March 2002

今月の御題目

ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアー Vol.3
ジュヴレイ・シャンベルタン

 マルサネ、フィクサンの後は、いよいよジュヴレイ・シャンベルタン村へ入ります。

 シャンベルタンと言えば、ワイン好きの憧れ、ワインの王様、皇帝ナポレオンが愛したお酒。ロマネ・コンティ、クロ・ヴージョと共に、古くからブルゴーニュ最高とされてきた赤ワイン。

 ジュヴレイ・シャンベルタン村はコート・ドール最大の村で、約550haのブドウ畑を持ちます。1847年までジュヴレイ村だったのですが、国王のルイ・フィリップの許可状によって、有名な畑の名前「シャンベルタン」を連結してジュヴレイ・シャンベルタン村となったのです。それがきっかけとなって、シャンボール村がシャンボール・ミュジニーとなったり、モレ村がモレ・サン・ドニというふうに名前が登録されていきました。

 さぁ、「Route des Grandes Crus : グラン・クリュ街道」を通り、村全体の地形と重要なグラン・クリュから見てまいりましょう。


ジュヴレイ・シャンベルタン特級


各ナンバーにマウスを当てると、畑名が表示されます。「等高線表示」をクリックすると、等高線を表示します。



[1] Chambertin / シャンベルタン (12.9ha)
[2] Chambertin Clos de Beze / シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ (15.4ha)

 ブルゴーニュの歴史を語る上でも、これらは欠かすことの出来ない重要な畑。ブルゴーニュで最も歴史の古い名前が「クロ・ド・ベーズ」であり、西暦630年にアマルゲール侯爵がベーズ修道院に寄進し開拓されたというから、シトー派の修道僧達がクロ・ド・ヴージョを開く12世紀よりも、かなり早い。
 そして「シャンベルタン」は隣のクロ・ド・ベーズよりかなり遅れて歴史に登場するとは言うものの、今ではこの村の中心をなす名畑。名前の由来は、13世紀に農夫ベルタンが所有する畑「ル・シャン・ド・ベルタン」と呼ばれていた土地だったということ。19世紀の中頃には、シャンベルタンの名前がクロ・ド・ベーズより親しまれるようになっていました。

 地図を見れば分かるように、9つあるこの村のグラン・クリュの中央に構える畑、海抜275〜300mのほぼ真東を向いた斜面。雄大で男性的というブルゴーニュを代表する偉大な畑。双方とも似た土壌で粘土・石灰質ですが、クロ・ド・ベーズの方がラヴォー渓谷に近くやや冷涼、そのためシャンベルタンの後にクロ・ド・ベーズを収穫する造り手が多いということ。

 なお、クロ・ド・ベーズから生まれたワインは、シャンベルタンとだけ名乗ることもできる。シャンベルタンのものはクロ・ド・ベーズを名乗ることは許されない。(クロ・ド・ベーズの歴史に敬意を払ってのことだろうか?)



[3] Mazis Chambertin / マジ・シャンベルタン (9.1ha)

 「グラン・クリュ街道」を南下すると最初に出会うグラン・クリュがマジ・シャンベルタン。シャンベルタンやクロ・ド・ベーズと同一斜面上にあり、そのポテンシャルは十分。厳密には斜面下部の"レ・マジ・バ : Les Mazis-Bas"と上部の"レ・マジ・オー : Les Mazis-Haut"に分けられる。MazisはMazyとも綴られる。
 なお、オスピス・ド・ボーヌは"レ・マジ・オー "に1.58haの区画を持っています。



[4] Ruchottes Chambertin / リュショット・シャンベルタン (3.3ha)

 マジ・シャンベルタンの斜面上部にある小さな区画。表土が極端に薄くなり小石が混ざる石灰質の多い土壌、ラヴォー渓谷に近く海抜290〜310mと斜面頂上近い立地。それゆえ、グラン・クリュの中でも上品、ミネラルの強いワインになるという。その個性を探るのは面白そう。



[5] Griotte Chambertin / グリオット・シャンベルタン (2.5ha)

 グラン・クリュの中で最も小さな区画。畑は東に向いて斜面が急に窪地のようになっている。そのため水はけもよく、日光をよく受けるため、安定感のあるワインが出来る。グリオットとは「桜の木」を意味するらしいが、一説には、この一角だけ日がよく当たり焼け付くように暑いため「グリエ」が変化して畑名になったとも言われる。グラン・クリュの中でも評価の高い畑。



[6] Chapelle Chambertin / シャペル・シャンベルタン (5.5ha)

 グラン・クリュ街道を挟んで、クロ・ド・ベーズと向かい合う畑。1155年にノートル・ダム・ド・ベーズ礼拝堂(シャペル)がここに建てられ、それに因んだ名前(大革命の際に破壊された)。やや南東向きの穏かな斜面で、隣のグリオットに比べるとやや軽やか、バランスの良いワインに仕上がる。



[7] Latricieres Chambertin / ラトリシエール・シャンベルタン (7.4ha)

 シャンベルタンの南隣、同じ斜面上にある畑は、粘土・石灰質で、小石が多く混ざっているため、水はけがよい。シャンベルタンと共通する性格に、モレ村の柔らかさがプラスされるという。ラトリシエールとは古いフランス語で「痩せた土地」という意味。



[8] Charmes Chambertin / シャルム・シャンベルタン (12.3ha)
[9] Mazoyeres ou Charmes Chambertin / マゾワイエール 又は シャルム・シャンベルタン (18.6ha)

 グラン・クリュ街道の下部、モレ・サン・ドニ側にあるこれらの畑から生まれるワインは、ほとんどが「シャルム・シャンベルタン」の名で市場に出ます。[9]の区画はマゾワイエールと名乗ることもできますが、今、この名でリリースするのは、ドメーヌ・カミュくらいで、ほとんどの生産者が名の通った「シャルム」を使っています。
 「シャルム=魅力」という意味の通り、柔らかく親しみやすい良品が生まれるものの、双方を合わせると30haにもなる大きな区画、そしてマゾワイエールの区画は国道74号線に接するほど斜面下部まで許されているため(両隣は村名畑)、どの区画に畑があるかで、ワインの酒質が変わるので注意。


ジュヴレイ・シャンベルタン、村名ワインは?

 さすがにグラン・クリュ、素晴らしい畑ばかり。この村の特級ワインをレストランで注文しようものなら、まるでナポレオン注1にでもなったような気分! しかし、村全体の畑を眺めながら日本の友人から言われたことを、ふと思い出していました。こんな言葉を聞いたことがあったんです。

「ジュヴレイ・シャンベルタンって、あまりいいイメージがないんですけれども・・・」

 多分彼らは村名畑からの「ACジュヴレイ・シャンベルタン」を指してそう言ったように思ったのです。上の地図を見て下さい。さきに説明した通り、ジュヴレイ・シャンベルタンはとても大きな村で、約550haものブドウ畑を持ちます注2。この村は立派なグラン・クリュやプルミエ・クリュを持つ一方、村名格の畑(地図上では薄いピンク色の部分)が約360ha、全体の2/3もあるのです。そしてなんと74号線の東側(下部)にも畑が広がっているではありませんか! 平坦地で立地としては劣る区画であり、74号線の東側にこれほど広い畑を持つのは、コート・ド・ニュイではここだけ。実際に約4割のACジュヴレイ・シャンベルタンは、こちら側から造られているようです。友人達の言葉は、的を得ていたのかもしれません。

 品質を重視し、村名格の畑から素晴らしいワインを造りあげる人々もいますが、中には利益中心に考える者もいるのが世の常。非常に誉れ高い「ジュヴレイ・シャンベルタン」というラベルを貼れば、中身はどうであれ売れるという事実もあるのでしょう。これから周るブルゴーニュ全体にいえることですが、信頼できる生産者をよく念頭に置くということは、必要なことでしょうね。下の看板の背後を見ていただければ分かるように、特にこの村の畑は広いのですから。


【ジュヴレイ・シャンベルタン村の著名な生産者】
ドメーヌ・アルマン・ルソー、ドメーヌ・ドルーアン・ラローズ、ドメーヌ・フィリップ・ルクレール、ドメーヌ・モーム、ドメーヌ・ルイ・トラペ(ロシニュール・トラペとジャン・ルイ・トラペ)、ドメーヌ・ジョセフ・ロティ、ドメーヌ・ドニ・モルテ、ドメーヌ・クロード・デュガ、ドメーヌ・ベルナール・デュガ・ピィ、ドメーヌ・デ・ヴァロワイユ、ピエール・ブレ・フィス

【ジュヴレイ・シャンベルタンを産するネゴシアンと他村の著名な生産者】
ルロワ、ルイ・ジャド、ジョセフ・ドルーアン、ジョセフ・フェヴレィ、ドメーヌ・デュジャック、ドメーヌ・ポンソ、ドメーヌ・ジョルジュ・ルーミエ、ドメーヌ・ロベール・グロフィエ

注1 : シャンベルタンはナポレオン皇帝の愛したワインとされていますが、実際には水で割って飲んでいたという。そんなに美食家ではなく、食事は質素だったというのが本当らしい。)
注2 : 前回のお題目で触れたように、隣村ブロションの南半分もACジュヴレイ・シャンベルタンを名乗れます。)


ジュヴレイ・シャンベルタン、プルミエ・クリュの特色

 さて、最後にこの村のプルミエ・クリュについて。あとで、他の村を見ていくと分かるのですが、ニュイではどの村も国道74号線あたりから村名畑が始まり、斜面を登るにしたがって、一級畑、そして特級畑という風につながっていきます。

 しかし、このジュヴレイ・シャンベルタン村で高い評価を受ける一級畑、クロ・サン・ジャック、カズティエ、コンブ・オー・モワンヌ等といった畑は、グラン・クリュの集まる斜面とは別の丘にあります。標高300mの等高線をたどれば分かるように、グラン・クリュよりも標高が高く、丘の向き自体も、東から南に向いた斜面。つまり通常プルミエ・クリュのスケールを大きくしたものがグラン・クリュだと考えがちですが、この村ではその個性が必ずしも一致しない。

 そしてこれらの一級畑は、特級に匹敵するほどの素晴らしいポテンシャルを持つと言われます。今回、アルマン・ルソーのクロ・サン・ジャック を頂くことが出来ましたが、まさにそれを痛感する一本となりました。偉大なグラン・クリュの陰にかくれ、あまり取り沙汰されないプルミエ・クリュですが、非常に気になる存在。今後、この村の一級畑を探索するのが楽しくなりそうです。


今月の味わいのあるワイン2002年3月
ではジュヴレイ・シャンベルタンのワインを紹介しています。

ヴァーチャル・ブルゴーニュ・ツアーにおける参考文献や使用写真についてはこちらをご覧下さい。

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