June 2001

今月の御題目

太陽と歴史の産地(中編)
南部ローヌ

 前回の北部ローヌに続き、今回は南部ローヌについて。北部の10倍以上にもなる栽培面積、生産量を誇る南部ローヌにおけるワインの産地と特徴を紹介します。

 以下文中にて「コート・デュ・ローヌ」を「CdR」と、「シャトーヌフ・デュ・パプ」を「CNdP」と略して記載している部分があります。また AOC、VDQS、Vin de Pay というのは、フランスの原産地呼称法における格付けのこと。詳しくはこちらをご覧下さい。


南部の特徴と北部との違い

 地中海気候である南部ローヌは、燦々と降りそそぐ太陽、その温暖な気候によりブドウ栽培に適し、赤を中心とした多くのワインが産出されます。ブドウが栽培される土地は、北部の急な傾斜地に対し、比較的平坦な土地やゆるい丘陵地。その土壌は、ローヌ河に流れる多くの支流の影響が強く、広大な面積を持つため様々。小石や砂利、粘土、石灰などがありますが、基本的には石灰質砂岩の台地で大きな石が多量に混ざっています。

 北部における赤ワインはシラー種による単醸ですが、南部では地中海沿岸地方で栽培されているほとんどのブドウ品種が植えられ、グルナッシュ種注1を中心に多くの品種をブレンドしてワインが造られます。シラー種は最も小粒で皮が厚いのでタンニンも強く出やすいのに対し、グルナッシュ種はやや大粒、糖分が高く、アルコール分と色は濃いめであるものの、固形物の比率が少ないためタンニンはそんなに強く感じません。

 有名なAOCとしては、タヴェル、シャトーヌフ・デュ・パプ、ジゴンダス等。ブドウ栽培地がローヌ河右岸に集中する北部とは逆に、南部では左岸に産地が広がっているのが特徴的。

 以下、ローヌ北部と南部の違い、そして南部における主要なブドウ品種をまとめておきます。これらの違いをみても、北部と南部は個性の違うワインであると言えそうです。


北部と南部の違い
  ローヌ北部 ローヌ南部
気候 大陸性気候 地中海性気候
栽培地の起伏 険しい傾斜地 平坦な土地、ゆるい丘陵
土壌 花崗岩質、片岩質土壌 石灰質砂岩他
赤ワイン用ブドウ品種 シラー グルナッシュ他様々
ブレンド 単醸(1ないし2品種) 混醸(多品種)
栽培地の位置 主にローヌ河右岸 主にローヌ河左岸

南部における主要なブドウ品種

黒ブドウ
グルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、サンソー、カリニャン等

白ブドウ
ユニ・ブラン、ピクプール、ブールブーラン、ルーサンヌ、マルサンヌ、クレレット等

注1 : この品種は、スペインではガルナッチャと呼ばれ、世界第二位の栽培面積を持つブドウ [第一位はスペイン中央部で多く見られるアイレン:Airen] で、その総栽培面積は10万ha以上にのぼります。特筆すべきは、その糖分で、南部ローヌのアルコールの高いふくよかなワインは、この品種の糖度による部分が大きい。)
参考 : 地図上の「Cote du Vivarais : コート・デュ・ヴィヴァレ」はAOCではなく、新たにVDQSとなった総面積850haの地区。ただ、この地区内でもVDQSではなく「Vin de Pay des Coteaux de l'Ardeche」として出されるガメイ、シャルドネなどをよく見かけます。また、コート・デュ・リュベロンの東側には「Coteaux de Pierrevert : コトー・ド・ピエールヴェール」という総面積300haのVDQSがありますが、多くはフランス国内で消費されています。)


南部ローヌのAOC
 各AOCで気候や土壌は多様に変化するため、赤白ロゼの認可、使用ブドウ品種の割合も違う南部のワイン。それぞれのAOCの特徴をまとめておきます。

【 左よりAOC、タイプ、左岸と右岸、栽培面積、許容最大収穫量 】
Cotes du Rhone
CdR (地方名ワイン)

赤,白,ロゼ

両岸

42000ha

52hl/ha
Cotes du Rhone-Village
CdR ヴィラージュ(村名なし)

赤,白,ロゼ

両岸

2600ha

-
Cotes du Rhone-Village
CdR ヴィラージュ(村名つき)

赤,白,ロゼ

両岸

4200ha

-
Chateauneuf-du-Pape
シャトーヌフ・デュ・パプ

赤,白

左岸

3200ha

35hl/ha
Gigondas
ジゴンダス

赤,ロゼ

左岸

1040ha

36hl/ha
Vacqueyras
ヴァケラス

赤,白,ロゼ

左岸

800ha

35hl/ha
Lirac
リラック

赤,白,ロゼ

右岸

420ha

42hl/ha
Tavel
タヴェル

ロゼ

右岸

950ha

48hl/ha
Coteaux du Tricastin
コトー・デュ・トリカスタン

赤,白,ロゼ

左岸

2200ha

52hl/ha
Cotes du Ventoux
コート・デュ・ヴァントゥー

赤,白,ロゼ

左岸

6300ha

50hl/ha
Cotes du Luberon
コート・デュ・リュベロン

赤,白,ロゼ

左岸

2700ha

50hl/ha

参考 : この他のアペラシオンとして、ヴァン・ドゥー・ナチュレル(VDN:天然甘口ワイン)を産する「ラストー : Rasteau」(57ha)と「ミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズ : Muscat de Beaumes-de-Venise」(433ha)があります。VDNはワインの発酵中にブランデーを添加し、発酵を人為的に抑制する「ミュタージュ」という方法が用いられ、果汁の糖分がワインの中に残り甘口ワインとなるもの。「ミュタージュ」とは「黙らせる」の意。現地では完熟した甘口メロンと共に供されます。



■ Cotes du Rhone コート・デュ・ローヌ(地方名ワイン)
■ Cotes du Rhone-Village コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ(村名なし)
■ Cotes du Rhone-Village コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ(村名つき)
 ローヌ全域でワインを説明する時、まずベースとなるのが、ACコート・デュ・ローヌであり、その一部に一格上となるコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュがあります。これらのアペラシオンを何故南部で紹介するのかと言うと、ACコート・デュ・ローヌを名乗るワインはほとんどが南部産であり、コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュとなると南部のみの指定された村から産出されるため。
 ACコート・デュ・ローヌは年間20万hlを越す生産量がありますが、そのうち白はたったの2%以下。赤の主要品種はグルナッシュ、シラー、ムールヴェードルで、多くの地域ではグルナッシュを最低40%以上使用するという規定があります。
 ヴィラージュは、その品種指定、許容最大収穫量、アルコール度数などの規定が厳しくなります。またヴィラージュの中には、ラベルに「村名」が併記されたワインがありますが、その数は現在16ヶ村。Cairanne, Rasteau, Visan, Valreas 等が有名です。
● コート・デュ・ローヌの代表的な生産者とワイン
・Domain Gramenon (CdR A. Pascal【写真】, CdR Ceps Centenaires)
・Coudoulet de Beaucastel (CdR)
・Chateau de Fonsalette (CdR, CdR Cuvee Syrah)
・Tardieu-Laurent (CdR Guy Louis)



■ Chateauneuf-du-Pape シャトーヌフ・デュ・パプ
 「法王の新しい城」という意味を持つシャトーヌフ・デュ・パプは、ローヌで最も知られたワインの一つ。1309年、クレメンス五世はアヴィニョンに法王庁を移し、この地に別邸を構えたのが名の起こり。(その歴史については、次回のお題目で詳しく取り上げます。)
 シャトーヌフ・デュ・パプの大きな特徴として、畑の表面が丸い大きな石ころで覆われていて、その石が昼間に熱をたくえわえ夜間に放出するため、ブドウは完熟し果実味のあるしっかりしたワインが出来きるということ。そのためか、この地での補糖は禁止されており、法で定められた最低アルコール度数は13℃と全AOCの中で最も高い。
 また、13種類注2ものブドウ栽培が認められており、各造り手の個性が発揮されます。しかし、多くの造り手が実際に使用するのは6〜7品種で、グルナッシュを中心とし、シラー、ムールヴェードル、サンソーが加わる事が多い。どの品種を何%という細かな規定はなく、一品種のみを使ってもよいし、13品種すべてのブドウを使用することも可能。赤ワインが中心ですが、少量の白の中にも素晴らしいものがあります。
● シャトーヌフ・デュ・パプの代表的な生産者とワイン
・Chateau de Beaucastel (CNdP, CNdP Hommage a Jacques Perrin, CNdP Blanc, CNdP Blanc Roussanne Vieilles Vignes)
・Domaine de Beaurnard (CNdP, CNdP Cuvee Boisrenard)
・Domaine Henri Bonneau (CNdP Reserve des Celestins, CNdP Cuvee Marie Beurrier)
・Le Bosquet des Papes (CNdP Cuvee Chantemerle)
・Les Cailloux : Domaine Andre Brunel (CNdP, CNdP Centenaire)
・Clos du Mont-Olivet (CNdP, CNdP Cuvee Papet)
・Clos des Papes (CNdP, CNdP Blanc)
・Domaine Font-de-Michelle (CNdP, CNdP Cuvee Etienne Gonnet, CNdP Blanc)
・Chateau de la Gardine (CNdP, CNdP Cuvee des Generations)
・Domaine de la Janasse (CNdP, CNdP Cuvee Chaupin, CNdP Cuvee Vieilles Vignes, CNdP Blanc Cuvee Prestige)
・Chateau la Nerthe (CNdP, CNdP Cuvee des Cadettes, CNdP Blanc Cuvee Beauvenir)
・Domaine du Pegau (CNdP Cuvee Reservee, CNdP Cuvee Laurence)
・Chateau Rayas (CNdP Reserve Chateau Rayas【写真】, CNdP Reserve Pignan, CNdP Blanc)
・Domaine Roger Sabon (CNdP Cuvee Prestige)
・Domaine du Vieux Telegraphe (CNdP, CNdP Blanc)
注2 : 認可されている品種 ●黒ブドウ:グルナッシュ、サンソー、シラー、ムールヴェードル、テレ・ノワール、ミュスカルダン、ヴァカレーズ、クーノワーズ ○白ブドウ:クレレット、ブールブーラン、ルーサンヌ、ピクプール、ピカルダン)



■ Gigondas ジゴンダス
■ Vacqueyras ヴァケラス
 シャトーヌフ・デュ・パプのやや北東の丘陵に位置するジゴンダスとヴァケラス。ジゴンダスは「楽しみ」、ヴァケラスは「石の谷」というラテン語に由来すると言います。共にもとはコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュだった村ですが、ジゴンダスが1971年に独立したACとなり、1990年にはヴァケラスがACに昇格しました。
 赤ワインはやはりグルナッシュが主体。ジゴンダスでは、グルナッシュが最高80%まで、シラーかムールヴェードルを15%以上使用。ヴァケラスは、グルナッシュが50%以上、シラー、ムールヴェードル、サンソーを20%以上使うという規定があります。その他はカリニャンを除くコート・デュ・ローヌ一般で認められている品種。とにもかくにも、シャトーヌフ・デュ・パプと並びうる品質のワインを産出する村で、強い陽射しによる豊潤でスパイシーな赤ワインは注目。
● ジゴンダス、ヴァケラスの代表的な生産者とワイン
・Domaine de Cayron (Gigondas)
・Les Hauts de Montmirail (Gigondas)
・Domaine Raspail-Ay (Gigondas)
・Chateau de Saint Cosme (Gigondas, Gigondas Cuvee Valbelle)
・Domaine Santa Duc (Gigondas, Gigondas Cuvee des Hautes Garrigues)
・Edmond Burle (Gigondas Les Pallieroudas【写真】, Vacqueyras)
・Domaine des Amouriers (Vacqueyras)
・La Bastide Saint-Vincent (Vacqueyras)
・Domaine le Sang des Cailloux (Vacqueyras)



■ Tavel タヴェル
■ Lirac リラック
 ローヌ河を挟んでシャトーヌフ・デュ・パプの対岸に位置するタヴェルとリラック。その土壌も左岸とは違い、丸い石は少なくなり、白亜系の粘土や砂利が多くなります。
 タヴェルのロゼは世界的に有名ですが、ここはロゼのみが認められる唯一のアペラシオン。グルナッシュとサンソーを主体として造られる、高いアルコール感と辛口の味わいで、その美しい色は「バラ色」「たまねぎ色」等と形容されます。
 隣にあるリラックは、あまり知られていませんが、タヴェルと並ぶロゼワインの産地。タヴェルはロゼだけですが、リラックでは赤、そして少量ながら白も造られ、シャトーヌフ・デュ・パプの早飲みスタイルとも称されます。
● タヴェル、リラックの代表的な生産者とワイン
・Chateau d'Aqueria (Tavel Rose, Lirac Rouge)
・Domaine de la Mordoree (Tavel Rose【写真】, Lirac Rouge, Lirac Rouge Cuvee de la Reine des Bois)
・Chateau Saint-Roch (Lirac Rouge)
・Chateau de Segries (Lirac Rouge)



■ Coteaux du Tricastin コトー・デュ・トリカスタン
 南部ローヌの中では最も北に位置するコトー・デュ・トリカスタン。従来VDQSだったものが、1974年にACとして昇格。この地区は、フィロキセラ禍当時、いったん畑が壊滅状態となり、ローヌのACを特定する際、その範囲に入れてもらえなかった。グルナッシュとサンソーからなる赤が中心の産地。



■ Cotes du Ventoux コート・デュ・ヴァントゥー
■ Cotes du Luberon コート・デュ・リュベロン
 コート・デュ・ヴァントゥー、コート・デュ・リュベロンもACに昇格した産地。コート・デュ・ヴァントゥーは、ジゴンダスの東、ヴァントゥー山麓からアプトに至る総面積6300haの広大な地区で、1974年からACに。コート・デュ・リュベロンは、作家ピーター・メイルの「南仏プロヴァンスの12ヶ月」の舞台となった場所注3で、1988年にACとなり、2700haの面積を持ちます。
 ヴォークリューズ県となるこの一帯は、トリュフや羊などの美食の宝庫。フレッシュで地元の日常消費的なワインが多かった地区ですが、若い世代の造り手達により世界に輸出しうる品質のワインが増え、注目を集めています。
注3 : コート・デュ・リュベロンは原産地呼称法ではローヌに属しますが、この地で生活する人々の意識、気候や風土もプロヴァンスと言えるという事。実際にはデュランス河をACの境とし、その南側がコトー・デクサン・プロヴァンスとなります。)


可能性を秘めた土地

 ローヌ南部は、とても協同組合の力の強い地域でもあり、全体で65ほどの組合が活動しています。多くのブドウ栽培者は、こういった組合にブドウを供給していましたが、近年の情報を見るにつけ、この地域も世代交代が進み、ワインの品質を重視し、生産者元詰めを開始するようになった若き栽培醸造家の活躍が取りあげられています。

 フランスでの原産地呼称法制定当時、この地域でのアペラシオンというと、アヴィニョン近郊に広がるACコート・デュ・ローヌとシャトーヌフ・デュ・パプ、タヴェルくらいしかありませんでした。上記の各アペラシオンの説明通り、優れた産地(村)のAC昇格により、現在の地図が出来上がっているわけですが、総面積45000haという広大な土地は、更なる可能性を秘めているように思えます。

 豊かで大らか、親しみやすい南部ローヌのワイン達。今後、誠意ある生産者により、それぞれの土地の魅力が表現された素晴らしいキュヴェが登場する事が期待されます。

ローヌの歴史
 ブドウは、ギリシャ人、ローマ人たちによりローヌ河流域へフランス国内で最初にもたらされました。そうした意味でも、ローヌ地方は最も古くからのブドウ栽培の歴史を持ちます。そして、シャトーヌフ・デュ・パプは、フランスAOC法の生誕の場所とされています。次回は、そんなローヌの歴史、シャトーヌフ・デュ・パプを中心にレポートしたいと思います。

前回(上編)ではローヌ北部について 次回(下編)ではローヌの歴史について レポートしています。


今月の味わいのあるワイン2000年6月
では南部ローヌのワインを
今月の味わいのあるワイン2000年5月
では北部ローヌのワインを
今月の味わいのあるワイン2000年6月(2)
ではACコート・デュ・ローヌのワインを
特集しています。

参考文献
太陽の香り
世界ワイン大全
ワイナート
フランス・ワイン・ガイド
厳正評価 世界のワイン
ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート 教本

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