さて、ディジョンを出発したブルゴーニュの旅も、シャンボール・ミュジニー村に入ってきました。ここからは、コート・ド・ニュイでも重要な村が続きます。 ワインの教科書をめくっていくと、シャンボールのワインを表現する言葉として、慣用句のように「優雅」「絹の舌触り」などと書かれています。ただ私自身、この村のワインを最初に頂いた時には、その良さを理解できなかった・・・そして今でも美点を理解しにくい村だと感じています。今回はそんなシャンボール・ミュジニーの探索です。 |
この村のワインを説明する時に非常に重要となるのが土壌の質。R.パーカー氏はこう説明しています。 「シャンボールの土壌は石灰岩が支配的で、モレやジュヴレの石灰岩と粘土の混合スタイルとは地相が異なる。このためワインは香気と絹のような柔らかさにみち、力強さ、ボディ、濃厚さからは遠ざかる。」
ブルゴーニュの中でもシャンボールのワインが今ひとつ捉えにくいと言ったのは、二つの理由があります。まず、新世界ワインに見られるようなボリューム感溢れる美味しさではなく、ワインの彩とでも言うべき、染み入るような細かいタンニンであったり、香水を思わす薫り高きアロマ、精妙なバランス感を持つ酸と果実の骨格...等々、石灰質土壌に由来する繊細な要素を魅力とするワインであるため、飲みなれないと理解しにくい部分があること。 そしてもう一つの理由は、この村にある名高い二つのグラン・クリュ「ボンヌ・マール」「ミュジニー」の個性が比較的違うため、飲み手が戸惑いやすいこと。では、何故二つのグラン・クリュが違うのか、地形を見て行きましょう。 |
グラン・クリュ プルミエ・クリュ |
シャンボール・ミュジニーには、二つのグラン・クリュがあります。ボンヌ・マール[1] は北のモレ・サン・ドニ村にまたがっており、モレ側に1.5ha、シャンボール側に13.5haあります。当然その土壌はモレから続く粘土を含んだもので(注1)、ワインはふくよかで大きなボディ、モレの個性に近いものとなります。それに対し南端に位置しクロ・ド・ヴージョ上部に突き出すような形をしているミュジニー[2]は、石灰岩系の岩屑が主体。繊細、優美なワインだと言われます。これは村の土壌が北から南に行くにしたがい、粘土質が少なくなり、石灰岩が主体となることを意味します。 |
この村の重要な1級クリマも南北に分かれています。北ではボンヌ・マールの周りのレ・フュエ[4]、レ・クラ[5]、レ・サンティエ[6]、レ・ボード[7]。南で重要な畑もミュジニーのそばにあるレ・シャルム[8]、レ・シャビオ[9]、そしてグラン・クリュに匹敵する評価を受け「恋人たち」というなんともロマンティックな名前を持つレ・ザムルーズ[3] が有名です。シャンボールのワインは、プルミエ・クリュもボンヌ・マールとミュジニーという二つの畑を中心に考えた方が、その個性が分かり易いように思います。 (注1 : 実際にはボンヌ・マールも上部と下部では土質が明らかに違う。上部が石灰質、下部は粘土質が多い。) |
代々銘酒を生み出し、シャンボールの指標とされてきたこのドメーヌは、70年代から80年代にかけワインの質が落ちたとの評判もありましたが、コント・ジュルジュ・ド・ヴォギュエが亡くなる一年前、1986年に醸造家フランソワ・ミエ氏と栽培担当ジェラルド・ゴドー氏らが招かれ、その新体制により評価を取り戻しています。 ワイナート誌によるシャンボール・ミュジニー特集が2001年の初頭に発売されましたが(写真右下)、その中で近年のヴォギュエを物語るような興味あるくだりを見つけました。
この春、99年のシャンボール・ミュジニィ・プルミエ・クリュ(写真左上)を頂き、この意味が少し理解できたように思います。99年のプルミエ・クリュ、それまでのヴォギュエに抱いていたものが払拭されるほどに美味しい。ドメーヌの名声、そして味わいから感じるオーラはあれど、決して打ち解けてくれない荘厳なイメージだったヴォギュエのワイン。今、その評価の回復に伴い、市場価格が急騰していますが、このワインだったら仕方ないと素直に思った。今後は雲上のものとなるような予感がするシャンボール・ミュジニーの代表格。 |
【シャンボール・ミュジニー村の著名な生産者】 【シャンボール・ミュジニーを産するネゴシアンと他村の著名な生産者】 |
村を象徴すると言われる畑が「ミュジニー」であり、かぐわしい芳香、軽やかでいて華やか、繊細かつきめの細やかな酒質を持つ姿は、名前の雰囲気通り。著名なワインライターであるマット・クレイマーの言葉を借りれば「重さでせまってくるのではなしに、いわばゴシックの美によってそびえ立っている」というワインが生み出されます。 それに対し「ボンヌ・マール」は優しい表情を持つ、ゆったりと奥行きのあるワイン。先日いただいたマダム・ルロワが造るドーブネのワインは、まさにこの畑の個性を表していました。星谷とよみさんは著書にこう書かれています。 シャンボールのワインは理解が難しい? しかしブルゴーニュはいつでも畑名がワインを表現してくれます。シャンボール・ミュジニー、ゆっくりと時間が取れる時に、できれば少人数で・・・愛する人と飲みたい、そんなワインです。 |
![]() |
||
今月のお題目 目次 | ||
今月のお題目 前回 | 今月のお題目 次回 |