フランス、ローヌ地方。ブルゴーニュやボルドーに比べれば、知名度ではかなわないものの、栽培面積5.7万ha、年間総生産量約320万hlは、ボルドーに次ぐフランス第二のワイン生産地。十字軍と縁の深いエルミタージュ、ローマ教皇に由来するシャトーヌフ・デュ・パプ等、フランスでも最古の長いワイン造りの歴史を持つ地方でもあります。 今回は様々な個性を持つローヌ渓谷のワインについて。上編では強い陽射しを受ける丘に広がるブドウ畑、ローヌ北部。前回のお題目で紹介したオーストラリアのシラーズの故郷です。 |
この地方では23種のブドウ品種が認められ、実に多彩なワインが生産されますが、圧倒的に赤ワインが多く、全体の92%が赤ワイン。ロゼが2%、白が6%。 ローヌ地方は大まかに北部ローヌと南部ローヌに分けられます。右の地図のように北部の栽培地はローヌ河沿岸に集中し、南部では東西70kmにも及ぶ広大な面積を持ちます。面白いことに、中間地帯にはワイン栽培地がなく、これはこの辺りが大陸性気候(北部ローヌ)と地中海性気候(南部ローヌ)の分かれ目で、平均気温が低く、雨も多いので、ブドウの栽培には適していない事を表しています。北部と南部は、それぞれの気候やブドウ品種の違いからワインのスタイルも異なっています。 ローマ人の古代都市でもあったヴィエンヌからヴァランスにかけての北部ローヌは、ローヌ・アルプ地域とも呼ばれ、アルプスの冷たい空気の影響を受ける大陸性気候。土壌は主に花崗岩質、または片岩質土壌。
こんな栽培地に唯一適応する黒ブドウ品種がシラー、白はヴィオニエ、マルサンヌ、ルーサンヌ。栽培面積と生産量では南部の1/10以下と少量ですが、品質となると北部の方が優れているとされます。 |
ブルゴーニュにも匹敵するほどの品質と個性を持つワインが数多くあるこの地域。各AOCの特徴と注目すべき生産者をまとめておきます。 |
![]() |
|
(*
エルミタージュは通常 "Hermitage" と綴りますが "Ermitage"
とも表記されます。) (参考 : 地図上のクレレット・ド・ディー、シャティヨン・アン・ディオアというAOCは、ドローム河の上流にあるローヌとしては例外的な産地で、中部地域とも分類されます。クレレット・ド・ディー地区はクレレット種及びミュスカ種を使った発泡酒を多くつくる白の産地。シャティヨン・アン・ディオアは、1974年にACに昇格した地区で、赤、白、ロゼがあります。赤とロゼはガメイが75%以上でシラーとピノ・ノワールが補助品種。白はアリゴテとシャルドネ。ここでは北部ローヌから除いて考えます。) |
・E. Guigal (La Landonne【写真】, La Mouline, La Turque) ・M. Chapoutier (La Mordoree) ・Domaine Clusel-Roch (Les Grandes Places) ・Delas Freres (La Landonne) ・Marius Gentaz-Dervieux ・Jean-Paul et Jean-Luc Jamet ・Rene Rostang (Cote Blonde, Cote Brune La Landonne) ・Tardieu-Laurent (Cote Brune) ・L. de Vallouit (Les Roziers) ・Vidal-Fleury (La Chatillonne, Cote Brune et Blonde) |
● エルミタージュの代表的な生産者とワイン (赤,白の記入のないものは赤) ・M Chapoutier (赤:Le Pavillon, L'Ermite【写真】, Le Meal 白:de l'Oree, Le Meal) ・Paul Jaboulet-Aine (赤:La Chapelle 白:Chevalier de Sterimberg) ・Delas Freres (Les Bressards) ・Bernard Faurie (Le Meal) ・Marc Sorrel (Le Greal) ・Tardieu-Laurent (Vielles Vignes) ・Cave de Tain l'Hermitage ● クローズ・エルミタージュの代表的な生産者とワイン ・Albert Belle (Cuvee Louis Belle) ・Dom. Colombier (Cuvee Gaby, Clos des Grives) ・Alain Graillot (Cuvee La Guiraude) ・Paul Jaboulet-Aine (Domaine de Talabert, Domaine Raymond Roure) |
ワインの世界において、長い歴史を持つフランスですが、中でもローヌは、最古のブドウ栽培地と言われます。その歴史はローマ時代を遡り、各アペラシオンにまつわる記録が残されています。 コート・ロティではBC58年にシーザーが対岸のヴィエンヌを軍隊駐屯地にしたころからブドウ栽培が盛んになったとされますし、コンドリューにおいては、3世紀頃ローマ人がヴィエンヌに植民地都市を形成した時、市民のためのワイン供給地として栄えたと言います。
|
前回のお題目で紹介したように、オーストラリアでのシラーズ種の別名はハーミテイジで、フランス語ではエルミタージュ。また19世紀頃のボルドーワインにはエルミタージュがブレンドされていたこと(エルミタゼ)が知られており、実際にシャトー・ラフィット・ロートシルトやシャトー・マルゴーにもブレンドされていました。これらの事象はいかにエルミタージュというワインが銘酒としての地位を保っているかという事、そして長い歴史を持ったワインである事を証明しているように思えます。 近年、北部ローヌの中でも、世界の時流にならうように新樽を用い、高い品質と評価を得ている造り手が存在します。E.ギガルはコート・ロティにおいて「ラ・ムーリンヌ」「ラ・ランドンヌ」「ラ・トゥルク」というワインを産み出し、揺るぎない名声を獲得し、またM.シャプティエは、エルミタージュにて「ル・パヴィヨン」「レルミット」「ル・メアル」など一連のプレスティージュをリリースし、フランスでも指折りの銘酒の仲間入りをしています。 当然の事ながら北部ローヌにおいて、ギガルやシャプティエのワインはファン垂涎の逸品でありますが、ある意味「卓異」とも言え、多くの生産者はこの地での伝統的な古樽を使用しクラシックなスタイルを守っています。これは新樽が畑のテロワールを覆い隠すという理由からで(言わずもがなその建前にアグラをかく生産者も居ることでしょう)、上記のポール・ジャブレやジャン・ルイ・シャーヴ等は「伝統」の味わい、ブドウの育つテロワールを表現したワインを生産していると言えるでしょう。 アルプスからの冷たい風、照り付ける太陽、あまりにも急な傾斜地、限定された栽培地。この特異な環境こそが北部ローヌの特等席。長い歴史を持つローヌのワイン。知らず知らずのうちに「卓異」なワインには憧れを抱き、そして「伝統」のワインには敬意の念を感じていたのは私だけでしょうか? |
![]() |
||
今月のお題目 目次 | ||
今月のお題目 前回 | 今月のお題目 次回 |