新年明けましておめでとうございます。皆様、新しき21世紀の始まり、お健やかにお過ごしのことと思います。本年も何卒よろしくお願い致します。
真の「世紀のワイン」は、専門家の方々にお任せするとして、今回は20世紀、ワインの世界で最も重要な品種としてクローズアップされた「カベルネ・ソーヴィニオン」について。今では世界各国で栽培され、特筆すべきワインがこのブドウ品種より造られています。赤ワインの代表品種、カベルネ・ソーヴィニオンの「21世紀」を考えてみたいと思います。 《今回はカベルネ・ソーヴィニオン主体のワインについてですので「ボルドー」とは「メドック」や「グラーブ」のワインとお考え下さい。》 |
「カベルネ・ソーヴィニオン」世界一広く名の知られた赤ワイン用ブドウ品種。この品種からなるワインの特徴として、多くの著書に記されるように「カシス(クロスグリ)」「シダー(西洋杉)」と言った香りがみられ、樽熟成を施した場合「ヴァニラ」を身にまとい、若いワインは「青ピーマン」、そして熟成されたものには「トリュフ」「シャンピニオン」といったブーケが感じられます。 その原産地については諸説あるものの未だ解明されていないようですが、フランスのボルドー地方がその伝統的な栽培地である事は確か。ただそのボルドーでさえ、18世紀末この地方に偉大なブドウ畑が開拓されるまでは、重要な品種ではなく、カベルネ・フラン、カルメネール(今ではボルドーから姿を消しチリに残っている)、マルベック(アルゼンチンの代表品種)らが多く植えられていました。
こうして、メドック及びグラーヴでは多くの畑が改植され、現在「ボルドー・ブレンド」と称されるカベルネ・ソーヴィニオン主体(メルロー、カベルネ・フラン等を補助品種として用いる)のワインが産出されるようになりました。 |
格付け | シャトー名 | A O C | CS | Me | CF | PV |
メドック第1級 | Ch. Lafite-Rothschild | Pauillac | 70 | 25 | 2 | 3 |
メドック第1級 | Ch. Margaux | Margaux | 75 | 20 | 2 | 3 |
メドック第1級 | Ch. Latour | Pauillac | 80 | 15 | 4 | 1 |
メドック第1級 | Ch. Mouton-Rothschild | Pauillac | 76 | 13 | 9 | 2 |
メドック第2級 | Ch. Leoville-Las Cases | Pauillac | 65 | 19 | 13 | 3 |
メドック第2級 | Ch. Gruaud-Larose | Saint-Julien | 65 | 20 | 10 | 5 |
メドック第2級 | Ch. Pichon-Longueville Comtesse de Lalande | Pauillac | 75 | 25 | - | - |
メドック第2級 | Ch. Ducru-Beaucaillou | Saint-Julien | 65 | 25 | 5 | 5 |
メドック第2級 | Ch. Cos-d'Estournel | Saint-Estephe | 60 | 38 | - | 2 |
メドック第3級 | Ch. Lagrange | Saint-Julien | 65 | 28 | - | 7 |
メドック第3級 | Ch. Palmer | Margaux | 55 | 40 | 5 | - |
メドック第3級 | Ch. Calon-Segur | Saint-Estephe | 65 | 20 | 15 | - |
メドック第4級 | Ch. Talbot | Saint-Julien | 66 | 26 | 3 | 5 |
メドック第4級 | Ch. Beychevelle | Saint-Julien | 62 | 28 | 8 | 3 |
メドック第5級 | Ch. Lynch-Bages | Pauillac | 75 | 15 | 10 | - |
メドック第5級 | Ch. Cantemerle | Haut-Medoc | 40 | 40 | 10 | 10 |
メドック第1級 グラーヴ特級 |
Ch. Haut-Brion | Graves | 45 | 37 | 18 | - |
グラーヴ特級 | Ch. La Mission Haut Brion | Graves | 50 | 40 | 10 | - |
グラーヴ特級 | Ch. Pape Clement | Graves | 60 | 40 | - | - |
CS=カベルネ・ソーヴィニオン、Me=メルロー、CF=カベルネ・フラン、PV=プティ・ヴェルド |
現在、様々な研究や技術革新により若くても美味しいカベルネ・ソーヴィニオンのワインが造られていますが、前述の要素からも、元来この品種は長期熟成に適しています。若いカベルネ・ソーヴィニオンに見受けられる「青ピーマン」「青草」「インク」といったニュアンスは、ブドウが完熟レベルに達しないヴィンテージには顕著に現われますし、どちらかと言うと晩熟なカベルネ・ソーヴィニオンは、天候にも左右されやすい為、ボルドーの生産者達は、メルローやカベルネ・フランといった早熟な品種と混植し、各ヴィンテージごと、ブドウの出来によりブレンド比率を変えています。上記の表もブドウ樹の作付け面積比率であって、各年のワインの比率ではありません。(注1)
また、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニオンが、ほとんど他の補助品種と混醸される理由には、お互いの特性を補完し複雑味を増す意味合いがあり、ボルドーの伝統でもあります。カベルネ・ソーヴィニオンだけで造られたワインは「固い表情」だったり「奥行きに欠ける」という難点を持っており、そのためメルロー等とのブレンドが有益だといわれてきました。 しかしながら、ボルドーに比べカベルネ・ソーヴィニオンの比率が高い新世界のヴァラエタル・ワインやメリタージュ(注2)の中に、秀逸な品質のものが多数見られる事を考えると、この品種の好適地は、ボルドー以外にも多く存在する気がしてなりません。 (注1 : ボルドーの特異な例としては、1984年があります。メルローの開花時に雨の多かったこの年、シャトー・ムートン・ロートシルトは、ほぼカベルネ・ソーヴィニオン100%でワインを生産しています。関連記事-2000年10月のお題目"ワインのヴィンテージ(前編)") (注2 : ヴァラエタル・ワインやメリタージュについては1999年6月のお題目"カリフォルニアワイン"をご覧下さい。新世界のヴァラエタル・ワインは、必ずしもラベルに表示されたブドウ品種を100%使用しているわけではなく、法律上、カリフォルニアやチリでは75%以上、オーストラリアでは85%以上となっています。ちなみにメドック格付けシャトーの中で最もカベルネ・ソーヴィニオンの比率が高いのはシャトー・ラトゥールで80%前後、カリフォルニアの代表的なメリタージュ、オーパス・ワンは90%前後。) |
カベルネ・ソーヴィニオンの顕著な特性に「順応性がある」という点が挙げられます。高貴品種でありながら、現在世界中に植えられ(ドイツ等の冷涼地を除き)、カリフォルニア、チリ、南アフリカ、オーストラリア等で素晴らしいワインが造られています。ある程度の酷暑にも耐え、どんな場所でもブドウの個性を発揮するカベルネ・ソーヴィニオンは、ワインの販売価格を高く設定できる事も手伝い、現在でも栽培面積を増やしています。 そして「カベルネ・ソーヴィニオン」の名が知れ渡り、市民権を得た要因として「ヴァラエタル・システム」の成功があります。これはヨーロッパのように「産地名」をつけるのではなく「品種名」をラベルに表示し、消費者に味わいのスタイルを容易に認識できるようにしたもの。1980年代に入り、このシステムは大いに効果を現し「Cabernet Sauvignon」「Chardonnay」と表示されたワインが消費者に受け入れられ、マーケットの世界では赤白の代表格となりました。
この結果は、カリフォルニアにおけるカベルネ・ソーヴィニオンの隆盛を見る上で、重要な歴史の1ページと言っても過言ではないでしょう。そして当地だけでなく、全世界のワイン生産者にも影響を与え、カベルネ・ソーヴィニオンの好適地を開拓するきっかけとなりました。 (注3 : この対決については、2000年4月のお題目"世界地図を塗り替えた「ワイン屋の息子」"で詳しく特集しています。) |
これらをふまえ、現時点でのワイン界を鑑みると、21世紀においてもカベルネ・ソーヴィニオンというブドウ品種が重要視される事は間違いなさそうです。
カリフォルニアのワインは若くしても美味しいと言われますが、まだワイン生産国としては歴史が浅いため、カベルネ・ソーヴィニオンの特性でもある「熟成による味わいの変化」をなかなか体験できません。熟成したワインを飲める機会が少ない事は残念です。 21世紀、素晴らしい"Cab"の熟成した姿を待ち望むと共に、ボルドー、そして世界のカベルネ・ソーヴィニオン、それぞれの個性を楽しめる時代が来ると確信しています。最後にこの輝ける"Cab"の基を築いた先人のワインを紹介し、21世紀への橋渡しとしたいと思います。 |
ボーリュー・ヴィンヤード。1900年にフランスのジョルジュ・ド・ラトゥールによって興された伝統的なワイナリー。カリフォルニアにおけるカベルネ・ソーヴィニオンの実力を世界に知らしめたワイナリーであると同時に、1938年から1973年までこのワイナリーで高品質なカリフォルニアワインの基礎を築き、品質、地位を向上させたアンドレ・チャレチェフの存在。そう、この1965年はアンドレ氏が手掛けた時代のボーリューなのです。 未だしっかりと保たれた色ながら、やや白濁し透明感には乏しい。35年を経たワイン、もし強さを求めるならば不満足かもしれません。ただこのワインの個性は古酒の甘酸っぱいブーケと、馴染みのある佃煮のようなアミノ酸の味わいに表現されていると思います。繊細ながら十分な表現力を持つワイン。一言でいうなら「60年代や70年代のボルドー、オフ・ヴィンテージ」のよう。 ワインの醸造テクニックでは完全にボルドーを凌駕したとされるカリフォルニアの技術。しかしながら、その基にはこういった先駆者の努力があったことを思い起こされる素晴らしいワインでした。 |
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