TPP大筋合意
   

 米中対立の試練
 米国が内向きの政治に転じ、欧州は、ポピュリズムの横行と英独仏の混迷で求心力が低下した。世界の安定を支えてきた軸が消えつつあるようだ。こうした中で、最も警戒すべきなのは、米国と中国の派遣争いによる混乱である。「米国が直面する最大の脅威」「中国の経済的侵略」と米政権高官の対中認識は厳しい。超大国の座を脅かされた米国は、かつて「戦略的パートナー」と呼んだ中国への姿勢を一変させている。
 トランプ政権のみならず、野党民主党も同じ認識を共有する。世界1位と2位の経済大国の対立は、安全保障や通商、ハイテクなど多岐にわたり、相当長い間続くと覚悟すべきである。
 米国とソ連による冷戦の終結宣言から30年、「新たな冷戦」に怯え、身をすくめていても意味はない。米国の同盟国であり、中国と深い関係にある日本こそが、地域の安定と繁栄を維持する責務を粘り強く果たさねばならない。
 最優先の課題は、米国を軸とした他国協調の再生である。「米国第一主義」のトランプ大統領への不安は尽きない。貿易赤字縮小という目先の利益を外交や安全保障優先してきた。ツイッターの言動は予測できず、政権運営の稚掘さは目に余る。大統領選をめぐるロシアとの共謀疑惑などが深まれば、トランプ氏は窮地を脱しようと、一段と対外政策で強硬になりかねない。
 それでも、米国に代わりうる国はない。1国で世界の国内総生産(GDP)の四分の一、軍事費の3分の1を占める。米国を、国際的な秩序の維持に関与させることが、日本の国益につながる。
 日米首脳の対話は、対中認識するよう促す重要な場である。併せて、トランプ氏が通商問題と引き換えに、安保政策で中国に安易に譲歩しないよう認識すべきだ。閣僚が次々更迭されるトランプ政権の不安定さを考えれば、対外政策に関与しうる議会指導者や官僚、軍事部、経済人らとも幅広い人脈を築くことが大切である。

 憂慮するのは、米中がさらに高関税を課し合う事態だ。世界経済の失速を避けるには双方に自制を求めるしかない。日本は、各国首脳との会談や、先進7か国(G7)、6月に大阪で開かれる主要20か国・地域(G20)などの議論を主導すべきだ。孤立しがちな米国と各国の仲介も日本の仲介も日本の役割となろう。多国間協調を支える自由貿易の網を広げることは急務である。米国との貿易協議に取り組みつつ、米国が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)の拡大や、中国やインドなどアジア各国との自由貿易圏づくりを進めたい。
 中国による沖縄・尖閣諸島や南シナ海の現状変更を抑止するには日米同盟を地域の安定の基盤として機能させることが不可欠だ。
 自衛隊は、米軍との連携を強化し装備と能力の高度化を進めるべきだ。豪州や盗難アジア各国とも安保協力を深め、日米同盟を補完することが大事である。
 中国と向き合うには長期的な視点が欠かせない。1978年に改革・開放政策を掲げた中国は、自由で開かれた国になると期待された。だが、89年の天安門事件では民主化運動を弾圧し、厳しい国際制裁を科された。中国は日欧とは異なる富強の大国の方向にカジを切った。
 威圧外交を展開し、軍事力を著しく増強した。他国のハイテク技術窃取、不公正な経済慣行、国内の厳しい統制は加速している。この30年、中国共産党総書記は習近平氏(国家主席)ら3人だ。同じ期間に米大統領は5人で、日本の首相は延べ17人に達する。

 平均の在任期間は米国6年、日本2年未満に対し、中国は10年となる。習氏は2018年の憲法改正で国家主席の任期制限を撤廃し、終身の在任に道を開いた。
 日米両国とも頻繁に選挙があり、政権が代われば対中政策は揺れ動いた。中国は、圧倒的に有利な立場にある。批判されても小手先の対応でかわし、相手国政権の交代を待てばよいからだ。
世界最多の消費者と巨大な産業基盤を抱え、GDPは30年間で約30倍となった。今世紀半ばには、米国並みの国力の「社会主義現代化強国」を実現するという。
 とは言え、強い経済には陰りがみられる。成長率は徐々に低下してきた。企業債務は積み上がり、バブル崩壊の懸念が拭えない。巨大経済圏構想「一帯一路」には、アジア各国から、多額融資による過剰債務や中国の政治的影響力への警戒感が強まってきた。

 中国の強権的な拡張路線は、曲がり角に来ている。このままでは生きずまることを、日本は習氏ら指導部に指摘すべきだ。中国が対米関係の悪化で、対日外交に意欲を示す今は、日中が率直に話し合える機会である。中国と日米欧は相互に深く依存し、人、モノ、カネが活発に行き交う。東西両陣営に分かれていた冷戦期と異なる。中国を封じ込めることができず、中国も世界への配慮なしには立ち行かない。
 中国に国際的ルールの順守と、日米欧との真の共存共栄を受け入れさせることが目標である。日本など、民主主義国の戦略と外交手腕が問われている。北朝鮮は核実験や弾道ミサイル発射による挑発を控えている。小康状態の朝鮮半島に恒久的な緊張緩和をもたらす戦略が必要となっている。
 昨年6月の米朝首脳会談の後、非核化協議は失速した。北朝鮮に対し、核放棄が国の安定に欠かせないことを納得させなければならない。トランプ氏と金正恩朝鮮労働党委員長との再会談を含め、さまざまな対話を重ねるべきだ。日本は、トランプ氏が安易な妥協に応じないよう警戒する必要があろう。朝鮮はもとより、中露両国にも、国際包囲網を維持するよう訴え続けなければならない。
 4月30日、天皇陛下の退位で平成は幕を下ろす。30年間を総括し、内政の課題を明確にしたい。
1989年に世界の15%だった日本のGDPは6%に低下し、中国に抜かれて3位となった。人口は減少に転じ、労働力不足が深刻な地方は社会基盤の維持さえ困難になりつつある。65歳以上の高齢化率も28%に倍増している。

 読売新聞社は昨年11月の世論調査で平成時代の印象を尋ねた。「不安定」と「停滞」が「安定」と「発展」を上回った。平成の改元直後の調査とは、ちょうど逆の結果となった。まず直視すべきなのは、財政と金融の現状だ。長い不況に苦しみ、財政に依存し過ぎた結果、国と地方の長期債務残高は1100兆円を超えた。日本銀行の金融緩和も長引き、低金利で銀行が苦境に追い込まれる負の側面が目立っている。
 デフレから完全に脱却し、安定的な成長を目指す。同時に、財政再建に道筋をつけ、金融緩和の弊害除去を進める。政府と日銀、経済界が連携し、緻密な戦略を立てれば不可能なことではない。
 景気の持続的押上げに欠かせない個人消費は低迷から脱していない。将来不安に備え、財布のヒモが固くなっているからだ。医療、介護、年金は、持続可能であると、国民が実感できるようにしたい。長寿化で給付の受け手が増え、支え手が減った以上、負担と給付のバランスを取り戻すべきだ。痛みは伴うが、将来世代へのツケを軽くできる。
 社会保障制度を支える消費増税が10月に控える。89年に3%で始まった税率は30年間で10%に達する。消費税は所得税より幅広い層が負担し、景気変動に左右されにくい。超高齢化社会の安定財源であることを周知すべきだ。日本は幸いにも、社会の極端な分断、極右、極左勢力の台頭、深刻な格差といった、欧米にみられる混乱を免れている。安定した社会を、治安の良さや、教育への熱意、勤勉の尊重といった美点とともに次代に引き継ぎたい。