燦々とふりそそぐ太陽、豊かな自然、昨年はオリンピックの開催国として話題を集めたオーストラリア。ワインの歴史は約200年と浅いものの、そのコスト・パフォーマンスの高さ、毎年がビッグ・ヴィンテージと言えるほどの安定した品質。全世界のたった3%という生産量ながら、ワイン愛好家には親しまれている国。 前編ではそんなオーストラリアワインの概要と、主だった特徴を説明したいと思います。 |
オーストラリアのブドウ栽培の歴史は、1788年この国に入植した英国のフィリップ・アーサー大佐が、シドニーのファームコープにブドウの樹を植えたのが始まりとされています。 アメリカ合衆国とほぼ同じ面積の国土を持つオーストラリアは、南半球の熱帯から温帯にまたがる大陸のうち、北側の2/3、暑くて砂漠のような環境ではワイン用ブドウは栽培できません。南緯30度以南の、年間雨量が600mmと少なく、平均気温が14℃という条件のもとで、ブドウ栽培が行われています。 |
この国でのワイン需要は、日本やアメリカと同じく甘口からはじまったようです。19世紀から酒精強化ワイン(ポートなど)の生産がさかんで、19世紀末期に甘口デザートワインを中心にイギリス本国への輸出を始め、ワイン産業が急速に発展しました。20世紀半ばには、酒精強化ワインの生産量が全体の9割を占めるまでになりましたが、近年では1割を切り、辛口のスティルワインが主流となっています。 歴史の新しい産地であるだけに、伝統あるヨーロッパのワインを意識しながら、最先端の醸造テクニックを持つカリフォルニアを見習い、栽培・醸造方法と積極的に新技術を導入するワイナリーが増加しています。出来上がるワインは、果実味の豊かな親しみやすいワインとなってます。 オーストラリアもカリフォルニアやチリといった国々と同じく「ヴァラエタルワイン」が主流で、使用しているブドウ品種がラベルに表示されています。以下、オーストラリアワインの種類です。
Aヴァラエタル・ワイン Bヴァラエタル・ブレンドワイン |
また各州の代表的なワイナリー、そして高い評価を受けるワイナリーを記しておきます。 ( )内はワイナリーの主な銘柄です。 ■南オーストラリア州■
■ニュー・サウス・ウェールズ州■ ・ Rosemount Estate (Shiraz/Cabernet, Chardonnay) ■ヴィクトリア州■ ・ Chateau Tahbilk (Chardonnay, Cabernet Sauvignon, Shiraz) ■西オーストラリア州■ ・ Moss Wood (Cabernet Sauvignon【写真】, Chardonnay) ■タスマニア州■ ・ Pipers Brook Vinyard (Pellion Pinot Noir【写真】) |
上記、各ワイナリーの代表的な銘柄を見ても、この国でカベルネ・ソーヴィニオン、シャルドネという品種は大成功を収めています。1970年代にカベルネ・ソーヴィニオン、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールなどの国際品種の栽培面積が増加し、1990年に入るとグルナッシュ、ムルヴェードル(現地ではマタロと呼ばれます)等の品種にもチャレンジするワイナリーが出てきました。 しかしながら、オーストラリアにおける伝統的な品種というと、シラーズ、リースリング、セミヨンであり、今日でもこれらの品種は、中心的な存在となっています。 この中でも特筆すべき品種が シラーズ (Shiraz) であり、黒ブドウ最大の栽培面積(約36%)を占めています。 |
[白ブドウ] | 収穫高(t) | [黒ブドウ] | 収穫高(t) | |
シャルドネ | 147,000 | シラーズ | 147,000 | |
セミヨン | 57,500 | カベルネ・ソーヴィニオン | 98,800 | |
リースリング | 33,200 | ピノ・ノワール | 19,200 | |
ソーヴィニヨン・ブラン | 18,800 | メルロー | 12,700 |
シラーズとは、フランスのコート・デュ・ローヌ地方のシラー(Syrah)に対するオーストラリアと南アフリカ特有の呼び方。この品種は、色の深い濃密で長命なワインを生み出します。果皮に色素がたっぷりと含まれ、病害に強く収量が多め、そして暑い地域にも適した順応性がある事から、世界中で栽培されています。シラーはカリフォルニアでも「ローヌ・レインジャー」達が熱心に栽培し流行の兆しを見せており(Cal-Rhoneと呼ばれる)、他にスイス(ヴァレー州が有名)、南アフリカ、チリやアルゼンチンでもシラー種のワインが生産されています。
フランス、ローヌ地方のシラーは、フレンチオークの古い樽で熟成させるのが一般的であるのに対し、オーストラリアでは多くがアメリカンオークを使用します。またこの品種は、きつい剪定(収量制限)がワインの品質と密につながっており、同国の新進気鋭のワインメーカー達は、このシラーズにて低収量を実践し、アメリカンオークを用い、果実味溢れるボリュームに富んだワインを生産、高い評価を勝ち得ています。 |
ワインの世界においては新興国であるオーストラリア。そのブドウ栽培面積約9万haはボルドーの8割でしかなく、総生産量約62万klはカリフォルニアのガロ・ワイナリー1社にも及ばないという国土の広さから考えれば意外な数字。しかし、この10年間において世界各国へ輸出されるオーストラリアワインは約4倍の伸びを見せ、今なお新しく植付けられるブドウ畑が増えています。 オーストラリアワイン業界が打ち立てた30ヶ年計画:ストラテジィ2025には、このように記されています。
それをよく表している事象としてオーストラリアの「マルチ・リージョナル・ブレンド」が挙げられます。ヨーロッパのような原産地呼称にとらわれない彼等は、異なる複数の地域からブドウを用い、それらをブレンドする事により、ワインの品質とスタイルを守り、市場への安定供給を可能にしているわけですが、これがオーストラリアワインの大きな特徴の一つでもあります。 「毎年のワインの品質、ワイナリーのスタイル維持」という側面から見ると、どこかフランスのシャンパーニュ地方(注1)に共通する部分が見えてきますが、近年、数々のオーストラリアのワイナリーがシャンパン・メーカーの傘下に入っている事(注2)、それぞれが海外市場を大いに意識している事(ブランドの形成)等を考えると、あながち無関係とは言えないのかもしれません。 また、こうしたブランドワインとは逆に、産地の個性(リージョナリティ)を追求し少量生産、高品質を目指すブティック・ワイナリーが増加しているのも事実で、西オーストラリアのマーガレット・リヴァーやヴィクトリア州のヤラ・ヴァレーは目の離せない産地となっています。しかし現在、名のあるワイン生産者の中には、更なる高品質を可能にするため、大手にワイナリーを売却し膨大な投資を引き出し、個人はワインメーカーとして会社に残るという例が見られます(注2)。 自由な国オーストラリアは、今まさに揺れ動いているように思えます。2025年には素晴らしい成果をあげ、その国土に匹敵するようなワイン大国になっているかもしれません。 (注1 : ノン・ヴィンテージ・シャンパンについては、「2000年8月のお題目」を参照して下さい。) |
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