February,2001

カベルネ・ソーヴィニオン特集Vol.2
ボルドー : メドック&グラーヴ

Ch. Meyney '68
Ch. Lafite-Rothschild '80
Ch. Latour '98
Ch. Mouton Rothschild '70 '84 '87
Ch. Pichon Longueville Comtesse de Lalande '88
Ch. Gruaud-Larose '82 '92
Ch. Ducru-Beaucaillou '74 '76
Ch. Talbot '95
Ch. Margaux '81
Ch. Labegorce '96
Ch. Sociando Mallet '82
Ch. Haut-Brion '76
Ch. Pape Clement '71
Ch. Smith Haut Lafitte '95
Les Hauts de Smith '95
Domaine de Chevalier '95
Ch. Malartic-Lagraviere '70 '90

(特にお気に入りのワインには マークを付けています)


Bordeaux-Medoc

Saint-Estephe


Ch. Meyney
シャトー・メイネイ
サン・テステフ 赤 (CS70,M25,CF3,PV2)
('68 \28,000位 1500ml)

 モンローズの北隣、50haの畑はジロンド河に面した恵まれた立地。安定した品質のワインを産するブルジョワ級は、常に格付け同等の評価を受けています。1918年以降、グリュオ・ラローズやタルボのオーナーでもあるコーディア社の所有となっています。
 嬉しいマグナムボトルの古酒。その状態のよさはエッジのオレンジが美しい明るく澄んだルビー色に見てとれます。土、ヨード、西洋杉といった深みのある香り。熟成感がありながら、みずみずしさを保ったワインは、やや高めの酸、そして余韻で舌に張り付くタンニンがこのワインの個性を物語っているよう。やはり秀逸なブルジョワ級。大きなボトル、嬉しいワインです。
(ブルジョワ級)

Pauillac


Ch. Lafite-Rothschild
シャトー・ラフィット・ロートシルト
ポイヤック 赤 (CS70,M15,CF13,PV2)
('80 \15,000位)

「メドック格付け筆頭」もうこの言葉は聞き飽きたでしょうか。1855年に定められた格付けは、格付けに見合わぬシャトーが多く存在する現在、すでに1世紀半を経て、未だ改定される事はありません。
 しかし、もし「筆頭」を務めるこのワインの品質が格付けにふさわしくないものだったとしたら・・・誇り高きフランス、ボルドーの人々は、格付けを見直すのではないでしょうか? ラフィットを頂くと常に感じるワインの品格。ワインの持つ要素が一体となって醸し出すデリケートで格調高い個性。

 1980というバッド・ヴィンテージ、20年経った今、どんな変化があるのか?素晴らしく透明感のある色合いから状態の良さが分かります。揮発香の中にシダーや枯葉、フレッシュ・オレンジと秀逸なメドックを思わせる土の要素。確かに果実味は少なくとも、まるで「無」を感じさせるが如く、口中に流れ込むワインに、ラフィットの個性を感じ、余韻の気品あふれる細やかなタンニンが舌の上で広がる様は、オフ・ヴィンテージと言えどまさに格付けの筆頭。1980のワインが最良の変化を遂げた姿に感動。
 21世紀、世界の秀逸なワインが次々とリリースされていくにつれ「点数評価」がもっと大きな意味を持つようになるかもしれません。でも、このワインの価値だけは「数字」で量らないで欲しいと思います。
(メドック格付け第1級 : Ch. Lafite-Rothschild


Ch. Latour
シャトー・ラトゥール

ポイヤック 赤 (CS80,M15,CF4,PV1)
('98 \19,000位)

 言わずとしれたメドックの第1級、絶大な人気と実力を誇るシャトー。カベルネ・ソーヴィニオンの比率が約8割を占め、女性的なラフィット、マルゴーに対し、男性的で力強いワインと形容される。ジロンド河を望む65haの畑。その中でもシャトーを取り囲む47ha「ランクロ」と呼ばれる区画のブドウがグラン・ヴァンの重要な部分となります。
 2000年末、あるワインショップが社長のアンジェラ氏を招いた時にテイスティングできた最新の1998。まだ瓶詰めされて半年というワインはアンジェラ氏曰く「本来のエレガントさはまだ出ていない」というコメント通り、舌触りの落ち着きとまとまりはないものの、濃い紫色で、ロースト香とミネラル、黒果実の充実した味わい。偉大なヴィンテージではないかもしれないけれど、ラトゥールの良さを感じる試飲でした。
(メドック格付け第1級 : Ch. Latour


Ch. Mouton Rothschild
シャトー・ムートン・ロートシルト
ポイヤック 赤 (CS80,CF10,M8)
('70 \30,000位)('84 \19,000位)( '87 \19,000位)

 メドック格付け第1級。宿命のメドック格付け論を越え、1973年例外的に第1級へ昇格。毎年、著名画家によりラベルが描かれる事でも有名。
 70年 : この年の画家は、あのマルク・シャガール。タイトルは「母親が子供に与える葡萄・つぐみがついばむ葡萄」。70年という偉大なヴィンテージ。
 若々しさを残す深みのあるルビー色。ファースト・ノーズにやや不快なアルコールのアロマ。その後はカシス香りがあるものの、アシッドな酸の目立つ味わい。固い印象はないのに、どこか厳しさと難解な部分のあるボトルでした。
 84年 : 画家はアガム。ムートンの中では、珍しい現代アートの鮮やかなデザイン。珍しいのはラベルだけでなく、メルローの出来が悪かったこの年は、ほぼカベルネ・ソーヴィニオン100%でワインが造られています。(詳しくは「今月のお題目」をご覧下さい。)
 評価の低い1984年にして、実に魅惑的な香り。樽の甘いロースト、スパイス、丁子、鉄、レッドカラントといった、これぞボルドーというアロマ。カベルネ100%というその先入観からか、やや味わいは単調でシンプルな構成、余韻の短さはあるものの、十分にムートンの魅力を発揮しているヴィンテージだと思います。
 87年 : 絵画はハンス・エルニの作品。この年、バロン・フィリップ・ド・ロートシルトは85歳で他界し、ラベルにはバロン・フィリップの肖像が描かれています。そして「ムートンの改革者たる父バロン・フィリップ・ド・ロートシルトへ、あなたの65回目にして最後の収穫だった、この年のワインを捧げます。ムートンは変わりません。」という娘フィリピーヌの言葉が。この年以降、ラベルに入るサインはバロンヌ・フィリピーヌ・ド・ロートシルトのものに変わっています。
 84年と共にオフとされるヴィンテージ。しかしムートンはバロン・フィリップに捧げるかのように素晴らしいワインを生産しています。草原を感じるアルコール臭から心地よい西洋杉の香り。柔らかみのある果実にはきっちりとした酸とタンニンが存在し、甘いバニラが後から湧き出てきます。余韻の長さも申し分ない素晴らしいワイン。84、87というヴィンテージを頂き、ムートンの良さを痛感したように思います。
(メドック格付け第1級 : Ch. Mouton Rothschild


Ch. Pichon Longueville Comtesse de Lalande
シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド
ポイヤック 赤 (CS45,M35,CF12,PV8)
( '88 \14,000位)

 第1級同等の評価を受ける第2級の最高峰。50%の新樽で20ヶ月の熟成を行う。オーナーのド・ランクザン夫人が、78年より後を継ぎ現在の評価を作り上げたと言われます。
 88年は今飲んでも美味しいボルドーの一本かもしれません。シダー、石灰や線香、ハーブの香り。乳酸の丸さがあり、スタイルの良い女性を思わす、精妙にして複雑なラランド。ある方はラランドの個性を「湿り気」と表現されていましたが、なんとなく分かるような気がしました。
(メドック格付け第2級 : Ch. Pichon Longueville Comtesse de Lalande

Saint-Julien


Ch. Gruaud-Larose
シャトー・グリュオー・ラローズ
サン・ジュリアン 赤 (CS65,M20,CF10,PV5)
( '82 \18,000位)('92 \5,000位)

 サン・ジュリアン村のメドック格付け第2級。やや内陸部にあるこのシャトーは、全体132haのうち82haにブドウ樹が植えられています。しっかりした体格と濃密なワインを造ることで有名。
 82年 : ボルドー世紀のヴィンテージ、1982年。今まさに飲み頃にさしかかったというワインは、熟れに熟れた(悪い言葉で言えば腐りかけの)果実の香り。秀逸なワインらしく、土と酵母のニュアンス。豊かさを感じ全体的に柔らかみを帯びた美味しいワイン。やはりこのシャトーには、何か惹かれてしまいます。
 92年 : ボルドーでは難しい年となった1992年。最初、このワインはセカンド(サルジェ・ド・グリュオ・ラローズ)と勘違いして飲んでいたもの。セカンドにしては妙に美味しいなあと思っていたら、やっぱり違いました(笑)。
 1992のボルドーはあまり良い印象がなかったのですが、滑らかでミルキーな優しい香り。それでいて、ちゃんとハーブや土のノーズがあり、全体が心地よくまとまっていました。1992という年に、こんなワインが造れるなんて、素晴らしいと思います。
(メドック格付け第2級)


Ch. Ducru-Beaucaillou
シャトー・デュクリュ・ボーカイユ
サン・ジュリアン 赤 (CS65,M25,CF5)
('74 \14,000位)('76 \15,000位)

 サン・ジュリアンのベイシュヴィル村にある50haのシャトー。シャトー名は「美しい小石の畑」。その名の通り、小石混じりの土壌からオーナーである著名なボリー氏のもとで上品なワインを生み出します。
 74年:このワインに関しては、澱が落ち着いていなかったため、正確には判断できませんでしたが、果実感、アロマ、やはりヴィンテージの小ささを感じてしまった一本。良好な状態で飲めば、印象は違ったかもしれません。
 76年:これは好みのワインでした。印象に残る特徴は少ないものの、完全に熟して均整のとれたワインで「雨あがりの中庭」といったしっとりとしたイメージ。美しいという言葉が似合うワインだと思います。
(メドック格付け第2級)


Ch. Talbot
シャトー・タルボ

サン・ジュリアン 赤 (CS66,M26,PV5,CF3)
('95 \5,800位)

 手堅く高品質なワインを生み出すことで知られるコーディア社所有の格付けシャトー。同じコーディア社所有のグリュオ・ラローズに隣接し、102haという広大な単一畑からワインが造られます。新樽は約40%。
 メドックの良年1995のタルボは、甘さを含むカシス、ロースト香とタール、サンジュリアンの個性とも言われる腐敗酵母的な香り。フローラルな感じもあり、各要素に主張がありバランス感あふれるミディアムからフルボディの美味しさ。安心して飲めるコーディアのワインですね。
(メドック格付け第4級 : Ch. Talbot

Margaux


Ch. Margaux
シャトー・マルゴー
マルゴー 赤 (CS75,M20,PV&CF5)
('81 \28,000位)

 このワインに詳しい説明はいらないほどのシャトー・マルゴー。ボルドーで最も名のしれた87haの畑。マルゴーの歴史は、1855年の格付け以来、様々な所有者に転売され、1900年代中期に有力なネゴシアンのジネステ社の所有になりました。その後1960年代後半には、ジネステ社が財政危機に陥りいいワインが造れない状態だったと言います。
 そんな失墜したシャトーを救ったのがメンツェロープス家(1977年に買収)。多大な投資を惜しまず、醸造コンサルタントの草分け、エミール・ペイノー氏を起用。見事蘇ったとされるのが1978年以降。
 1981年はエッジに赤みを帯び、若々しさと熟成を味わえたワイン。柔らかさのあるワインにハーブ、杉の清涼感か交じる心地よさ。さすがのマルゴー、タンニンも十分でまだまだ美味しい時期ですね。
(メドック格付け第1級 : Ch. Margaux


Ch. Labegorce
シャトー・ラベゴルス
マルゴー 赤 (CS60,M35,CF5)
('96 \5,500位) 

 マルゴー村の堅実なブルジョワ級、ラベゴルス。このワインは何度飲んでもその強さに驚きます。乾燥イチジク等、甘くて赤いフルーツを感じるのですが、その味わい自体は凝縮感があり、余韻に渋みを伴う、しっかりとしたもの。マルゴーのワインというイメージにはならないのですが、これはこれで良いブルジョワ級だと思います。一度試して下さい。
(ブルジョワ級)

Haut-Medoc


Ch. Sociando Mallet
シャトー・ソシアンド・マレ
オー・メドック 赤 (CS55,M40,CF&PV5)
( '82 \13,000位)

 メドックのブルジョワ級ワインの中には、素晴らしい物がたくさんあります。中でも秀逸なワインとして挙げられるのが、このソシアンド・マレ。サンテステフの北、ジロンド河を望むサン・スーラン・ドゥ・カドゥルヌにある58haの畑。1haあたり8000本という密植度、80%〜100%の新樽、清澄も濾過もされません。
 グレート・ヴィンテージ1982のワインは、暗く深々としたガーネットをし、ブラックベリー、スパイス、杉、そしてなめし革のブーケ。依然として強さのある果実は、ようやく角がとれかけているようで、しっかりとした酸が印象的なワイン。まだまだ置いてもいいワインなのでしょう。
(ブルジョワ級)


Bordeaux-Grave


Ch. Haut-Brion
シャトー・オー・ブリオン
グラーブ(ペサック) 赤 (CS45,M37,CF18)
('76 \20,000位)

 「メドック格付け第1級」に例外としてグラーヴから選ばれたオー・ブリオン。その品質の高さは十分に認められながら、5大シャトーの中では比較的流通価格も低く、地味な存在。ただ「5大シャトーで好きなワインは?」と尋ねられれば、ラフィットと共にこのオー・ブリオンと答えるかも。
 1976もミディアムボディのワインの中に、スパイス、そしてシルキーで柔らかなカシスの甘味が絶妙、見事に溶け込んだバランスはまさに好み。時間が経つとやや酸が目立ち、こじんまりと感じましたが、それでも良い意味での飲み頃のワインだと思います。
(Ch. Haut-Brion)


Ch. Pape Clement
シャトー・パプ・クレマン
グラーブ 赤 (CS60,M30,CF10)
('71 \10,000位)

 ぺサックの郊外、オー・ブリオンよりやや内陸に位置するパプ・クレマン。13世紀に遡る歴史あるシャトーで、その品質はグラーヴでもトップクラス。1970年代後半より調子を崩していたようですが、1985年以降の改革により名声を取り戻しています。評価の高い赤だけでなく、近年は白にも力を入れているという事。
 抜栓直後は酸が目立ったワインも時間とともに、その本来の姿を現したよう。白キノコのノーズ、中間域にふくよかさと広がりを残すしなやかなワインで「古典的」というイメージがぴったり。いいワインですね。


Ch. Smith Haut Lafitte
シャトー・スミス・オー・ラフィット
ペサック・レオニャン 赤 (CS50,M35,CF15)
('95 \6,000位)

Les Hauts de Smith
レ・ゾー・ド・スミス
ペサック・レオニャン 赤 (CS,M,CF)
('95 \3,800位)

 グラーヴの成功したよい例としても喩えられるほどのシャトー・スミス・オー・ラフィット。1991年、現在のオーナー、カティアール家に代り、数々の変革を決行。化学肥料と農薬を止め、畑には気象観測装置を設置。そしてボルドーでは珍しい自前の樽工場。約80%の新樽で15〜18ヶ月の熟成。パーカー氏は「メドック格付け2級相当の品質」と誉めそやす。
 レ・ゾー・ド・スミス : ここのセカンドワインがレ・ゾー・ド・スミス。透明で光沢のある綺麗なルビー色のワインは、可愛さのあるスミレ、サワークリームの爽やかさ。若さがあって気持ちがよく、コスト・パフォーマンスの高い美味しいワイン。
 スミス・オー・ラフィット : セカンドに比べると、色、味わいともにワンクラス上かな。こちらもサワークリームの要素があり、よりまろやかで目の詰まった質感。セージのようなハーブが混ざる複雑性もあり、調和のとれた素晴らしいワイン。1st、2nd、どちらも太鼓判、お買い得です。
(Ch. Smith Haut Lafitte)

Domaine de Chevalier
ドメーヌ・ド・シェヴァリエ
ペサック・レオニャン 赤 (CS65,M30,CF5)
('95 \6,000位)

 ドメーヌ・ド・シュヴァリエは、グラーヴ地区のレオニャン村南部、森に囲まれた場所にあります。赤と白のワインを産出するこのドメーヌは、その生産量が少なく、ワインの質も高いため、ワイン好きの間では大変人気のあるもの。特に白ワインは垂涎の的、赤もグラーヴを代表する一本。
 1995年の赤。ファースト・ノーズでは、スタイリッシュなスミレの花やカシス、やや酸を感じる香り。セカンド・ノーズで、奥の方から感じる樽の焦げ臭や甘いバニラ。これを口に含むと、フルーツ系の酸、何故か果実味は乏しく、渋みが強いワイン。みずみずしいという表現も出来ますが、余韻で収斂性はどこかバランスに欠けるような気がします。期待しただけに?の出来。
(Domaine de Chevalier)

Ch. Malartic-Lagraviere
シャトー・マラルティック・ラグラヴィエール
ペサック・レオニャン 赤 (CS50,M25,CF25)
('70 \15,000位)('90 \8,000位)

 土壌の良いレオニャンの高台にある21haの畑。赤、白ともにグラーブのクリュ・クラッセ。1980年代にはエミール・ペイノーをコンサルタントに迎え、品質が向上。さらに1990年〜1997年はシャンパーニュのローラン・ペリエの所有に。現在では、アレクサンドル・ボニーの手に渡り、赤ワインはあのミッシェル・ロランが、白はドゥニ・デュブルニューが手掛け、これからが期待されるシャトー。

 90年:偉大なる90年のワインは、焼けた石、西洋杉、石灰、ほんのりとバニラを感じるグラーヴというイメージ通りの香り。すでに角のとれた柔らかみのあるワイン。ボディはミディアムから薄く感じますが、余韻では細やかなタンニンを残します。味わいよりも香りが勝るワイン。
 70年:エッジにはレンガが入っていますが、90年よりしっかり光沢と深みのある色あい。少し不潔っぽいアルコールからブラックベリーのアロマ。香りはバランスがとれていないかな?高めの酸とチェリー様の果実は、強さがありながら、明瞭感に欠けるか?
 ワインとしては問題なく美味しいのですが、グラーヴ格付け、1970年と1990年というグレート・ヴィンテージ、お値段を考慮すると物足りなさの残る2本でしょうか?



今月のお題目」はカベルネ・ソーヴィニオンについて

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