March,2001

今月の御題目

自由な国オーストラリア(前編)
オーストラリアワインの特徴

 燦々とふりそそぐ太陽、豊かな自然、昨年はオリンピックの開催国として話題を集めたオーストラリア。ワインの歴史は約200年と浅いものの、そのコスト・パフォーマンスの高さ、毎年がビッグ・ヴィンテージと言えるほどの安定した品質。全世界のたった3%という生産量ながら、ワイン愛好家には親しまれている国。
 前編ではそんなオーストラリアワインの概要と、主だった特徴を説明したいと思います。


オーストラリア

 オーストラリアのブドウ栽培の歴史は、1788年この国に入植した英国のフィリップ・アーサー大佐が、シドニーのファームコープにブドウの樹を植えたのが始まりとされています。

 アメリカ合衆国とほぼ同じ面積の国土を持つオーストラリアは、南半球の熱帯から温帯にまたがる大陸のうち、北側の2/3、暑くて砂漠のような環境ではワイン用ブドウは栽培できません。南緯30度以南の、年間雨量が600mmと少なく、平均気温が14℃という条件のもとで、ブドウ栽培が行われています。

オーストラリアワインの種類

 この国でのワイン需要は、日本やアメリカと同じく甘口からはじまったようです。19世紀から酒精強化ワイン(ポートなど)の生産がさかんで、19世紀末期に甘口デザートワインを中心にイギリス本国への輸出を始め、ワイン産業が急速に発展しました。20世紀半ばには、酒精強化ワインの生産量が全体の9割を占めるまでになりましたが、近年では1割を切り、辛口のスティルワインが主流となっています。

 歴史の新しい産地であるだけに、伝統あるヨーロッパのワインを意識しながら、最先端の醸造テクニックを持つカリフォルニアを見習い、栽培・醸造方法と積極的に新技術を導入するワイナリーが増加しています。出来上がるワインは、果実味の豊かな親しみやすいワインとなってます。

 オーストラリアもカリフォルニアやチリといった国々と同じく「ヴァラエタルワイン」が主流で、使用しているブドウ品種がラベルに表示されています。以下、オーストラリアワインの種類です。

@ジェネリック・ワイン
モーゼル、バーガンディ等、ヨーロッパのワイン産地の名前をつけたもの。しかし原料となるブドウ品種はこだわらない。(1992年のEUとの合意により段階的に廃止の方向)

Aヴァラエタル・ワイン
使用しているブドウ品種がラベルに表示されている。使用するブドウ品種は85%以上。さらに産地名が特定されている場合は、85%以上がその地域産のもの。収穫年が表示される場合も85%以上がその年のもの。

Bヴァラエタル・ブレンドワイン
上質ブドウ品種のブレンドワイン。使用ブドウ品種がラベルに併記され、使用比率の多い順にラベル表示される。(写真はペンフォールズ社のカベルネ/シラーズ。最初に表記されるカベルネの比率が高いことを示しています。)


オーストラリアのワイン産地

 オーストラリアの主なブドウ栽培地域は、シドニー、メルボルン、アデレードの周辺、国土の南東部にあります。現在では南オーストラリア州、ヴィクトリア州、ニュー・サウス・ウェールズ州の3つの州で全生産量の約95%が産出されています。そして生産量は少なくとも西オーストラリア州、タスマニア州といった産地も注目を集めています。以下、各州の特徴と主な地区をまとめます。

 また各州の代表的なワイナリー、そして高い評価を受けるワイナリーを記しておきます。 ( )内はワイナリーの主な銘柄です。

■南オーストラリア州■
オーストラリア最大のワイン生産地帯。オーストラリア全生産量の約半数を占め、高品質なワインに適した条件に恵まれています。
なかでも同国、同州最大の生産量を誇る バロッサ・ヴァレー : Barossa Valley、冷涼な気候と”テラ・ロッサ”と呼ばれる特殊な赤土の土壌を持つ クナワラ : Coonawarra、暖かい地域ながら海からの涼しい風の影響を受ける マクラーレン・ヴェール : McLaren Vale など。

・ Penfords (Grange, Cabernet Sauvignon Bin 707【写真】)
・ Clarendon Hills (Astralis, Shiraz, Merlot)
・ Henschke (Hill of Grace, Shiraz, Cabernet Sauvignon)
・ D'Arenberg (The Dead-Arm Shiraz, The Noble Riesling)
・ Noon (Eclipse, Shiraz Reserve)
・ Three Rivers (Shiraz)
・ Torbreck (Run Rig)
・ Lindemans (Limestone Rigde, Pyrus, St.George)
・ Peter Lehmann (Stonewell Shiraz, Cabernet Sauvignon)
・ Grosset (Polish Hill Riesling, Piccadilly Chardonnay, Gaia)
・ Fox Creek (Shiraz Reserve, Cabernet Sauvignon Reserve)
・ Greenock Creek (Shiraz, Cabernet Sauvignon)
・ Petalma (Cabernet Sauvignon, Chardonnay, Riesling, Closer)
・ Wolfblass (Cabernet Sauvignon Black Label)
・ Mountadam (Chardonnay, Pinot Noir)

■ニュー・サウス・ウェールズ州■
オーストラリア・ワイン発祥の地。オーストラリアのワイン産業はシドニー周辺からはじまり、ワイン生産の先駆者ブラックスタンドと並び、マッカーサー・ファミリーの栽培の名残が残る土地。この州の生産量はオーストラリアの約23%。
ここの地区では アッパー・ハンター・ヴァレー : Upper Hunter Valley 及び ローワー・ハンター・ヴァレー : Lower Hunter Valley が有名。古いブドウ園が多く、主にシラーズとセミヨンを栽培。70年代からはカベルネ・ソーヴィニオン、ピノ・ノワール、そしてシャルドネも増えています。

・ Rosemount Estate (Shiraz/Cabernet, Chardonnay)
・ Mount Pleasant (Semillon, Shiraz)
・ Tyrrell's Wines (Semillon, Shiraz)
・ De Bortoli (Noble One【写真】, Cabernet Sauvignon)
・ Thistle Hill (Pinot Noir, Cabernet Sauvignon)

■ヴィクトリア州■
19世紀末のフィロキセラに襲われるまでは、同国最大の生産量を誇っていたヴィクトリア州。一時は壊滅状態だったようですが、1980年以降ブドウ園が再建され、生産量はオーストラリア全体の約24%までになっています。
気候により4つの地域に分けられます(北西部と中央北部、北東部、セントラル・ヴィクトリア、南部)。個人的に ヤラ・ヴァレー : Yarra Valley のピノ・ノワールやシャルドネに注目したい。

・ Chateau Tahbilk (Chardonnay, Cabernet Sauvignon, Shiraz)
・ Yarra Yering (Pinot Noir【写真】, Dry Red #1, Dry Red #2)
・ Yarra Ridge (Pinot Noir, Chardonnay)
・ Brown Brothers (Cabernet Sauvignon, Muscat)
・ Bass Phillip (Pinot Noir)
・ Coldstream Hills (Pinot Noir, Chardonnay)

■西オーストラリア州■
オーストラリア大陸1/3の大きさを持つ最大の州ながら、その生産量は約2%と少量。ブティックワイナリーによりワイン生産が占められていたため、大量供給の生産地とはならず、高品質なワインが生み出される州。州南西部の冷涼な気候を持つパース周辺でブドウ栽培が行われる。
意外にもヴィクトリア州や南オーストラリア州よりも古いワインの歴史を持つ スワン・ヴァレー : Swan Valley と、プレミアム・ワインで名高い マーガレット・リヴァー : Margaret River は要チェック。

・ Moss Wood (Cabernet Sauvignon【写真】, Chardonnay)
・ Leeuwin Estate (Chardonnay Artists Series)
・ Salitage (Chardonnay)
・ Cape Mentelle (Cabernet Sauvignon)
・ Howard Park (Cabernet Sauvignon, Riesling)
・ Piero (Chardonnay)

■タスマニア州■
ヴィクトリア州とバッス海峡を挟んだ海上に浮かぶ島がタスマニア。今もってわずか480haしか栽培面積を持たないものの、同国では最南にあり最も冷涼な気候を持つタスマニアはこれからが期待されています。
産地はノーザン・タスマニア、サウス・タスマニアに分けられます。

・ Pipers Brook Vinyard (Pellion Pinot Noir【写真】)


オーストラリアのブドウ品種 : シラーズ

 上記、各ワイナリーの代表的な銘柄を見ても、この国でカベルネ・ソーヴィニオン、シャルドネという品種は大成功を収めています。1970年代にカベルネ・ソーヴィニオン、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールなどの国際品種の栽培面積が増加し、1990年に入るとグルナッシュ、ムルヴェードル(現地ではマタロと呼ばれます)等の品種にもチャレンジするワイナリーが出てきました。

 しかしながら、オーストラリアにおける伝統的な品種というと、シラーズ、リースリング、セミヨンであり、今日でもこれらの品種は、中心的な存在となっています。 この中でも特筆すべき品種が シラーズ (Shiraz) であり、黒ブドウ最大の栽培面積(約36%)を占めています。

[白ブドウ] 収穫高(t) [黒ブドウ] 収穫高(t)
シャルドネ 147,000 シラーズ 147,000
セミヨン 57,500 カベルネ・ソーヴィニオン 98,800
リースリング 33,200 ピノ・ノワール 19,200
ソーヴィニヨン・ブラン 18,800 メルロー 12,700

 シラーズとは、フランスのコート・デュ・ローヌ地方のシラー(Syrah)に対するオーストラリアと南アフリカ特有の呼び方。この品種は、色の深い濃密で長命なワインを生み出します。果皮に色素がたっぷりと含まれ、病害に強く収量が多め、そして暑い地域にも適した順応性がある事から、世界中で栽培されています。シラーはカリフォルニアでも「ローヌ・レインジャー」達が熱心に栽培し流行の兆しを見せており(Cal-Rhoneと呼ばれる)、他にスイス(ヴァレー州が有名)、南アフリカ、チリやアルゼンチンでもシラー種のワインが生産されています。

 冒頭に記したように、オーストラリアのワイン造りは1788年が起源とされていますが、本格的な発展は1832年にスコットランド出身のジェームス・バスビィがフランスとスペインで栽培されていたブドウの苗木を大量に持ち帰ってからのこと。この時に持ち込んだとされるシラーズは「1世紀以上に渡り赤ワイン生産の背骨の役割を果たしてきた」とされ、今ではその栽培面積25000haはローヌのシラーの5倍にもなっています。

 フランス、ローヌ地方のシラーは、フレンチオークの古い樽で熟成させるのが一般的であるのに対し、オーストラリアでは多くがアメリカンオークを使用します。またこの品種は、きつい剪定(収量制限)がワインの品質と密につながっており、同国の新進気鋭のワインメーカー達は、このシラーズにて低収量を実践し、アメリカンオークを用い、果実味溢れるボリュームに富んだワインを生産、高い評価を勝ち得ています。
(写真はこれからの注目株、フォックス・クリーク)


マルチ・リージョナル・ブレンド

 ワインの世界においては新興国であるオーストラリア。そのブドウ栽培面積約9万haはボルドーの8割でしかなく、総生産量約62万klはカリフォルニアのガロ・ワイナリー1社にも及ばないという国土の広さから考えれば意外な数字。しかし、この10年間において世界各国へ輸出されるオーストラリアワインは約4倍の伸びを見せ、今なお新しく植付けられるブドウ畑が増えています。

 オーストラリアワイン業界が打ち立てた30ヶ年計画:ストラテジィ2025には、このように記されています。
「西暦2025年、オーストラリアワイン産業は世界で最も影響力と収益性のあるブランドワインの供給国として年間販売額45億豪ドルを達成し、万人に好まれる、生活に根付いた飲み物としてのワインのパイオニアとなる」
 世界全体のワイン生産量の3%であるオーストラリアですが、2025年までにそれを6%に増やす事が目標だと言います。

 この国では、大手10社のワイナリーが総生産量の84%までも占めており、残りの16%を約1000軒のワイナリーが生産しています。近年の合併吸収を繰り返し、今では4つの大グループ(オーランド・ウンダム、サウスコープ等)が複数のメジャーブランドを抱え、この地のワイン産業を支配しています。こういった大企業が輸出に力を入れるのは当然で、それらのワイナリーは、高品質なワインである事と同様に「安定した品質」のワイン生産を重視しています。
(写真は世界で最も売れているオーストラリアワイン、ジェイコブス・クリーク。)

 それをよく表している事象としてオーストラリアの「マルチ・リージョナル・ブレンド」が挙げられます。ヨーロッパのような原産地呼称にとらわれない彼等は、異なる複数の地域からブドウを用い、それらをブレンドする事により、ワインの品質とスタイルを守り、市場への安定供給を可能にしているわけですが、これがオーストラリアワインの大きな特徴の一つでもあります。

 「毎年のワインの品質、ワイナリーのスタイル維持」という側面から見ると、どこかフランスのシャンパーニュ地方注1に共通する部分が見えてきますが、近年、数々のオーストラリアのワイナリーがシャンパン・メーカーの傘下に入っている事注2、それぞれが海外市場を大いに意識している事(ブランドの形成)等を考えると、あながち無関係とは言えないのかもしれません。

 また、こうしたブランドワインとは逆に、産地の個性(リージョナリティ)を追求し少量生産、高品質を目指すブティック・ワイナリーが増加しているのも事実で、西オーストラリアのマーガレット・リヴァーやヴィクトリア州のヤラ・ヴァレーは目の離せない産地となっています。しかし現在、名のあるワイン生産者の中には、更なる高品質を可能にするため、大手にワイナリーを売却し膨大な投資を引き出し、個人はワインメーカーとして会社に残るという例が見られます注2

 自由な国オーストラリアは、今まさに揺れ動いているように思えます。2025年には素晴らしい成果をあげ、その国土に匹敵するようなワイン大国になっているかもしれません。

注1 : ノン・ヴィンテージ・シャンパンについては、「2000年8月のお題目」を参照して下さい。)
注2 : デヴィッド・ホーネン氏率いる西オーストラリアのケープマンテルは1990年、ヴーヴクリコ[LVMH]の傘下に。また2000年末、アダム・ウィン氏のマウントアダムにケープマンテルが資本参加し、LVMHグループとなりました。そして写真のコールドストリーム・ヒルズのジェームス・ハリディ氏も1996年、ワイナリーをサウスコープ社に売却しています。それぞれの元オーナーは、今でもワイナリーの運営を任されているという事。)
関連 : オーストラリアの吸収合併として、米国の大手ワイナリー、ベリンジャー社がオーストラリアのフォスターズ社に買収されたことは記憶に新しい。フォスターズ社はビール醸造メーカー。ワイン醸造子会社ミルダラ・ブラスを有する。「Beringer Blass Wines Estates」のHP

後編ではオーストラリアの偉大なるワイン
ペンフォールズ社のグランジを中心にレポートしています。


今月の味わいのあるワイン2000年3月
今月の味わいのあるワイン2000年3月(2)
ではオーストラリアワインを特集しています。

参考文献
ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート 教本
ヴィノテーク
ワインの自由
世界一ブリリアントなワイン講座
ワイン王国

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