政府が描く新しい日本の農業
 政府は、15年3月、今後10年間の農政運営の指針となる「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。国際競争力が強い特産品を増やして積極的に輸出したり、生産規模の拡大や機械化の促進を進めたりすれば、13年度に4.1兆円だった「農業・農村所得」を25年度には8兆円に増やせると試算している。
 また、食料自給率の目標を、カロリーベースは「2020年度までに50%」から「2025年度までに45%」に引き下げ、生産額ベースは70%から73%に引き上げた。野菜や肉類など高く売れる農畜産物を増やせばカロリーベースは下がるが、生産額ベースは上がる。
 国内生産を「量」から「質」に転換するのがねらいだ。TPPの大筋合意を受けて、最も影響を受けるとみられるコメなど「重要5品目」を中心にした対策も急ぐ方針だ。









「農協ピラミッド」の見直しへ
 農協は統合が進んで急速に数を減らしており、現在では約700となっている。これらの地域農協の上に位置するのが、都道府県単位の組織で、さらにその上に全国組織がある。
 農作物の集荷、販売などの「経済事業」を担う全国農業協同組合連合会(JA全農)、金融などの「信用事業」を担う農林中央金庫(農林中金)、保険などの「共済事業」を担う全国共済農業協同組合中央会(JA共済連)の3組織だ。
 そのさらに上にあって、ピラミッドの頂点の位置に立つのが全国農業協同組合中央会(JA全中)だ、農協の指導、監査などを担当するJAグループの司令塔だ。
 JA全中を頂点とした強固なピラミッドを崩そうというのが政府の狙いだ。農協法に基づく特別な組織であるJA全中を、19年に一般社団法人に移行させ、地域農協に対する指導、監査権を廃止する。
 JA全農を株式会社に転換できるようにすることや、地域農協に会計士による監査を義務付けることなども盛り込んだ改正農協法が15年8月、可決、成立した。
守りの農業から攻めの農業へ
  
日本の農業所得はこの20年間で半減した。農業人口も2015年2月時点で209万人と20年前に比べて半分に減った。就労者の平均年齢は66.3歳と、20年前より7歳上昇し、史上最高を更新している。
 所得や人口が減っているだけではない。1年以上作付してない「耕作放棄地」も増え続け、42.4万ヘクタールと富山県の面積に匹敵する規模に広がった。
 「ジリ貧」状態の日本農業の活性化をするためには、農業所得を増やし、やる気のある若者を育て、国際競争力をつけなければならない。「守りの農業」から「攻めの農業」への転換だ。
 日本農業の根底に横たわる古い構造そのものを大転換する必要がある。政府は、日本の農業の古い構造の象徴が減反制度であり、農協の組織だとして抜本改革に着手した。

「減反制度」を段階的に廃止へ
 政府は、日本の食の柱であり、農業にとって最も大切な作物であるコメを安定的に供給することに力を注いできた。コメが余って価格が急落したりしないようにするために、生産調整に協力した農家に交付金を支給してきた。これが、いわゆる減反制度だ。日本の農政を象徴する制度ともいわれてきた。
 減反政策によって、コメの価格の乱高下をある程度防ぐことができたとする声がある一方で、弊害も指摘されてきた。 
減反制度のために、国内のコメの価格が高止まりし、消費者が不利益をこうむっているだけでなく、農家の自由競争も阻害され、生産性が向上しない原因となっているという批判だ。
 このため政府は、減反制度の核になってきた交付金を段階的に廃止することを決めた。14年度はそれまでの半額にし、18年度までに廃止する。

  




農業改革の現状と重要課題
 「農政の大転換」が進んでいる。政府は、戦後の日本農業の柱となってきた制度と組織の両方を根底から見直すとともに、今後の農政の新たな指針となる基本計画を発表した。
 見直される制度は減反、組織は農業協同組合農協=JA)だ。減反の制度は事実上廃止し、農協の組織は解体的な再編を断行する。「古い農業」「守りの農業」との決別だ。
  一方、「新しい農業」「攻めの農業」の設計図として打ち出したのが「食料、農業、農村基本計画」だ。改革が成功すれば、戦後の農政が大きく変わることは間違いない。
 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が大筋合意し、海外から安い農産物が大量に入ってくるという農家の懸念が一段と深刻さを増してきた。農政の大転換が、日本農業の未来を開くことにつながるのか、期待と不安が集まっている。