November 2001

今月の御題目

スペインの今 (前編)
スーパースパニッシュ出現

 古くからワインの名産地として知られるスペインは、ブドウ栽培面積で世界第一位、生産量においても第三位というワイン大国ながら、日本においても、話題に上る事の少ない国。個人的にもスペインのワインに触れる機会はあまり多くありませんが、昨今の情報を見ていると、この国にも新しい動きがあるようです。
 今回はそんなスペインを2回に分けて特集。まず前編では、これから注目すべき重要な産地の説明と、近年の大きな流れであるスーパースパニッシュの出現について。


スペインのワイン法

 スペインというと、金色の網に覆われた仰々しい外観注1、どこか古典的な赤ワインという印象があるのではないでしょうか。ティント(Tinto:赤ワインの意)のイメージが強い国ですが、全生産量に対する実際の比率は35%で、白31%、ロゼ15%、残りは有名なシェリーを始めとする酒精強化ワイン等が生産されています。

 ワイン産地として約2000年の歴史を持ちますが、現在のような世界的レベルのワインを産するきっかけとなったのは、19世紀後半にフランス全土を襲ったフィロキセラのようで、この頃、害を避けるためにボルドーから移住したフランスの栽培・醸造家がリオハ等のスペイン北部に定住し、その技術を持ち込んだとされます。

 スペインの原産地呼称制度は1920年に優れたワイン産地の指定制度ができ、1970年「ぶどう畑、ワイン及びアルコールに関する法令」を施行。現在はECの合意に基づき、4つのカテゴリーに分類されていますが、その最上級とされるDOC:特選原産地呼称ワインに指定されているのはリオハのみ(1991年に指定)。


DOC (Denominacion de Origen Calificada)
特選原産地呼称ワイン
INDO(国立原産地呼称庁)が非常に厳しい生産基準を設けている。現在はリオハのみ。
DO (Denominacion de Origen)
原産地呼称ワイン
統制委員会が設置された地域。地域内で栽培された認可品種を使用し、厳しい基準を設けている。現在54地域。
VdlT (Vino de la Tierra)
ヴィーノ・デ・ラ・ティエラ:カントリーワイン
認定地域内で生産された原料ブドウを60%以上使用。
VdM (Vino de Mesa)
ヴィノ・デ・メサ:テーブルワイン
基本的なカテゴリー。格付けされていない畑のものや、異なる地方のワインを混ぜたもの。

 また、ご存知のようにスペインには「レゼルバ」や「グラン・レゼルバ」といった熟成に対する格付けが定められ、ラベル表示されていますので、その表記により熟成タイプを見分けることができます。
●ホーベン Joven、シン・クリアンサ Sin Crianza
樽熟成12ヶ月以下、または全く樽熟成を行わないもの。
●クリアンサ Crianza注2
赤ワインは、樽及び瓶内にて出荷までに最低24ヶ月熟成、うち6ヶ月(リオハは12ヶ月)樽で熟成させる。白とロゼは、樽及び瓶内にて出荷までに12ヶ月、うち6ヶ月は樽で熟成。
●レゼルバ Reserva
赤ワインは、樽及び瓶内にて出荷までに最低36ヶ月熟成、うち12ヶ月は樽で熟成させる。白とロゼは、樽及び瓶内で24ヶ月、うち6ヶ月は樽で熟成。

●グラン・レゼルバ Gran Reserva
赤ワインは、24ヶ月以上オーク樽で熟成させた後、36ヶ月以上、瓶内で熟成させたもの。白とロゼは、樽及び瓶内で48ヶ月以上、うち6ヶ月は樽で熟成。

注1 : ボトルに掛けられた金色の網は熟成ワインの特徴で、その昔、有名ワインの中身を入れ替える悪い酒屋が多かったため、不正防止のため付けられたものの名残と言われています。)
注2 : クリアンサとは「育てていく」という意味。)


スペインのワイン産地

 スペイン国土の平均標高は600メートルと高く、いくつかの山脈と無数の山々、そしてその間に広がる中央高原(メセタ)によって構成されています。地図のように国土の全域でブドウ栽培が広く行われており、各産地でバラエティー豊かなワインが産出されます。

 ワイン産地を考える上での基礎となる「DO:原産地呼称ワイン」は現在55地域が指定されていますが、ここではその中でも重要かつ注目のDOについて、とりまとめておきます。

 またスペイン産発泡性ワインの代名詞ともなっている「カヴァ:Cava」は、特別D.O.として認められており、これは産地としてではなく、例外的な製法に対しての呼称です。

(以下 白赤 は各D.O.の重要なブドウ品種)



【北東部海岸地方 Catalonia】
ペネデス Penedes
 白:シャルドネ、チャレッロ 赤:テンプラニーリョ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニオン
 ペネデスは地中海沿岸の北東部にあり、国際都市バルセロナ近くにあるワイン産地。カヴァの中心地として有名(カヴァについては別記後述)ですが、1960年代よりスティルワインの生産が盛んになりました。進取の気風に富むカタロニアらしく、シャルドネ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニオンなどの外来ブドウ品種や新しい醸造技術を貪欲に取り入れ、特に長熟タイプの赤ワインに対する評価は年々高くなっています。
 そういう意味でも、1960年代にいち早く外来品種を導入し、世界に名をしらしめたジャン・レオンや、トーレス社のミゲル・トーレスなど著名な生産者の功績も見逃せない地域。その国際性と斬新性は、これからも期待の産地の一つ。
プリオラート Priorato
 赤:ガルナッチャ、カリニャン、カベルネ・ソーヴィニオン、メルロー、シラー
 カタロニア地方の中でも新しく期待されるホットなワイン産地。岩山の険しい斜面に切り開かれた畑は、昼夜の気温差により、凝縮した風味のワインとなる。数年前までは全く無名といっても差し支えない地域でしたが、1980年代後半以降、高品質、少量生産を目指す専門家グループの活躍により、高レベルなワイン産地として急激な発展を遂げています。
 話題のスーパースパニッシュ「レルミタ」等が産み出される地。詳細は後述



【エブロ河流域 Ebro】
リオハ Rioja
 白:ビウラ、ガルナッチャ・ブランカ、マルバシア 赤:テンプラニーリョ、ガルナッチャ、マスエロ、グラシアーノ
 高級ワインの代名詞リオハ。産出地域はエブロ河下流から上流に沿ってリオハ・バハ、リオハ・アラベサ、リオハ・アルタの3つに分けられ、銘醸ワインを多く擁するのは後者2つの地域。南北に走る山脈のおかげで、北部の湿気からも南部の過剰な乾燥からも守られ、ワイン造りに理想的な気候条件を備えているといわれています。
 リオハにおける近年の動きは後述いたします。
(右はリオハの新しい原産地呼称紙)
ナバーラ Navarra
 白:ビウラ、ガルナッチャ・ブランカ、マルバシア、シャルドネ 赤:テンプラニーリョ、ガルナッチャ、マスエロ、グラシアーノ、カベルネ・ソーヴィニオン、メルロー
 ナバーラはピレネー山脈のふもと、約15000haの広さがあり、エブロ河両岸の5つの地区に分かれています。この地のワインと言えば長年、ロゼワインに代表されてきましたが、1980年代後半以降、積極的に外来品種を取り入れ、現在は熟成タイプの赤ワイン産地へと転換しています。
 以前までロゼのベースとなっていたガルナッチャは年々減らされつつあり、テンプラニーリョやカベルネ・ソーヴィニオンなどの栽培が増え、現在での赤:ロゼ:白の割合は、約6:3:1。単一品種表示のワイン販売も成功を収めています。



【カスティーリャ・レオン Castilla-Leon】
リベラ・デル・ドゥエロ Ribera del Duero
 白:アルビーリョ 赤:ティント・フィノ(=テンプラニーリョ)、ガルナッチャ、カベルネ・ソーヴィニオン、マルベック、メルロー
 両岸をなだらかな丘に囲まれたリベラ・デル・ドゥエロは、標高700〜800mの高地に位置しています。6月初旬まで霜が降りるという冬と、真夏には40℃を越える日がある夏の厳しい自然環境。昼夜の気温差も大きい。
 中世、リオハからもたらされたテンプラニーリョは、こうした自然環境に適応し、より小粒で果皮の厚いブドウに変化。この地ではティント・フィノ、またはティント・デル・パイスと呼ばれ、全栽培面積の約85%を占めています。
 リベラ・デル・ドゥエロの名声はベガ・シシリアにより長らく独占されてきましたが、1970年代、ペスケーラの登場によりこの地の名声を分け合うように。そして現在では、それらに追随するスーパー・スパニッシュの聖地となっています。詳しくは後編にて取り上げます。
トロ Toro
 白:マルバシア、ビウラ 赤:ティンタ・デ・トロ(=テンプラニーリョ)、ガルナッチャ
 ドゥエロ河流域にあるワイン産地の中では、最も下流(ドゥエロ河はポルトガルに入るとドウロ河となる)に位置するトロ。リベラ・デル・ドゥエロと同じように、メセタ上にあり標高は600〜700mと高く、夏の暑さ、冬の寒さの厳しい大陸性気候。
 古くからトロでは、地元でティンタ・デ・トロと呼ばれるテンプラニーリョからアルコール度数の高い(17度以上のことも!)フルボディのワインが造られてきました。しかし灼熱の太陽を受けた熟度の高いワインは、重すぎるあるいは粗野なワインという評判もあったようです。
 しかし、近年リベラ・デル・ドゥエロの著名な生産者(ベガ・シシリア、ペスケーラ、マウロ等)がトロに進出、畑を買いワイン造りをはじめたのをきっかけに、新しいワイナリーが続々と誕生しています。スペインのワイン生産者にとっても、潜在能力のある産地として注目されています。
ルエダ Rueda
 白:ベルデホ、ビウラ、ソーヴィニヨン・ブラン、パロミノ
 カスティーリャ・レオンの中で、唯一白ワインだけのルエダDO。「パンの大地」の名を持つ穀類の一大産地では、これまで伝統的にパロミノを用い、酒精強化されたシェリーのようなワインが中心でした。
 この地に白ワイン革命をもたらしたのは、リオハの著名な生産者であるマルケス・デ・リスカル。同社の醸造顧問であったボルドーのエミール・ペイノー教授に優良な白ワイン産地探しを依頼し、ペイノー教授が目をつけたのがルエダのベルデホ種のワイン。その後1972年にマルケス・デ・リスカルは白専門のワイナリーをこの地に築き、醸造設備の刷新、クリオ・マセレーション等の醸造方法の近代化を導入しました。地元のワイナリーもこうした流れに追随することとなり、1980年DOに認定されます。
 以後、ルエダのブドウ畑は急速に増え、パロミノは次々とベルデホやフランスから導入したソーヴィニヨン・ブランに改植され人気が高まっています。
 またDOには認定されませんが、少量の赤ワインも造られており、メディナ・デル・カンポVdlTとして市場に出されています。シャルドネやカベルネ・ソーヴィニオンも試験的に取り入れられ、今後要チェックの産地。



【ガリシア Galicia】
リアス・バイシャス Rias Baixas
 白:アルバリーニョ
 リアスとは日本の陸中海岸でも知られるように、幾つもの入り江を持つ大西洋に面した海岸線、またバイシャスには下部という意味があり、ガリシア地方のリアス式海岸の下部(南部)ということ。スペインの中では降水量の多い地域ながら、地盤が主に花崗岩でできているため、水はけが良く、畑は入り江のすぐ背後に迫る山の丘陵地や、ミーニョ河にそった渓谷などに位置しています。
 ここを代表する品種はアルバリーニョで、全栽培面積の90%以上を占めています。どこかリースリングを思わす清楚で上品な香り、生き生きとした果実、心地よい酸味をもつ白ワインを生みます。
 小さな栽培農家が多かったこの地域も、協同組合の発足、最新技術の導入等により、1988年にはDOを獲得。現在では「スペインで最も上質な白ワイン産地」としての名声を確立、海外からも注目され、輸出も盛んになっています。



【中央部 Centro】
ラ・マンチャ La Mancha
 白:アイレン 赤:センシベル(=テンプラニーリョ)、カベルネ・ソーヴィニオン
 スペイン中央部、メセタと呼ばれる高原には、約60万ha(DO認定は約18万ha)のブドウ畑があり、スペイン全体の50%にあたるワインが生産されています。一時は95%までも占めたというアイレン種から造られる白ワインは、主に安価なバルクワインや酒精強化用にされていましたが、昨今「量から質」への転換が始まりつつあり「眠れる巨人が眼を覚まし始めた」と言われます。
 現在、瓶詰めワインへの移行が進むだけでなく、アイレンからセンシベルへの改植が奨励され、カベルネ・ソーヴィニオンなどの導入も行われています。セルバンテスが17世紀に書いた小説の主人公、ドン・キホーテ縁の土地は、これからが注目される。
ヴァルデペナ Valdepenas
 白:アイレン 赤:センシベル(=テンプラニーリョ)
 地名は「石の谷」という意味、その名のように丘陵地に囲まれた土地。ラ・マンチャの南続きにありながら、赤の割合が80%以上(ラ・マンチャは、現在もほとんど白)、瓶詰生産が95%以上と多く(ラ・マンチャは90%がバルクワイン)その違いが見てとれる。ヴァルデペナDOにおける全生産量の7割を占めるというフェリックス・ソリス社(ビーニャ・アルバリ等のブランドが有名)を中心にコスト・パフォーマンスの良いワインが日本にも届いています。



【レバンテ Levante】
アリカンテ Alicante
 白:メルセゲラ、ビウラ等 赤:モナストレル、カルナッチャ、テンプラニーリョ、カベルネ・ソーヴィニオン等
 スペイン南東の地中海沿岸地域にあるレバンテ地方。この中で、アリカンテは古くから重要な地中海交易の重要な港町でした。昔から輸出が盛んでしたが、そのほとんどはバルクワイン。瓶詰ワインは、美しい浜辺に国内外からやってくるリゾート客によって消費されていました。
 ここだけのユニークなワインとして愛飲されてきたのが、フォンディリョンというトゥニー・ポートに似た甘口ワイン。黒ブドウのモナストレルを天日干しの後、醸造し、長期間ソレラシステムにて樽熟成させたワインで、アルコール度数は16度となります。
 近年では、徐々に新技術が取り入れられ、モナストレルなどの在来品種の他、カベルネ・ソーヴィニオンやシラー、シャルドネ、リースリングなども栽培され、輸出も多くなっています。



【アンダルシア Andalucia】
ヘレス/シェリー Jerez/Xeres/Sherry
 白:パロミノ、ペドロ・ヒメネス、モスカテル
 言わずと知れたシェリー(酒精強化ワイン)の産地。シェリーの中心地であるヘレス・デ・ラ・フロンテラの始めのヘレス(Jerez)が、フランス語でセレス(Xeres)と書かれ、これを英語読みでセーレスと呼んだのが、後に訛ってシェリー(Sherry)となりました。よって、すべての表記がD.O.として許されています。
 主なブドウはパロミノで、フロールと呼ばれる産膜酵母がワインにユニークなキャラクターを与える。またソレラシステムという、味わいのスタイルを継続させる長期熟成の手法は有名。フィノ、マンサニーリャ、アモンティリャード、オロロソの4種に分類されます。
モンティーリャ・モリレス Montilla Moriles
 白:ペドロ・ヒメネス、モスカテル、アイレン
 アンダルシア州の中央部にあるアラブ文化の色濃い町コルドバと地中海沿岸のコスタ・デル・ソルにある国際的リゾート都市マラガとの間に位置する地域で、モンティーリャとモリレスという村を中心にした白ワインの産地。タイプは伝統的な酒精強化ワインと、モダンなフレッシュ&フルーティーなもの。 栽培されている80%はペドロ・ヒメネスで、自然アルコール度数、14〜16%のワインができます。



【カヴァ Cava】(特別D.O.)
 白:マカベオ(=ビウラ)、パレリャーダ、チェレッロ
 指定された産地内にて、瓶内二次発酵を用いる「シャンパン方式」によって生産されるスパークリング・ワイン。マカベオ(=ビウラ)、パレリャーダ、チェレッロの三種のブドウからなり、少量のシャルドネも認められています。ロゼのカヴァにはモナストレル、パレリャーダが加わります。
 二次発酵から口抜きまで最低9ヶ月の熟成が義務付けられ、生産量の9割以上はペネデスを中心とするカタルーニャ州で生産。カヴァとは「洞窟」の意。1986年DO認定。



リオハとスーパー・スパニッシュの出現

 スペインといえば、まずリオハの名が思い浮かぶのではないでしょうか。国内唯一のDOC指定地でもあり、その名声は揺るぎそうにありません。

 DOCリオハに登録されているブドウ畑の約3分の2を占めているのが、テンプラニーリョというブドウ品種。数多いスペイン原産の品種の中でも、最も高貴な品種とされ、ひと昔前までは、テンプラニーリョといえば、リオハのワインを指していました。現在では、この品種の優秀さが広く理解され、55あるDOのうち、23の地域で高級ワインを造るための主要品種として指定されています。注3

 これまでのリオハのワインは、アメリカン・オークを用いた長期に及ぶ樽熟成によるワインが主流で、樽熟成が長いほど高級なワイン(レゼルバやグラン・レゼルバ)という独自の美学があり、それがスペインワインの代表と思われていた時代が長く続いていました。

 しかし昨今、国際市場の嗜好に合わせた果実味のある調和のとれたワインが要求されるようになり、リオハも徐々にそのスタイルを変えているようです。リオハの伝統とも言える「レゼルバ」や「グラン・レゼルバ」といった表記に拘らないワインや、シングル・ヴィンヤードの高い樹齢の区画を用いたワイン、フレンチ・オークの小樽での熟成、熟成期間の短縮など、新たな動きが見られるようになりました。

 その代表的なワインとして、テルモ・ロドリゲスのレメリュリ写真、ムガのトーレ・ムガ、マルケス・デ・リスカルのバロン・ド・チレル、ボデガス・パラシオのコスメ・パラシオ、マルケス・デ・バルガスのレセルバ・プリバーダ、ボデガス・ローダのローダT、アルタディのグランデス・アニャーダス、フィンカ・アリェンデのアリェンデ、そしてレミレス・デ・ガヌーサなど、次世代のスペインを担うと目される生産者達のワインが名を連ねています。

 現在これらのワインは、スーパー・リオハ、モダン・リオハと呼ばれるようになっていますが、こうした動きは他の産地でも見られ、今までのスペイン高級ワインを価格的にも凌駕するものが各地で登場しています。リオハを含め、それらは「スーパー・スパニッシュ」と称され、現在最も熱い視線を浴びるワインとなっています。

 プリオラートDOでは、ルネ・バルビエ氏のクロス・モガドール、パストラーナ夫妻によるクロス・ド・ロバック、ホセ・ルイス・ペレス氏のクロス・マルテェネ、アルバロ・パラシオス氏のフィンカ・ドフィというワインが生まれました注4。現在、パラシオス氏が生み出すスーパー・スパニッシュ、レルミタは、ベガ・シシリアを越える価格で取引されており、無名だったプリオラートのワイン産業を活発化させるだけでなく、彼自身も革新的醸造家として内外から高い評価を受けています。

写真 : 「スペインのアンファン・テリブル」「リオハの異端児」と呼ばれるテルモ・ロドリゲス氏のレメリュリ。彼は1993年ヴィンテージ以降、輸出向けのワインには「レゼルバ」や「グラン・レゼルバ」といったラベル表記を止めた。法律に縛られる事なく、ヴィンテージの良し悪しにより熟成期間を造り手が採決しようとしている例。写真は1990年のため「グラン・レゼルバ」と記されています。)
注3 : スペインでは146品種ものブドウが農水省に登録されています。同一品種でありながら、産地により呼び名が異なるものが40種もあり、テンプラニーリョは国内で7つの名を持ち、ポルトガルではティンタ・ロリスと呼ばれる。名前の意味は「早熟」。)
注4 : この4本のワインは、もともとプリオラートで高品質なワイン造りを目指し、共同で造り上げたもの。初ヴィンテージの1989年は、中身は同じものに、それぞれ別のラベルを貼って販売。後、彼ら4人は袂を分かち、別々にワインを造るように。)


旧世界の移り変わり

 古くからワイン造りの歴史を持つ国々(旧世界)においても、今は変革の時期。20世紀末に大きく発展したカリフォルニアやチリ、オーストラリアといった新世界の台頭は、ここでも大きく影響しているようです。

 スペインにおける近年の流れは、以前お伝えしたイタリア、トスカーナ州におけるスーパー・タスカンの出現やピエモンテ州のバローロ・ボーイズの活躍にも見られるように、因習にとらわれず、新しい世代が改革を推し進める過程なのでしょう。

 国際市場の要求に応えるべく、積極的な新技術導入によるワイン産地の構造改革は、全世界の風潮となっています。スペインでは「リベラ・デル・ドゥエロ」「リオハ」「プリオラート」「ペネデス」等の産地において、いち早く実践され、これからの時代をリードして行くのではないでしょうか。今後のスペインが、その古典的な産地のイメージから脱却する姿を見守るのは、とても興味深いことのように思います。

 後編では、多くのスーパースパニッシュを産し話題の「リベラ・デル・ドゥエロ」と、スペインの中でも、最も深遠なワインである「ベガ・シシリア・ウニコ」について触れたいと思います。


今月の味わいのあるワイン2001年11月
ではスペインワインを特集しています。

参考文献
ヴィノテーク
ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート 教本
世界一ブリリアントなワイン講座

今月のお題目 目次
今月のお題目 前回 今月のお題目 次回


class30 "The Wine"