TPPによる世界経済の活性化を      

  平成27年11月20日

歴史的な成果だ。日本を含む12ヵ国による環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、大筋合意に達した。 12ヵ国の経済規模は世界の4割弱を占める。世界最大の自由貿易圏をつくる道筋ができた。日本をはじめ各国はこれにあわせて国内の構造改革を進め、経済の活性化につなげるべきだ。5年半に及んだ交渉は、先月30日から開いた閣僚会合で実質的に妥結した。交渉が年単位で漂流するおそれもあっただけに、各国が歩み寄った意義は大きい。
 最後まで難航したのは、医薬品のデータ保護期間の扱いだ。製薬企業を抱える米国が12年を主張したのに対し、オーストラリアは5年をもとめていた。結論として8年で折り合った。ニュージーランドが求めていた乳製品の市場開放については、日米などが受け入れた。自動車の関税撤廃ルールでは、一定の割合の部品をTPP域内でつくれば関税撤廃の条件を満たすという「原産地規則」で、日本とメキシコなどが合意した。

通商協定は、各国が互譲の精神で目先の痛みを受け入れ、長い目でより大きな自由貿易の果実を得るようにするのが鉄則だ。今回の決着は全体として均衡のとれた内容といえるのではないか。TPPの意義は、高い水準の貿易・投資のルールにある。物品の関税撤廃・削減だけでなく、投資、サービス、知的財産権などの範囲は多岐にわたる。環境、労働、国有企業といった分野も含む21世紀型の協定といえる。域内のヒト、カネ、モノ、サービスが自由に行き来しやすくなることで、域内の国内総生産(GDP)を0.9%分、日本のGDPを2%分押し上げる効果があるとの試算もある。

日本企業の利点は大きい。例えば日本からエンジンをマレーシアに輸出し、そこで組み立てた最終製品を米国に輸出する。そんな柔軟な供給網を構築しやすくなる。

サービス業でも日本のコンビニエンスストアがマレーシアやベトナムに進出しやすくなる。日本企業は攻めの経営でさらなるグローバル戦略に打って出るときだ。

農産品の分野では、日本は米国産とオーストラリア産のコメの輸入枠を設けるほか、牛肉や豚肉の関税率を大幅に引き下げる。日本の消費者にとっては、関税の削減・撤廃により外国産の農産品を今より安くに入れ安くなる。一方で米国も和牛などにかかる関税を将来撤廃するため、日本からの輸入増加も期待できる。

今後の焦点は国内の農業対策に移る。TPP締結で国内の農林水産物の生産額は3兆円程度減少する、と日本政府は試算している。市場開放の影響を緩和するための一定の対策は必要だ。

しかし、1994年にまとめた関税及び貿易に関する一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド対策では事業費ベースで6兆円超を投じたものの、大半は農業土木に費やされ、農業の体質強化につながらなかったとの指摘は多い。安易なバラマキは慎み、コメの生産調整(減反)廃止や、農協改革との相乗効果で農業の生産性を高める対策にお金を重点配分すべきだ。歴史上、TPPは93年に妥結したウルグアイ・ラウンド以来の大きな通称協定となる。

欧州連合(EU)は米国との間で環大西洋貿易投資協定(TTIP)を交渉している一方で、日本とは経済連携協定(EPA)交渉を始めている。日本はTPP合意をテコに、EUとの交渉妥結を急ぐべきだ。さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加21ヵ国・地域が自由貿易圏をつくる構想がある。TPPはその一里塚だ。TPP、日中インドを含む16ヵ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP),日中韓自由貿易協定(FTA)のすべての交渉に参加しているのは日本だけだ。この地域の自由貿易圏づくりを主導してほしい。中国をはじめとする新興国経済が減速し、世界経済の下振れリスクが強まっている。そんな時こそ保護主義に対抗し、自由貿易を通して世界経済を下支えしようとする努力がきわめて重要になる。

大事なのはTPPを経済の変革につなげることだ。企業は競争を通じ収益力を磨き、個人も海外のサービスや人材と触れあい研さんを積む。そんな努力を重ねれば、アジア太平洋地域が世界経済のけん引役であり続けるだろう。

 「保護一辺倒だったこれまでの農政を変えなければいけない」。TPP交渉に関わってきた政府関係者は、今回の大筋合意をきっかけに日本農業は体質強化を迫られると指摘する。日本の交渉参加が認められた2013年4月、国会はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖を「重要5項目」と位置づけ、関税を維持するよう決議した。これらの関税「撤廃」は免れたものの、大幅な引き下げや低関税での輸入枠拡大を受け入れた。甘利明TPP担当相は「我々は国会議決を常に念頭に交渉をしてきた」と説明したが、安価な輸入農産品が増えるのは確実。農業関係者の不安は強く、政府への批判も高まりそうだ。

 このため政府・与党はただちに国内対策に着手する。ただ、かつての関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドの際も、農業関連対策に約6兆円を投じながら、ほとんどが公共事業に回って農業の強化には直結しなかった。

 政府は現在、水田を中心とする農地集約や農産物の生産だけでなく加工・販売まで手がける「6次産業化」、輸出促進などを軸とした農業の成長産業化を進めている。経営の規模拡大や企業参入、農産物のブランド化や、海外市場の開拓などがポイントだ。

 ただこれからはかねて指摘された課題。改革ペースが遅いのは、農地を借りる側に比べて貸す側の権利が手厚く守られていたり、企業参入のハードルが高かったりするためだ。農業の足腰を強くする役割を担うJAグループは、人数で圧倒的に多い兼業農家などの立場に理解を示して保護主義的な政策に傾斜する一方、担い手となるべき大規模農家を十分に支援してきたとは言い難い。与党も、集票力を持つJAグループの意向を重く見てきた。

 日本農業は、稲作を中心に減反や高関税で価格を安定させる政策を続けた結果、生産性の低い農業を保護できても、競争力のある農家を育てられなかった。「これまでではじり貧。TPPをきっかけに海外展開など攻めの姿勢に転じなければいけない」(新潟県の稲作農家)との声が上がっている。 TPP合意を見据え、政府は全国農業協同組合中央会(JA全中)の弱体化などの農協改革に踏み切った。しかし、TPP合意が当初目指した7月末よりも大幅に遅れたことで、来夏の参院選挙直前まで国会でTPPの議論が取り上げられる公算が大きい。選挙を意識して保護主義的な政策に回帰すれば、体質強化の機会を再び逸する可能性が大きい。