May 2002

今月の御題目

ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアー Vol.5
シャンボール・ミュジニー

 さて、ディジョンを出発したブルゴーニュの旅も、シャンボール・ミュジニー村に入ってきました。ここからは、コート・ド・ニュイでも重要な村が続きます。

 ワインの教科書をめくっていくと、シャンボールのワインを表現する言葉として、慣用句のように「優雅」「絹の舌触り」などと書かれています。ただ私自身、この村のワインを最初に頂いた時には、その良さを理解できなかった・・・そして今でも美点を理解しにくい村だと感じています。今回はそんなシャンボール・ミュジニーの探索です。


ブルゴーニュの土壌、ワインの組成

 この村のワインを説明する時に非常に重要となるのが土壌の質。R.パーカー氏はこう説明しています。

 「シャンボールの土壌は石灰岩が支配的で、モレやジュヴレの石灰岩と粘土の混合スタイルとは地相が異なる。このためワインは香気と絹のような柔らかさにみち、力強さ、ボディ、濃厚さからは遠ざかる。」

 ブルゴーニュにおいて、その地層・土壌は重要で、ワインの体格も土壌で決まると言われます。ピノ・ノワールの育つ畑が粘土主体の場合、シャンベルタンのように肉づきの厚いワインとなり、石灰岩又はチョーク質が多く含まれるとシャンボールに代表される軽やかで繊細な組み立てのワインとなります。

 ブルゴーニュの中でもシャンボールのワインが今ひとつ捉えにくいと言ったのは、二つの理由があります。まず、新世界ワインに見られるようなボリューム感溢れる美味しさではなく、ワインの彩とでも言うべき、染み入るような細かいタンニンであったり、香水を思わす薫り高きアロマ、精妙なバランス感を持つ酸と果実の骨格...等々、石灰質土壌に由来する繊細な要素を魅力とするワインであるため、飲みなれないと理解しにくい部分があること。

 そしてもう一つの理由は、この村にある名高い二つのグラン・クリュ「ボンヌ・マール」「ミュジニー」の個性が比較的違うため、飲み手が戸惑いやすいこと。では、何故二つのグラン・クリュが違うのか、地形を見て行きましょう。


ボンヌ・マールとミュジニー

グラン・クリュ
[1] ボンヌ・マール
Bonnes Mares (13.5ha)
[2] ミュジニー
Musigny (10.7ha)

プルミエ・クリュ
[3] レ・ザムルーズ
Les Amoureuses (5.4ha)
[4] レ・フュエ
Les Fuees (4.4ha)
[5] レ・クラ
Les Cras (3.4ha)
[6] レ・サンティエ
Les Sentiers (4.9ha)
[7] レ・ボード
Les Baudes (3.4ha)
[8] レ・シャルム
Les Charmes (9.3ha)
[9] レ・シャビオ
Les Chabiots (1.5ha)


地図上の各ナンバーにマウスを当てると、畑名が表示されます。
「等高線表示」をクリックすると、等高線を表示します。

 シャンボール・ミュジニーには、二つのグラン・クリュがあります。ボンヌ・マール[1] は北のモレ・サン・ドニ村にまたがっており、モレ側に1.5ha、シャンボール側に13.5haあります。当然その土壌はモレから続く粘土を含んだもので注1、ワインはふくよかで大きなボディ、モレの個性に近いものとなります。それに対し南端に位置しクロ・ド・ヴージョ上部に突き出すような形をしているミュジニー[2]は、石灰岩系の岩屑が主体。繊細、優美なワインだと言われます。これは村の土壌が北から南に行くにしたがい、粘土質が少なくなり、石灰岩が主体となることを意味します。

シャンボール・ミュジニーのプルミエ・クリュ

 この村の重要な1級クリマも南北に分かれています。北ではボンヌ・マールの周りのレ・フュエ[4]、レ・クラ[5]、レ・サンティエ[6]、レ・ボード[7]。南で重要な畑もミュジニーのそばにあるレ・シャルム[8]、レ・シャビオ[9]、そしてグラン・クリュに匹敵する評価を受け「恋人たち」というなんともロマンティックな名前を持つレ・ザムルーズ[3] が有名です。シャンボールのワインは、プルミエ・クリュもボンヌ・マールとミュジニーという二つの畑を中心に考えた方が、その個性が分かり易いように思います。

注1 : 実際にはボンヌ・マールも上部と下部では土質が明らかに違う。上部が石灰質、下部は粘土質が多い。)



シャンボール・ミュジニーの生産者
コント・ジュルジュ・ド・ヴォギュエ

 この村の生産者の中で、筆頭かつ別格とされるのが、ドメーヌ・コント・ジュルジュ・ド・ヴォギュエ : Domaine Comte Georges de Vogue 。その歴史は1450年まで遡ることが出来、現在、特級畑「ミュジニー」の70%にあたる6.5haを所有。もう一つの特級畑「ボンヌ・マール」にも約20%に相当する2.5haの畑を持っています。そして最も貴重とされる一級畑「アムルーズ」も0.5haを所有。それ以外には村名のシャンボールのみを産出する同村の代表的な存在。

 代々銘酒を生み出し、シャンボールの指標とされてきたこのドメーヌは、70年代から80年代にかけワインの質が落ちたとの評判もありましたが、コント・ジュルジュ・ド・ヴォギュエが亡くなる一年前、1986年に醸造家フランソワ・ミエ氏と栽培担当ジェラルド・ゴドー氏らが招かれ、その新体制により評価を取り戻しています。

 ワイナート誌によるシャンボール・ミュジニー特集が2001年の初頭に発売されましたが(写真右下)、その中で近年のヴォギュエを物語るような興味あるくだりを見つけました。

 「現オーナーのもと12年。その間に造られたヴォギュエのミュジニーの、堅牢なタンニンの砦の中にいてまったく微笑むことがないという印象。偉大さだけはひしひしと感じられるが、美味しさとはまた別のワイン。しかし99年のバレル・サンプルで初めて理解した。やっと開いて微笑むミュジニーに出会えた。とてつもなく偉大で、とてつもなくおいしい・・・」

 この春、99年のシャンボール・ミュジニィ・プルミエ・クリュ(写真左上)を頂き、この意味が少し理解できたように思います。99年のプルミエ・クリュ、それまでのヴォギュエに抱いていたものが払拭されるほどに美味しい。ドメーヌの名声、そして味わいから感じるオーラはあれど、決して打ち解けてくれない荘厳なイメージだったヴォギュエのワイン。今、その評価の回復に伴い、市場価格が急騰していますが、このワインだったら仕方ないと素直に思った。今後は雲上のものとなるような予感がするシャンボール・ミュジニーの代表格。


【シャンボール・ミュジニー村の著名な生産者】
ドメーヌ・ジュルジュ・ルーミエ、ドメーヌ・ベルナール・アミオ、ドメーヌ・ベルトー・エ・フィス、ドメーヌ・ギスレーン・バルト、ドメーヌ・ジャック・フレデリック・ミュニエ、ドメーヌ・ベルナール・セルヴォー・エ・フィス

【シャンボール・ミュジニーを産するネゴシアンと他村の著名な生産者】
ドメーヌ・ドルーアン・ラローズ、ルイ・ジャド、ジョセフ・ドルーアン、ドメーヌ・ロベール・グロフィエ


シャンボール・ミュジニーという響き

 「名は体を表す」と申しますが、ブルゴーニュの村や畑には、ワインを表現するかのような素敵な名前が付けられています。「シャンボール・ミュジニー」という音の響きのように、この村のワインを一言でいうと「女性的」という感じがします。

 村を象徴すると言われる畑が「ミュジニー」であり、かぐわしい芳香、軽やかでいて華やか、繊細かつきめの細やかな酒質を持つ姿は、名前の雰囲気通り。著名なワインライターであるマット・クレイマーの言葉を借りれば「重さでせまってくるのではなしに、いわばゴシックの美によってそびえ立っている」というワインが生み出されます。

 それに対し「ボンヌ・マール」は優しい表情を持つ、ゆったりと奥行きのあるワイン。先日いただいたマダム・ルロワが造るドーブネのワインは、まさにこの畑の個性を表していました。星谷とよみさんは著書にこう書かれています。
 「ボンヌ・マールとは"良いおかあさん"の意味。豊かなボディ、馥郁とした香り。何よりも飲む人を愛で包む豊かさが、まさに、ボンヌ・マール」

 シャンボールのワインは理解が難しい? しかしブルゴーニュはいつでも畑名がワインを表現してくれます。シャンボール・ミュジニー、ゆっくりと時間が取れる時に、できれば少人数で・・・愛する人と飲みたい、そんなワインです。


今月の味わいのあるワイン2002年5月
ではシャンボール・ミュジニーのワインを紹介しています。

ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアーにおける参考文献や使用写真についてはこちらをご覧下さい。

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