrachet Les Folatieres
Auxey Duress Les Boutonnier
Auxey Duress Les Clous
Auxey Duress
Bourgogne Aligote Sous Chatelet
Bourgogne Aligote
* はグラン・クリュ 、 で表示しています。
ルロワは畑を買い足していますし、まだ種類はある
と思いますが、確認できる主要な畑を記載しました。

 まだ創設されて13年余りとは思えないほどのワイン・リスト。なんといっても30あまりしかないコート・ドールの特級畑を9つ、ドーブネも合わせると13ものグラン・クリュは圧巻。よく見るとドメーヌ・ルロワではコート・ド・ニュイを中心とする赤ワインが主体なのに対して、ドーブネはボーヌの白ワインが多い注7

 現在ではDRCを凌ぐとさえ言われる品質を実現し、格別の評価を受けるこれらのワインは、当然その価格も別世界。正規価格では比較的廉価なドーブネのオークセイ・デュレスでさえ1万円ということですし、グラン・クリュとなると10万という値がつく事も。また、各畑の所有面積はさほど広くないため、市場に出た後もプレミアムがつき高騰することもしばしば。例えば、ミュジニーの畑は0.27haであり、その年産は600本前後。ドーヴネで生産しているボンヌ・マールは0.26ha、クリオ・バタール・モンラッシェに至っては0.06haしかなく年産なんと72本のみでした注8

 1933年生まれのマダムの年齢を考えると「実際にワイン造りに携わるのは、あと数年?」と噂される昨今。現在でも伝説のように語られるワインが、本当に幻となる日が来ない事を願うばかり。

注7 : ドメーヌ・ルロワ、ドメーヌ・ドーブネ共に、基本的には赤ワインに赤いキャップ、白ワインに白いキャップが用いられています。ドメーヌ物が「赤キャップ」と呼ばれるのは、ドメーヌ・ルロワが殆ど赤ワインだから。コルトン・シャルルマーニュには、ネゴシアン物、ドメーヌ物の両方が存在しますが、どちらも白いキャップで紛らわしい。ラベルで判断するしかない。)
注8 : 92、93ヴィンテージは72本すべてが、日本の高島屋さんに入荷したとか。近年はもう少し増えているようで、98ヴィンテージで292本。クリオ・バタールの初ヴィンテージは91年。シェバリエ・モンラッシェとボンヌ・マールは93年、マジ・シャンベルタンは94年から。)


最後に一杯・・・ルロワの味わい

 ルロワについて知る限りの事象をまとめてきましたが、最後に実際のワインの味わいについて。これについては、多くのプロの方の文献にも記されていますが、巷でよく耳にするルロワ・ファンとしては気になる疑問点を、高島屋ルロワ担当者K様のお話を中心に、個人的な感想も含めてご紹介したいと思います。

■メゾン・ルロワとドメーヌ・ルロワの違い
 その違いは当然買い付けブドウと、自社畑のブドウという事になるわけですが、味わいとしての差を大まかに言うと「長熟型のネゴシアン物」と「比較的早くから楽しめるドメーヌ物」ということ。両者の同ヴィンテージを比べた感覚からいうと、ミネラルの多い硬い味わいのネゴシアン物に対し、フルーツの塊のような非常に密度の高い果実、しかしその中に柔らかさが感じられるドメーヌ物という気がします。

■ドメーヌ・ルロワとドメーヌ・ドーブネの違い

 生産本数が少なく幻のように語られるドーブネと、ドメーヌ・ルロワの相違点は、私自身非常に興味あった事で、造り方その他、マダムの個人所有であるドーブネに何か特別な施しがあるのかK様にお聞きしました。両者の味わいについては、赤中心のドメーヌ物と白が多いドーブネですので一概に比較は難しいと思いますが。

 そのお答えとしては、まず「栽培・醸造において両者の差はほとんど無いでしょう」という事。「ただその差があるとしたら、リリースされるまでの2、3年の間、保管されるセラーの場所が違う」というお答えでした。これはヴォーヌ・ロマネ村に醸造所・セラーを構えるドメーヌ・ルロワと、サン・ロマンにあるドーブネでは、その標高がかなり違う。ヴォーヌ・ロマネ村の村落が標高250mだとすると、サン・ロマンは約350mの辺りにあり高台に位置するため風も強い。「ドーヴネには、そんな場所をイメージさせる少し"ひんやり"としたテイストがありませんか?」というお言葉に納得。

■ドメーヌ・ルロワの熟成能力

 ルロワ・ファンなら誰しも気になることでしょうね。色々な方から「赤キャップは熟成するかなぁ?」というご意見を聞いたことがあります。メゾン・ルロワに関しては、その長い歴史から熟成のポテンシャルにおける評価も確立しているように思われますが、1988年からというドメーヌ物に関しては、様々な議論があるのも事実でしょう。

 年頭に掲示板でも紹介しましたが、ドメーヌ・ルロワ90年ヴィンテージの水平という会に参加させて頂きました。(当日のラインナップはこちらで紹介しています。)グラン・クリュ5種、プルミエ・クリュ1種という大変貴重なワイン。そして12年前のワインということで、その熟成能力はいかに?という面でも興味深い試飲でした。

 その時の感想としては、全体的に未だ若さも残すワインで、同年他社のブルゴーニュワインと比較しても一段上の構成を保っています。テロワールを重んじる各畑の個性も体感できたと思っていますし、やはり90年というヴィンテージの中でも最上級のワインであることは間違いないでしょう。

 ただしビオディナミに取り組む生産者にとって、土地が本来の力を取り戻すことが最大の課題であり、この時点で十分な効果を表しているとは思えません。12年前に遡り、これらのワインが味わえたとして今のドメーヌ・ルロワと比較すると「現在のポテンシャルの方が優れているのではないか?」というのが正直な感想で、それほどまでに昨今のワインは素晴らしいと思っています。

 先に書いたように、赤キャップには若いうちから親しみやすささえ感じることがあるので、その熟成能力を問う声もあると思いますが、100%新樽にも関わらず樽香が必要以上に感じられない点や、過剰なタンニンといった要素がないのは、ワインが持つ「果実の力」がすべてを覆い隠しているように思えます。

 個人的にはこれらのワインが年月を経ても素晴らしいものであると確信していますが、そんな事より問題なのは、果実感たっぷりの若いワインの美味しさで、入手した途端にナイフを持ち、抜栓したくなる気持ちを抑制できない事ではないでしょうか? 私はいつまで経っても熟成した赤キャップは飲めそうにありません。


今月の味わいのあるワイン2002年6月(2)
ではドメーヌ・ルロワ、ドメーヌ・ドーブネのワインを紹介しています。

ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアーにおける参考文献や使用写真についてはこちらをご覧下さい。

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